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無知
旭岳で確信を持った自分自身の山への想い。
それまでずっと忘れていた気持ちが、封印を解かれ一気に溢れ出す。
もう、誰にも止められなかった。
旭岳から下山している間中、次の山のことを考えていた。
しかし、私には山に関する知識がなさすぎる。
自分が住んでいる北海道のどの地域にどんな山があるのか。
まずは、そこから調べようと考え、インターネットで「北海道の山」と検索。
すると、札幌近郊にも登れる山が沢山あることを知る。
その中でも特に目を引いたのが、札幌岳(1,293m)。
190万人都市「札幌」の冠がついたこの山は、市内からもアクセスしやすく、行程も往復4時間程度と書いてあった。
さっそく登ってみることにした。
行ったことのない山に独りで登ることに多少の抵抗はあったが、旭岳で友人と登った際に、独りで登りたかったという感情が芽生えたため、誰にも連絡を取らず今回は独りで登ることにした。
もちろん不安もあったが、いざ決めてしまうとそんなものはどこかへ消えてしまった。
旭岳から戻った5日後。
残暑残る8月の終わり、車で登山口まで向かう。
登山口は豊平峡温泉のすぐ近く。
時計を見ると、午後1時。
今考えると、そんな時間から登り始めること自体が非常識だが、恥ずかしいことに当時の私はとにかく何も知らなかった。
鬱蒼と生い茂った緑の中を進む。
天気も良く、土から蒸発した水分がサウナのように皮膚に纏わり付く。
それに便乗した形で、蠅や蚊といった虫たちが、ひっきりなしに訪ねてくる。
下界だったら間違いなく不快極まりない展開だが、そんな状況さえ幸せだった。
途中、すれ違う登山者から
「こんな時間から登るの?」
「独り?」
「気をつけて」
声をかけられて、そこで初めて登り始めた時間が遅いことに気が付く。
急に焦りを覚え、そこからペースを一気に上げた。
2時間後、頂上についた時には、貸し切りで誰もいなかった。
頂上はそれほど良い展望ではなかったので、着いてみて少しガッカリした。
秋の気配を感じさせる冷たい空気に促されるように、すぐに下山。
下りの道中、北アルプスで遭難経験のある、おじさんと知り合う。
なんでも、下山中に滑落し足を骨折、携帯は水没、そのまま3日間彷徨い、なんとか自力で下山したそう。
山に関する知識すべてが新鮮に聞こえる私は、そのおじさんの武勇伝に感心しきりで、おじさんが熱心に話す「キタアルプス」に興味を持った。
キタアルプス・・・キタアルプス・・・
頭の中でこの言葉がぐるぐる回っていた。
その時は、まさかその2年後、おじさんの遭難した北アルプスをテント担いで縦走することになるとは、思ってもいなかった。