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メディカルアフェアーズってなんなのだろう?

メディカルアフェアーズ(MA)部門は2000年代後半から2010年代にかけて国内の各製薬会社で設立され、今ではそのポジションも定まってきた感があります。

日本製薬医学会(JAPhMed)のHPには、以下の役割が挙げられていました。

  • メディカル戦略の構築と実行

  • 有効性・安全性情報の収集・分析

  • 医学薬学専門家との意見交換

  • 当該医薬品等に関するエビデンスの構築

  • 疾患の啓発活動

  • 医学専門家としての資材(情報提供資料)の検証

  • アンメットメディカルニーズを発掘し解決する等の社会貢献

まあ、確かにそうなんだろうなと思いつつ、エビデンス構築を除くほとんどの活動はマーケティングなどコマーシャル部門でも日常的に行われていることです。
MA部門の活動は、サイエンスをベースに中立な立場で行われるという大前提がありますが、多くの会社ではメディカルプランとブランドプランがアラインしているため、コマーシャル活動と無縁というわけにはいかず、根っこの戦略は共有しているというのが実際のところではないでしょうか。
また、コマーシャル部門にサイエンスが無いかというと、そんなことはなく、彼らの疾患啓発活動もエビデンスに基づいていることは言うまでもありません(そうでなければ社内審査に通らない)。専門医の監修を入れて内容の適切性を担保することも多々あります。

そうなると、「MAの役割って何?」、「なぜ、わざわざコマーシャルと分ける必要があるの?」という話で、実際に少なからずMA部門の社員は、自らの存在意義に悩むことがあるのではないでしょうか?

この記事では、MA部門が持つ価値とその未来について整理してみました。

MAが提供できる価値

1.疾患啓発、適正使用推進のための活動に深みが出る

やはり、MA部門には専門性の高い社員がゴロゴロいるものです。
その領域で10年近い経験を持った社員、臨床経験豊富なMD、開発に明るい元CRA、などなど。
こういった社員が活動に加わることによって、例えば講演会のテーマ設定が的を得たものになったり、資材の啓発ニュアンスがよりバランスの取れた内容になったりします。
マーケティング社員は元営業やコンサルタント出身者が多く、製品の担当交代も頻繁にあるため、どうしても活動内容の深みに欠ける場合があります。
そうしたときに、専門性の高いMAの人間がチームにいると大きな助けになるというわけです。

しかし、MA部門もなかなかに異動や転職が多い部署です。
目まぐるしく変化する製品のラインナップとライフサイクルに合わせて常に専門性の高い人材を揃えることは容易ではありません。
そうすると、MAの人なのに、専門性は??みたいなことも現実的にはざらにあります。


2.レギュレーションへの対応

厚労省が発出している販売情報提供ガイドラインでは、適応外、未承認薬に関する情報提供は通常の営業活動とは切り分けることとされ、情報提供はあくまで顧客からの求めに応じたリアクティブなものであることが定められています。
このようなレギュレーションに対応するため、MA部門がこれらの情報提供活動に当たる会社が多いと思います。
一昔前には、適応外推奨による処方獲得や他社品誹謗中傷が横行していた時代があったと聞きますが、現在はそういったセンシティブな内容は中立的な立場のMA部門が担うことで、レギュレーション上の要求に応えつつ、顧客からの信頼醸成にもつながっていくというわけです。

医薬品販売というのはゴリゴリの規制産業ですので、情報提供活動はポジティブリスト(あらかじめ定められた、「してよいこと」の範囲内で活動が可能)の様相が強く、適応外の情報というのはその意味でリスト外の活動です。
添付文書という究極のポジティブリストがある中で、そこから少しでも外れると適応外となるため、顧客訪問活動の中で、これらに遭遇する場面は意外に多いものです。

  • 小児に使用した場合のデータが欲しい

  • 添付文書の投与速度よりも早く投与した場合の安全性は?

  • 投与頻度を減らした場合の有効性、安全性データは?

など、明らかな適応外使用ではないものの、日常診療での必要性から適応、用法用量外となってしまうことは珍しくありません。
このような場合に、社内外の様々な情報源(論文、学会報告、PSUR/PBRER、CTD などなど)にアクセスし、いち早く中立的な情報を届けるための役割というのは確かに、重要でしょう。

また、もう一つ重要な観点が開発品のローンチ準備に関する活動、いわゆるプレローンチ活動です。
これも、未承認薬に関する情報活動であるため、営業部門は関与することができず、多くの会社ではMA部門が大きな役割を果たします。
一昔前には、アドバイザリー会議などの名のもとに、未承認薬のプロアクティブな情報提供活動が横行していたという話も聞きます。
そこで、レギュレーションに則って、適正に必要なローンチ準備活動ができるように、MA部門がその役割を担うというわけです。

しかし、期待の新薬であればあるほど、MAにかかる期待(圧?)も大きく、ローンチの成功≒売上の最大化を目指す上で、少しでも開発品の露出を(ルールの範囲内で)増やし、重要Dr(KOL)の期待を高めることがMAにも求められます。
MAが行うから中立かというと、これは本音と建前がかなり入る部分かと思います。

3.エビデンス創出

これはMA活動の一丁目一番地なので、言わずもがなです。
過去のディオバン事件やCASE-J試験が有名ですが、コマーシャルの目的が強くなりすぎると、どうしても不適切な事例が発生してしまいます。
エビデンス創出を適正に実施することは、メディカルアフェアーズ部門の最も重要な役割の一つです。

R&Dがこれを担うケースもあるとは思いますが(もしくは、開発の中にメディカルアフェアーズ部がぶら下がっている)、彼らの役割はあくまで創薬なので、製品に直接関連のないデータを含め市販後のエビデンス創出を積極的に行うには独立したメディカルアフェアーズ部門の存在が欠かせません。

メディカルアフェアーズ部門は今後どうなる?

さて、こうしたMAの役割が今後どのように変わるのか、個人的な所感を記載しようと思います。

MA部門が設立されて10年以上になる会社も多くあります。
転職市場も黎明期のように、未経験者がどんどん採用されるような状況ではなく、より専門性と業務経験が問われるようになってきています。

組織としてある程度の成熟を迎えた今、これまでと同様にコマーシャルと重複した活動の在り方が良しとされるのか、正直疑問です。
昨今は薬価制度による国内の収益性低下を受け、多くの会社で早期退職による人員削減が行われています。
経営的な視点で考えると、MAを置く価値が本当にあるのか?コマーシャルとの役割分担において、より適切な形があるのでは?といった追及があることは想像に難くありません。

私は将来MAが進む方向性としては、拡大路線か縮小均衡かの2パターンではないかと思います。

1.拡大路線のパターン

営業の役割縮小を受けて、代わりにMAの役割が拡大するこれまでの流れがさらに加速するパターンです。

現在はコマーシャル側でも行われている講演会や資材作成に加え、営業への疾患・製品教育研修もMAが一手に担うパターンですね。
この流れが進むドライバーとしては、こうした活動は中立的にサイエンスベースで行われるべきであるという原則論と、営業人員を最小化したいという効率面の両方があると思います。

海外では国内に比べMSLの活動量が高い傾向にあると思いますが、それは日本のMRと海外のsales repの役割が大きく異なることも理由の一つです。海外のMSLが担っている製品関連の情報提供活動の多くを日本ではMRが行っている現状があります。
今後は、海外に合わせて役割の多くをMSLに集め、MSLのターゲットもKOL以外に拡大する可能性があります。

ただ、それにはレギュレーションや商習慣の変革が必要ですし、これまでMRが担っていた活動をMSLが行うことに対して、お互いの感情的な反発があることも想像できます。

2.縮小均衡パターン

こちらは、これまでMAの業容が拡大してきた流れに、揺り戻しが生じるパターンです。

上で述べたように、MAの役割というのはレギュレーションの産物という見方もでき、本質的には多くがコマーシャルでも実施可能です。
であれば、無理にMA部門を充実させなくても、必要最小限だけの部隊にして、余力はコマーシャルに回せばいいじゃないか、という考えも普通にありそうです。
MAは中立という建前ですが、ブランド価値最大化の目的と無縁ではありません。
そのような本音と建て前を使い分けるぐらいであれば、本当に必要な役割だけMAに担ってもらい、あとはコマーシャルに全振りするというのは確かに合理的です。


個人のサバイバル

このように、MAという組織は今後も変化しつつ、その存在価値を問われ続けることが予想されます。
個人としては、そういった業界の流れを見定めながら、キャリアプランを描くべきですが、なかなか容易ではない気がします
製薬業界全体では、疾患領域やモダリティのトレンドもありますし、薬価制度が行末によって、業界の景行も大きく変わりそうです。

有り体ではありますが、結局のところ、目の前のタスクに全力で向き合いながら、個の力を磨くしかないのかもしれません。
メガファーマでチームマネジメントを行うのでも、バイオベンチャーで一人三役ぐらいこなしつつ組織を立ち上げていくのでも、なんでもこい、な人材になっていくことが求められているように思います。

なんとも、しんどい時代です。

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