限界集落、マッコリ、500年後
我輩は、伝説のマッコリが眠る、限界集落を目指している。古文書によれば、伝説のマッコリは飲めばひとたびありとあらゆる病をも治してしまう力があるという。
我輩の父上は持病であるアトピー性皮膚炎をなんとしても治したいがためにありとあらゆる治療法を試したがどれも効果が見られずであった。
血まみれのベッドの上で、父上は「ツルピカモチモチ肌になりたかった」と言い残し、事切れた。
なんの因果か、我輩にも過酷なアトピー性皮膚炎が発症し、入念なケアをするものの決してツルピカモチモチ肌とは程遠い。
我輩も父上よろしくあらゆる治療法を試していた。そんな中、父上もかかっていたある陰陽師がこのように申した。
「そなたの父上がそうであったように、そなたも呪いにかかっておる。そなたらの先祖はかつて猫神の土地を荒らし、そこに家を建て繁栄した。繁栄と引き換えにそなたらは自らの存在自体を消すまで掻き続けなくてはならなくなったのだ。」
その陰陽師いわく、猫神には伝説のマッコリが利くとのこと。古文書は陰陽師が見せてくれて、A4に縮小コピーして渡してくれた。
大学で日本古代史が専門であった我輩は、父上よりもスムーズに古文書を読解し、いよいよ伝説のマッコリが眠る可能性の極めて高い限界集落を突き止めた。
「おめぇ、見ねぇ顔だな」
そこにはツルツルモチモチ肌の男が1人立っていた。
手にはマタタビを持っていた。
500年後。
「ばあちゃ、なんでうちはこんな辺鄙な土地でやっとるの?」
「うちは代々そーなのよ」
「つっても、こんな辺鄙な土地で猫カフェしたところでお客さんなんてこねーよー」
「お客さんが来ることよりも、猫カフェするのが大事なんよ」
「なんでだよー、お客さんこねーと意味ねーやんか」
「まったくあーのこーのとうるさい子だねぇい」
トンッ
「しかもうちだけ未成年やのにマッコリ飲んでもええし」
「それはうれしいやろ?」
「うれしい」
「マッコリ飲まんと、うちら消えてしまうみたいだでね」
「消えてしまうん?」
「だから猫カフェもやっとるみたいよ」
「そーなん」
「そう」
「おいら犬カフェがしてーや」
「犬はアカン」
「なんで」
「犬は爪が短い」
「なんそれ」
「もうずっとそうしてきてんねんよ、そう文句言わんと手伝ってちょんだいな」
「手伝うよ、手伝う」
猫カフェ『モチモチの木』は今日も開店した。