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ライオン、そら、もじゃもじゃ

むかしむかしある山にライオンがいました。ライオンはこの辺りで一番強く、獰猛で、目にはいるものはうさぎだろうと、容赦なく襲いかかりました。ライオンが睨めば太陽さえも沈んでしまうほどでした。

ある日、ライオンは気がつきました。そらはずっと自分のことを見下していると。そのため、ライオンはそらに向かって吠えました。

「やい、そら!貴様は俺様のことをずっと見下してやがるな。俺様が気づいてないとでも思いやがったか!なめるんじゃねぇぞ、俺様はここいらで一番強く、獰猛なんだ!俺様が睨めば太陽だって沈むんだ。しかしだ、貴様は昼だろうが夜だろうが俺様を見下ろすことをやめねぇじゃねぇか、貴様、俺様のことを馬鹿にしやがってるな。今に見ろ、ただじゃおかねぇぞ!」

ライオンはその日から毎日毎日そらに向かって吠え続けました。ライオンの狩りは必要最低限になりました。そのおかげで、辺り一帯は動植物が盛んに繁殖しました。

草木はみずみずしく、生態系は調和を取り戻し、豊かな風景が広がります。

「やい、そら!いつまでそう俺様のことを見下すつもりだ、うんともすんとも言わねぇでよ!」

そうしてたまに小高い岩に登ってはそらに襲いかかろうとするライオンのことを、動物たちはかげで同情していました。しかし誰もライオンに近づこうとするものはいません。近づけば食べられてしまうからです。

そうして、ライオンは何十年もそらに向かって吠え続けました。そらは一向に黙ったまま、時には雨を降らせ、時には満点の星屑を降らせました。
曇りの日はライオンは少し得意気でした。

「はん!なんだ、怖じ気づいたか、姿を隠しやがって臆病者め!しまいには泣き出しやがる!どうだ!俺様の怖さを思い知ったか!今にお前を食べてやるからな!いくら泣いたって許しやしない、俺様はここいらで一番強いからだ!」

その後もずっとライオンはそらに執着し続けました。ライオンのたてがみは伸び放題。もじゃもじゃで時にはライオンは自分の腕が絡まってしまうほどでした。身動きがとれなくても、歳をとってもライオンは威勢がよいままでした。

「わしのこのたてがみを見よ!これまで数々のライオンがいようが、ここまで立派なたてがみを蓄えたライオンはいない!わしはここいらで最も強く、気高いライオンなのじゃ!やいそら!聞こえておるのか!」

そんなライオンの元へ、一匹のうさぎがやってきました。

「ライオンさん。お話を聞いてください。」

「黙れ!うさぎなんぞがこのわしに説教するなどお門違いにもほどがある!」

「ライオンさん、どうか聞いてください。」

「貴様、薄汚い若うさぎが、可哀想に、ここいらで一番強く、獰猛で、気高いこのわしを知らないのだな。無理もない、貴様は若い。しかし、この世には知らなかったでは済まされないこともある、わしの胃袋の中で、勉強を怠ったことを嘆くのだな!」

そう言うとライオンはうさぎに飛びかかりました。
うさぎはヒョイッとライオンを避け、充分な距離を取りました。ライオンはうさぎを追いかけようとしますが、たてがみのもじゃもじゃが手足に絡まり、うまく身動きが取れません。

「貴様!卑怯者め!逃げるのだな!昔のうさぎは死ぬとわかった時には潔くその血肉を差し出したものだぞ!その精神はなくなったのか、愚か者め!不勉強の怠け者!貴様のようなひ弱なうさぎがいると動物界全体にとって悪い!潔く、その身を差し出せ!わたしの血肉となるのが最善だと気づかんのか!薄汚れた種族め!」

「ライオンさん、どうかお話を聞いてください。」

「黙れ!たてがみが絡まって手足が動かせん!なにをボケッと突っ立っておるんじゃ!手伝わんか!愚か者!ばか!間抜け!」

うさぎはライオンをじっと見つめ、踵を返し、森の方へと駆け出しました。
ライオンはうさぎが逃げた方へずっと吠え続けました。

しばらくして、山火事が山を飲み込んだのでした。

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