KIDSLINE 男性シッター停止に、当事者として思うこと
大手ベビーシッター仲介サービス「KIDSLINE」を舞台に、日々メディアやSNS上でたくさんの議論が交わされている。
子どもを狙った卑劣な犯罪は決して許すことはできない。許してはいけない。
被害に遭ったこども。そして親御さん。その心の傷は計り知れない。
ただ、そんな中、KIDSLINE社が打ち出した対応には、落胆を覚えた。
「KIDSLINEに登録する男性サポーター(KIDSLINE内でのシッターの総称) 一律で、登録及び予約を停止する。」
男性差別、雇用均等機会、プラットフォーム形式の企業の在り方。
いや、そんなことは本質的にはどうでもよくて。
何故なら、自分自身が、「登録を停止された、男性サポーター」だから、である。
初めに言うべきは、KIDSLINEの経営判断である以上、自分に何か決定権やその判断を覆す力があるわけではない。
しかし、KIDSLINEの謳う理念に共感し、今日まで活動を続けてきた自分に、
「未だ、電話等での個別連絡はなく一律の停止アナウンス」
個別の事情説明を行っている、と言っているKIDSLINEの実態は、その程度のものである。
黙ってはいられない。しかしどうしたらいいか。悩みは大きかった。
そんな時、SNS上で真っ先に声をあげてくれた一人のKIDSLINEシッターが、自分の気持ち・混乱や落胆を、まずはありのまま、ただ伝えるべきだ、と言ってくれた。
正直、自分の頭の中は ぐっちゃぐちゃで、それをただぐっちゃぐちゃに羅列しているが。今の素直な気持ちである。
略歴
ぎりぎり平成うまれ
千葉の先っぽ出身 4男1女の2番目、次男坊。
趣味はギターと音楽鑑賞。コロナが落ち着いたら、早く大好きなバンドのLIVEに行きたい。
保育に興味を持ったのは、小学6年生の時。近くの幼稚園の先生に「君は、”保父さん”とか向いてそうだね。」と言われ、「”保父さん”って、なんだろう。」と、夏の自由研究で職業体験を行った。その後、教員を目指していたが大学受験に失敗・・・親類の勧めで保育の専門学校へ。実習や保育園でのアルバイトを通じて、保育の面白さ・喜びを感じ、保育の世界で生きることを決める。
卒業後、都内の私立認可保育所で7年間(同一法人3施設)勤務。乳児保育多め。
その後KIDSLINEシッターとして約3年間、民間学童保育にて約2年間勤務。
男性蔑視の世界
私が、保育の世界に入ってから先輩の女性保育士に言われた、自身の心の中に突き刺さって忘れられない言葉がある。
「あなたは、男だから。保育の世界では、それだけでマイナスのスタートなんだからね。」
仕事のミスや、書類の不備とか、もちろん自身の非はあった。しかし、ただただ「男だから」という存在の否定。その後の自分の立ち位置を恐れて、反論はできなかった。ただ、その言葉が強烈にショックだったから、何も言えなかった、だけかもしれない。
ただ覚えているのは、その先輩は「何も間違っていない」自信に満ち溢れた表情だった。
それでも辞めなかったのは、子ども達の存在である。
右も左もわからない新人保育士時代、人見知りと場所見知りで泣き続けていた、0歳の女の子がいる。彼女が、たまたま抱っこした自分の手の中で、少し穏やかに、初めての午前睡をしてくれた。どうにか布団に下ろせるかな?といったクラス担任との会話、その瞬間に、ハッと顔を上げ、でも泣かずに、自分の顔をジ・・・と見つめる。「わたしのこと、おろさないでね。だっこしててね。」
彼女の保育園生活で、初めての笑顔は、その日の自分の腕の中だった。
それから、少しずつ彼女の生活の場は、少しずつ広がっていったが、あの時の彼女のほほえみはまぎれもなく自分を肯定し、彼女を守る力をくれた。そして、それから先、現在に至るまで自分の見てきた子どもたちを、守る力をくれたとずっと感じている。
KIDSLINEとの出会い
長く務めた保育園を辞め、半年は日雇い労働でどうにか生活を、ぎりぎりの状態で過ごした。
アルバイト尽くしの学生時代から、本当に休まることがなかった。ひと時の安穏とした日々を過ごしたが、さすがに生活が成り立たなくなったので、転職活動を開始した。他の業種も色々と調べた。でも、どうしても、保育の世界は忘れられなかった。
ある日、日雇い情報サイトで見つけた「イベント保育」の仕事。大型イベントでの託児サービスのための、保育者募集の業務だった。その日は都合がつかず、その仕事には応募できなかったのだが、どうしても気になって調べた。派遣会社かな?雇用なのかな?色々な情報を見ながら、ふとみつけたのが、KIDSLINEだった。
今ほど「ベビーシッター」が日本国内で広がっていない当時、興味本位もあったのだろう。一縷の望みを抱え、サイトを見ながら気づけば登録会への申し込みが、終わっていた。
それほど、KIDSLINEを見つけたときの自分の心は、昂っていた記憶がある。
「自分に合った働き方」を保育の現場で広げていこう。KIDSLINEの打ち出した理念に、「あなたは、保育に携わっていいのだ」と肯定されたような、気がした。
サポーター活動を振り返って
本社登録会とトレーナー研修を経て、2017年9月、KIDSLINE登録シッターとして、活動を開始した。
当時の自分の気持ちは「まあ、徐々に依頼が増えればいいかな。少しずつ、前に進もう」
しかし驚いたのは、思った以上に、スケジュールはあっという間に埋まっていった。当時の時給は資格有、1200円。安さもあったのだろうとは思う。
のんびり自分のペースでと思っていたシッター活動は、日々都内を、時々都外を、駆け回り忙わしない日々であった。初めは、空いているスケジュールと時給の安さから頼まれていたのだろう、と正直思っている。
11月にはほとんどが定期の依頼で、たくさんの方のリピートをいただいた。12月には、開始してたったの3ヶ月目だったが、1200円の時給を、2000円に値上げした。正直、朝から晩まで一日3~4件回り、自分のペースを取り戻したい気持ちも。何度もお世話になったペアレントにも、相談をして、値上げを決定した。
減るかと思った依頼も、多少少なくなったとは言え、翌年3月には、売上25万オーバーを達成した。
基本的には、定期依頼が多かった。ダブルワークになる前は、週5、平日の夕方~夜間までは、毎週それぞれ家庭に伺い、朝から晩まで、相変わらず都内を駆け回る日々だった。それほどまでに、日々の生活の中で「シッター」という存在が根差している家庭が、確かにあり、その人たちが、この自分に声をかけてくれていた。
6/17水曜日 現時点で、直接の電話は、未だない。
まず、前書きで述べた通り、KIDSLINEは全男性登録者に連絡をした、と述べているが、自分のところには最初の全体アナウンス(「弊社の対策について、というタイトルの全員一律配信」、次いで即日送った問い合わせに対する定型文メール(「長岐に渡り多大なご尽力をいただいた中で大変心苦しい回答となりますが、本判断につきまして、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。」返信がきたのは、6/9(火曜) 発表から5日後である。)
そもそも、何故ここまでこの判断に落胆し、憤りを覚えているのか。
サポーター活動を始めて間もなく、本社からの電話があった。内容は「男性シッターを増やしていきたい。そのため、本社インタビューを受けてくれないか。」自分に力になれるかはわからなかったが、今、保育者として迷っている人。シッターになってみたい人。男性の中にもたくさんいただろう。自分が居場所をもらった、次は自分がきっかけでもいいのではないかと受けることにした。拙く語ったシッターへの想い。男性として、一保育者として。
あのインタビューは、今、削除されている。
新米パパに向けたアドバイス、というキッズライン経由のネット雑誌インタビューも受けた。
彼らは、確実に、男性シッターの活躍を促進し、男性の育児参画を求め、自分は協力してきた。「男性シッター」を、増やすのが、KIDSLINEの方針だったはずだ。
「男性だからマイナスなんだよ」 その言葉が「男性だから、あなたはここにいるんだよ」と姿を変え、自分の活力になっていったことは、間違いないのだ。
今、それは無かったことになっている。
KIDSLINEに共感し、協力してきた身に、あっけなく。
「裏切られた」 この一言である。
「男性」保育者の在り方
「保育者は“男”でもなく“女”でもなく、“保育者”という性別なのだ」という言葉をどこかで見つけて、感銘を受けた。
それぞれの役割はあるが、我々のするべきことは「保育者」であることなんだ、と。
まず、KIDSLINEにおいて保育士資格の有無は、正直選択されやすい。今回の逮捕者二人も、有資格者であり、選択肢として十分にあり得る存在だったことは、想像に容易い。
今までを振り返るにあたり、「男性」だから、自分を選んできたペアレントはどれくらいいただろうか、とふと考えた。
「男性」希望で選んでくださったペアレントももちろんいるが、よくよく考えたときには、実はそれほど多くないという印象がある。「今日、何とかならないですか。」「明日、きてくれませんか。」緊急の預け先に困って、藁にもすがる思いのペアレント。もしくは、定期サポ―トで、希望のスケジュールが空いていた。交通費との兼ね合い。近いから。病後児対応しているから。選ぶ理由は、その家庭にしか、存在しない。
「それなら男性である必要はない」その通りだと思っている。正直、たまたま空いたスケジュールを、募集掲示板で希望者に声をかけたことがあるが、その答えは「申し訳ないが、男性は辞退させていただく。」その意見には、悪意は感じなかった。それは、えらぶ側の意志なのだと、素直に受け止めた。
一方、選んでくれた人は、はじめは「男性」であったとしても、続けて呼んでくれているのは「貴方だから」と言ってくれる人が多い。「こどもが、会いたいと言っている」と、1年越しの依頼だってある。そのことが、何よりの救いであり、肯定であり、自身に課された責任であると感じている。
もちろん、男性だから、できること、できないこと、があることは理解している。
男性だから、望まれていること、も理解している。
しかし、それ以上に、どのインタビューにおいても答えてきたのは
男、女である以上に“人”として子どもたちと関わっていきたい。
その思いをずっと、もっている。
「つぎはいつくるの?」「まだかえらないで」
子ども達の言葉は、自分の活力であり、あの時の新人保育士時代に感じた肯定と、子ども達を守る力を、ただただ感じる。
今、KIDSLINEの決定を残念に思い、声を上げようと思ったのは、男性だからではなく、個人として、子ども達のそばにいたい、その気持ちだけだから。
一律停止が、今すぐに解除されることはないと思っている。社会の声、子育てをしている当事者の声、保育者の声、色々な声を、どのように集約し、これからの本当に「安心・安全」な子育て支援を作り上げていくべきか。
それを、ペアレント、保育者、双方の言葉で、作り上げていきたいというのが、現時点での願いである。
最後に
正直、自分自身、これからどうするのか、まったく先は見えていない。 KIDSLINEに何を求めるのか、二件目の逮捕でわからなくなってしまった。
声を上げようとも思えないほどの無気力感は、確かに存在する。
しかし、この文を書くにあたり、勇気をくれ、道筋を立ててくれた人がいる。
今回の男性シッターの一律停止に真っ先に声をあげ、間違いを正そうとしてくれた。彼女自身の身の上を、彼女自身の言葉で、素直な感情を訴えてくれた。
彼女の勇気と、正義に、心からの感謝を。
また、たくさんのシッター仲間・ペアレントの方々が声をあげてくれている。
背中を押してくれる人たちのために、今回こうして文章を綴ってみた。
当事者である、男性シッターの声として届いてほしい。
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