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井本響太 藤元高輝 ギターデュオコンサート 解説 A. ジョリヴェ : セレナード

2023年 8月5日 井本響太さんとのデュオコンサートために、noteで随時プログラムノートを公開します

以下、井本響太さんによるジョリヴェの解説です:

Sérénade pour deux guitares(1956)
André Jolivet (1905-1974)

アンドレ・ジョリヴェはフランスの作曲家。彼は幼少期よりピアノ教師である母からピアノの手解きを、教区神父より和声学を学ぶが、アカデミックな音楽教育を受け始めたのは師範学校の後に兵役を終え、一度は教師の職に就いた後である。この間もソルボンヌ大学で哲学に触れ芸術・創作への意欲を募らせていた。

その彼が音楽への道を進む契機となったのはポール・ル・フレムとの出会いでフレムから近代的な和声学と対位法を学び、エドガー・ヴァレーズを紹介してもらい師事する。ジョリヴェの作品にはヴァレーズから受け継いだ技法が散見される。その中でも最も印象的で特徴的なのは打楽器への偏愛であろう。今回演奏するセレナードにも打楽器的な効果を狙ったであろう音響が目を引く。

彼は調性に固執したフランセとは対照的で調性からの開放を目指し、当時支配的であった新古典主義に対抗し「若きフランス」というサークルを起ち上げ自由な人間性を勝ち取ろうとしていた。
彼は呪術や呪文に大きな興味を抱いており、彼の韻律、ましてや歌とは全く違う独特な旋律の扱い方はこの頃の研究からの影響であろう。

今回演奏するセレナードの版について

この作品は1959年にHeugelより出版されているが今回演奏するにあたっては直筆譜面を使用した。この直筆譜面は数年前にパリ国立高等音楽院付属図書館が主催したアンドレ・ジョリヴェのギター作品における直筆譜面と出版譜面の差異と称し両方の版を続けて演奏するコンサートが催された際に出版譜に変更点を書き写した物である。
驚くことに誤植と呼べるものは一つも見当たらなかったが1st、2ndパートで多くの入れ替えが行われていた。これは初演を行ったアレクサンドル・ラゴヤとイダ・プレスティにより加えられた変更である為、今回はジョリヴェが最初に指示したパート割で演奏する。

本作品は4つの曲から成り、


  1. Præludio e Canzona

  2. Allegro Trépidante

  3. Andante Malinconico

  4. Con Allegria

となっている。

全体の構成は緩-急-緩-急と交互に置かれ大きなコントラストがそれぞれの楽章間でもたらされる。

第1曲
冒頭数小節に渡って3拍4連を伴った和声が連続して奏でられた後、経過区的な素材に導かれて独特な歌いまわしによる旋律が奏でられる。その伴奏形は冒頭とは異なり、リズミカルに旋律を支えている。

第2曲
所謂ジョリヴェらしさを存分に感じることが出来る。リズミカルで打楽器的なテクニックを多用し、細やかなダイナミクスの操作により遠近感を引き立てている。楽章を通じて常に切迫感を煽り続け最後には些か暴走ともとれる程に急速に密度を増し、そして一気に解放される。

第3曲
ここでは神秘的で呪術的ともとれる旋律が曲を支配している。全体を通して厳かな雰囲気が保たれているがどこか決然とした印象を受ける。これはジョリヴェ独特の旋律に拠るものが大きい。一見するとただ羅列された音の様にも見えるが、実は各音がそれぞれ強い求心力を持ち、お互い引き合うようにディレクションを一度も途切れさせずに曲の終わりまで緊張感を運び届ける。

第4曲
曲を締めくくる終曲では再び打楽器的な効果を狙ったリズミカルな楽章となっている。伴奏形のリズムも特徴的でブルースやゴスペル、ジャズ等からの影響も感じられる。冒頭から聴かれる和声が移行されて姿を見せたりする等、ジョリヴェなりに形式的な枠組みを持たせようともしたのであろうか…。
第2曲と同様に強い切迫感を持った楽章ではあるが更に暴力的で狂気的。ダイナミクスは限界を越え、速度もまた同様に限界点は定められていない。暴走に身を任せ、振り返る隙も与えずに一気に終わりへと向う。



井本響太 藤元高輝 Guitar Duo Concert
場所:現代ギター GGサロン (要町)
日時:2023年 8月5日 19:00開演
一般/前売り/当日:3000円/3500円 (学生/1000円)
プログラム
F. ソル : ロシアの思い出 op.63
M. ジュリアーニ : ポプリ op.67
J. ハイドン : 交響曲「ロンドン」より第一楽章 (F. カルリ編)
A. ジョリヴェ : セレナード
M. ガンギ : イタリア組曲
J. フランセ : 2つのギターのためのディヴェルティスマン

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