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小説・戯曲

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#恋愛

しょうがないことの夜

名古屋駅で見上げた夜は高いビルと高いビルの間で窮屈そうにしていた。

ぼくは大学3年生で、こうして夏休みになったら地元に帰っては、高校時代のときの友人と久しぶりにお話をしていたりする。川内さんとはそんなに高校時代にすごい仲がよかったわけではないが、大学生になってからは、なんかそういうノリで、飲みに行こうとなったりする。

川内さんは正直タイプだった。大学生になってようやく私服姿の川内さんを見たが、

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消耗

消耗

マサキがアクセスした先にいたのは彼女だった。そのサイトには明らかに彼女が写っている。マサキの見たことのない表情で、マサキの見たことのない姿で彼女が写っている。マサキは心底裏切られたような心地になって岩本町で乗り換えた。

きらびやかに色とりどりに発光する広告に映る全ての女性が彼女と重なって仕方がなかった。どれもこれもがマサキのことを笑っているように思えた。マサキは彼女を抱き寄せたこの身体が憎らしく

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自動白山羊ラブレターシステム

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いきなりだが、君のことが好きだ。

こうも煩わしい台詞はついぞ聞いたことがないように思う。私にとって恋心なるものは下心なるものとほとんど同義であった。他者に送られる愛情という名の欲情に扇情されてこうも人は理性的でなくなるものか。これが近代を引きずっている人間とは思えない、いや、むしろオートメーションという意味で非常に近代的だと言って差し支えないのかもしれない。

あなたのことは嫌いではない。だが、

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