DSC00815のコピー

2010.12.28 後編

バスから降り、

滑走路脇で、

ひたすら茶色い空を眺めること、ややしばらく。

飛行機なんて来ないんじゃないか??と本気で考えはじめたそのときだった。

ビィィィィィイイイイイイイイン!!!

薄茶色い膜の空を切り裂く爆音が。

私たちの飛行機Tara Airのお出ましだ。

間近で見ると、なかなか立派なプロペラ機。

給油を済ませ、キャビンアテンダントが手招きする機内へ。

来てほしかったけど、いざ来たら乗りたくない。


ラクパさん、顔が強ばっている私に、

「レッツゴーアゲイン・アンド・アゲイン」

と笑顔で先に乗り込む。

さっきまで「コウキセンセ、こわいの~??」と冷やかしていたニマさんも、若干緊張した面持ち。

座席は自由。

座席の隙間から床に垂れ下がったシートベルトを装着しようとする。

サイズ調整できず、しかも差し込み口にガムがへばりついている。

ガムを取り除き、なんとか差し込むが、肝心の「ガチャッ」という快音が聞こえない。

ビロビロに伸びきったシートベルト、差し込んでも止まらないシートベルト。

これ装着する意味全くないじゃん・・・。

気を取り直し、外の景色を見ようとしてまたも愕然。

窓ガラスに亀裂が入っており、セロハンテープで固定されている・・・。

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おいおい、本当に大丈夫かよ。

そうこうしているうちに、キャビンアテンダントが、飴玉と綿を配ってくる。

綿?なんのために?と思っていたら、みんな耳に綿を詰める。

そう、耳栓なのです。

もしかして、私は今、とんでもないものに乗り込んでしまっているのでは・・・と不安で身がよじれそうになっていると、プロペラが旋回し出した。


ブォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!


めっちゃ、うるさーーーーーーーーー!

急いで綿を耳にねじ込むが、騒音レベルあまり変わらず。

丸見えのコックピットでは、パイロットが手際よく離陸の準備をしている。あぁ、もうこの2人にすべてを託すしかない。

神様、仏様、パイロット様々・・・。


ブォォォォォォォォォォォォォォーーーーー

ブィィィィィィィイィィーーーーーー!!!

・・・と、とんだ。


大気を切り裂く爆音とともに、機体は高度を上げる。

小さくかすむ、カトマンズの街。

ブィィィィィィィイィィィィイィーーーーーーーーーーー!!!

一向に心音は落ち着かず。

生きた心地がしない。

しばらく、山肌すれすれの低空飛行が続く。

窓から覗く茶色い景色。

しばらくすると、茶色の上に青白い山群が見え出す。

さすがに、一瞬だけ興奮したが、機体の大きな揺れで一気に冷める。

機体は谷間に入り込み、景色が圧迫感を増す。

すると、前方に大きな山が通せんぼ。

えっ、この高度じゃあの山越えるの無理じゃない?と思っていたら、いきなりグングン高度を下げだす。

前方の山肌がどんどん鮮明に見えてくる。

ちょっ、ちょっと待って!このままじゃ、あの山に激突するーーーーーっと、その山の斜面の一角になにやら一本の細い線が・・・。

滑走路だ!

でも、やっぱりちょっと待って、

まって、まってぇぇえええーーーーーーーーーーーーー。


・・・ドンッ。

瞼を持ち上げ、闇を解く・・・。

神々しい光の先に、あっ、神様・・・じゃなかった、パイロット様々でした。

放心状態の私とは違い、何事もなかったかのように、淡々と計器を確認しているパイロット。

レザージャケットにサングラス、茶色い肌から光り輝く真っ白い歯。

あぁ、

あんたたち、神だよ。神業だよ・・・。

次の瞬間、ようやく全身に血が戻ってきた。


こんなに脂っこいフライトだったが、所要時間はたったの35分。

帰りも、再び乗らなければいけないかと思うと・・・本当にげんなりした。

こうして、なんとかルクラに着いた。

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空港で僕らを迎えてくれたのは、はにかんだ笑顔がいかにも純朴そうな、どこか故植村直己氏に雰囲気が似た青年、今回ポーターを務めるミンマであった。

このミンマ、2年後のアマ・ダブラム遠征時に私たちの窮地を救う大活躍をすることになる。

そんな彼との出会いは、ここルクラであった。

空港脇のロッジで食事を済ませ、私、ニマさん、ラクパさん、そしてミンマという4人で、遂にヒマラヤ・トレッキングがスタート。

本日の終着点は、ここから3時間弱のパクディン。

肌をなでる、ヒンヤリと冷えた谷間の風。

耳の遠くで響く、激流の音。

視界を彩る緑と茶色のコントラスト。

その先遥か天を頂く、雪と氷に覆われた神々の座。

これが、ヒマラヤだ!

体調はすこぶる良い。

ニマさんは、カトマンズで飲みすぎたのか少しバテ気味。

ラクパさんは、ゆっくりとした独特の歩幅で静かに歩く。

大きなエクスペディションザックを頭と背中でバランスをとり、疾風のように先をいくミンマを追いながら、ゆっくり先に進む。

途中、名も知らぬ集落で休む日本人の一行と出会う。

軽く挨拶をすると、アルピニストの野口健さんでした。

そのときは気づかなかったけど、そのとなりに座っていた若者は、レミオロメンのボーカル藤巻亮太さんでした。

野口さん一行は、カラパタールに向かうそう。

道中途中までは同じ行程なので、「また会いましょう」と言葉を交わし、先を行く。

パクディンに到着したのは夕刻。


はじめてのロッジ泊。

失礼だがネパールのロッジというと、正直粗末な山小屋をイメージしていたが、とても綺麗だった。

確かにトタンやベニヤと内装は質素だが、部屋は個室で、みんなが集まるダイニングスペースやトイレもある。各ロッジ、それぞれ○○ホテルと銘打っているが、これは本当にホテルだと感じた。

夜になると、さすがに12月のヒマラヤは冷え込みが厳しく、部屋は寒いので、ダイニングスペースにて暖をとる。

今日は、停電らしく(通電していることがびっくり)、灯りはロウソクの火。

冷えた身体は、ネパールの地酒トンバで温める。

トンバは発酵させたヒエを容器に入れ、そこにお湯を注ぎ、ストローで飲むスタイル。

最初は酸味がきついけど、お湯を足しながら飲んでいくと、ヒエの甘みがほどよい酸味と調和し、マッコリのような味わいに変化していく。


闇に揺らめく炎に投影された人の鼓動を感じながら、静かにパクディンの夜は更けていったのだった。



つづく

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