井本響太 藤元高輝 ギターデュオコンサート 解説 J. ハイドン : ロンドン交響曲より 第一楽章 (F.カルリ編)
2023年 8月5日 井本響太さんとのデュオコンサートために、noteで随時プログラムノートを公開します
ハイドンの交響曲で「ロンドン」とだけ言うと二つの意味があります。一つはハイドンが晩年にロンドンで演奏するために作曲した12曲の交響曲群の事で、もう一つはその12曲の交響曲のうちの最後の交響曲である104番のタイトルとしてのロンドンです。
この104番のロンドンは当時から非常に人気でさまざまな編曲がありました。フェルディナンド・カルリのこの編曲もその一つです。ちなみに個人的な感想ですが、この編曲はギターのための編曲の中でも、最も良くできた編曲の一つだと思っています。ギターの本来の良さというものがこの10分弱の編曲にほぼ全て入っているのではないかとすら思います。なぜそう感じたのかを少しだけ書いてみようと思います。
今日、クラシックギターの編曲は、ArrangementというよりはTranscriptionと言われることが多いです。「意訳」ではなく「直訳」的な編曲が主流になったと言えます。
この背景には楽器や弦の発達が関係しています。以前の楽器よりも等質に大きな音を出せるようになりました。弦も同様に質が上がり、音程の狂いも少なくなりました。それによってテクニックも発達していろいろな音をつかめるようになり、以前の表現とは別の方向性での可能性がたくさん生まれたのです。表現力という点では失ったものもありますが、いままでギターでは弾けなかったピアノやオーケストラなどの作品をギターで演奏することに挑戦するきっかけとなりました。
では19世紀、カルリの場合はどうでしょうか?
19世紀のギター編曲に共通して言えることですが、演奏が難しい箇所はギターらしく置き換えられることが非常に多く、さまざまな工夫がされています。例えば、ギターらしく普通に弾くだけでオーケストラの音響を模倣している音型や、逆にギターで演奏することが不可能と判断されたものは、全く違った音でありながら似た印象を残すギターらしい音に置き換えられることもよくあります。このようにギタリストならではのアイディアが詰め込まれているのです。また、現代では使われていない当時の奏法を研究するという観点からも、このような編曲に取り組む事は非常に興味深いです。
ざっくり言うと演奏しやすくシンプルだけれどもしっかりと本質を捉えているというのが19世紀のギター編曲の特徴と言えるかもしれません。当時、アマチュアにもギターは大人気だったので、彼らが演奏するための工夫とも言えるでしょう。あたかもギターのために作曲されたかのような仕上がりは本当に名人芸です。
しかし、ここまではギター側の話でした。肝心のハイドンの音楽面は一筋縄でいかないところが非常に難しいところです。ギタリストは、ハイドンがどのような工夫を凝らしていたのか、どういうことを望んでいたかを理解し、あたかもオーケストラが鳴っているかのような音響をイメージしながら様々な問題をクリアしなければいけません。
オリジナルのオーケストラを知っている方は是非オリジナルとの違いや「らしさ」を感じて楽しんでいただけますと嬉しいです。また、オリジナルを知らない人はどんな楽器が鳴っているかを想像しながら是非聴いてみてください。
井本響太 藤元高輝 Guitar Duo Concert
場所:現代ギター GGサロン (要町)
日時:2023年 8月5日 19:00開演
一般/前売り/当日:3000円/3500円 (学生/1000円)
プログラム
F. ソル : ロシアの思い出 op.63
M. ジュリアーニ : ポプリ op.67
J. ハイドン : 交響曲「ロンドン」より第一楽章 (F. カルリ編)
A. ジョリヴェ : セレナード
M. ガンギ : イタリア組曲
J. フランセ : 2つのギターのためのディヴェルティスマン
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