井本響太 藤元高輝 ギターデュオコンサート 解説 F.ソル: ロシアの思い出 op.63
2023年 8月5日 井本響太さんとのデュオコンサートために、noteで随時プログラムノートを公開します
ソルの最後の作品である「ロシアの思い出」はソルがロシアにいたときに聞いたとされている2つのメロディーが使われた幻想曲です。ソルのギター二重奏作品は沢山ありますが、大規模な2重奏の幻想曲は4曲あり、どれも序奏、変奏曲、終曲という3部構成です。そのうち終曲は何らかの踊りが採用されます。
ロシアの思い出の序奏ではよくあるオペラの序曲のように、これからの物語がどのような展開が起こるかが示唆されています。
変奏曲はテーマと9つの変奏から成っています。様々なスタイルや性格で作曲されていますが、ストーリー性のような連続性があるようにも思えます。
終曲で使われている踊りはカマリンスカヤです。短いフレーズが繰り返しながら発展して行く音楽で、西洋風に言えば「変奏曲」と捉えることも可能なのではないかと思います。同じ旋律に異なる伴奏や和音がちょっとずつ変化していく様は非常に地味ではありますが、ソルの作曲能力の高さを物語っています。
詳しい分析や背景については、現代ギター2023年2月号と3月号に益田展行さんの興味深い分析があるので、詳しく知りたい方はそちらを読んでみるのがオススメです。
さて、全てを語り尽くすには物凄い量になりますので、どのようなポイントに注意して取り組んでいるかを簡単に説明しようと思います。
ソルが生きた時代は古典派からロマン派にかけてです。音楽を音楽として楽しむ音楽(絶対音楽)から音楽から情景などを想像して楽しむ音楽(標題音楽)が生まれたような時代です。標題音楽の代表的な作曲家と言えばベルリオーズがいますが、ソルはなんらかの形でベルリオーズの演奏会に参加していました。ソルの他の後期作品からもベルリオーズの影響と感じられる箇所は数多くあります。「ロシアの思い出」でも直接的ではないものの、表題音楽を思わせる音楽の動きが感じられます。
また若い頃、モンセラート修道院時代に勉強した作曲技法はソルが生まれる時代の前のスタイルで、その影響からか変奏曲の一部では二人で5声部を扱う複雑な場面もあります。それ以外にも、バロック時代で使われているようなリュートの奏法を想起させる音型も多々あります。
その他にも歌の先生としての活動やバレエ音楽の作曲等、ギターという枠に囚われない音楽キャリアを築きました。これらのソルの活動は非常に興味深いと思う反面、ソルの作品を演奏する際に解釈上非常に悩ましいことがあります。というのも、どの部分からソルが影響を受けているかを譜面上で見極めなければいけないのです。特に「ロシアの思い出」は上記の全ての要素が入っています。それに加えて同じ音型でも西洋風なのかロシア風なのかという繊細な書き分けがされているのです。
このように「ロシアの思い出」にはあまりにも様々な要素があります。ですので「ロシア」だけに限定しないソルの個人的な別の「思い出」がこの曲の中には存在する気がしてなりません。また、演奏を通じてソルがどんな人物だったかというのがもしかしたら見えてくるかもしれません。
井本響太 藤元高輝 Guitar Duo Concert
場所:現代ギター GGサロン (要町)
日時:2023年 8月5日 19:00開演
一般/前売り/当日:3000円/3500円 (学生/1000円)
プログラム
F. ソル : ロシアの思い出 op.63
M. ジュリアーニ : ポプリ op.67
J. ハイドン : 交響曲「ロンドン」より第一楽章 (F. カルリ編)
A. ジョリヴェ : セレナード
M. ガンギ : イタリア組曲
J. フランセ : 2つのギターのためのディヴェルティスマン