十九人「ミキちゃん」面白かったね
お世話になります。
十九人「メイヘム」本当に最高でした。
その中でも、おそらく今回しか見られないであろう「ミキちゃん」がとても素敵でした。
十九人の世界観マシマシのコント、十九人にしかできない空気に満ち満ちていて、知らない世界に連れていってもらった感覚です。
スチームパンクテイストのお化け屋敷とかあったらあんな感じかもしれない。
こちらのnoteは自分が見ていて面白かった部分をひたすら語りたいと思い、作成させていただきました。
かなりのネタバレでしかないので、観たことがない人には面白くないと思います。
「ミキちゃん」のコント内に記述されている事実から推測と邪推を繰り広げているものですが、決して正解探しをしたいわけではないです。
もしもこれを読むと、せっかく感じ取った世界観や価値観に影響しそう、不快かも、と不安になった方は読むのをおやめください。
見た人によって違う世界が見えていたのだろうと思っています。そう思うほど素敵なコントでした。
差し出がましく聞こえますが、あなたが見て感じたその世界を大切にしていただけることが何よりうれしいです。
自分にはこう見えて楽しかったよ、ということが言いたいだけの若輩者です。
どうぞよろしくお願いいたします。
「ミキちゃん」面白かった!と思った部分について
その1 ディストピアな世界観を微細に知らせる構成力の凄さ
まず、コントの場面が室内から始まり、そこに松永くん演じる「男」(以下、男と記載)が現れます。この時の2つ目のセリフが「夕飯調達してきたよ」であることがもう凄い。
「買ってきたよ」とか「用意できたよ」ではないということは、つまり、彼らが生きているこの世界は夕飯を手にいれることが簡単ではないということを臭わせていると感じます。
ここでゆッちゃんwが演じる「ミキちゃん」(以下、ミキちゃんと記載)との絡みが生じるのですが、その部分は「その2」で記載するので一旦割愛します。
男がミキちゃんを撫でくりまわした後、椅子に座って肩を落とし、ミキちゃんに「今日も誰かに尾けられてた」「ミキちゃんがここにいるのがバレているのかも」と、ミキちゃんと男の生活が不穏であることを示します。さらには、いざとなったらミキちゃんだけでも逃げてほしいと言う男のそばで悲しむミキちゃん。しかし、ミキちゃんの不思議な能力により、尾行していたらしき人間をミキちゃんが始末します。
この時、目の前でミキちゃんが人を殺したかもしれないのにもかかわらず、男の反応は困惑するでもなく、ミキちゃんを叱るでもなく、ただミキちゃんの強さを賞賛して日常に戻ります。シュールさに腹を抱えて笑いました。
ですが一方で、この世界は人間が急にいなくなってもさして問題にならない危険であふれた世界であることがわかります。彼らは危険な世界で生きているからこそ、家の中の安全を守ろうとしている共同体であることが感じられました。内側の世界である家の中が平和であればあるほど、外側の世界がいかに危険であるかを対立構造的に表現されていましたf。
そうした対立構造の内側の平和さを作っていたのが「ミキちゃん」の存在だと思います。
余談ですが、めちゃくちゃ深読みして「リンゴとパンってキリスト教モチーフだったりするのか?ノアの方舟ってこと?ミキちゃんの首輪にロザリオついてるから?」とか考えましたけど、流石に根拠が薄すぎたのでこの仮説は棄却しました。
その2 「ミキちゃん」という存在の不思議さ
ミキちゃんは満足に喋れることができず、男の言葉を模倣してばかりなので、一見するとオウムやペットなのかなと思いますが、男の「右左」の声かけによって左右の胸を叩くシーンで金属音が聞こえたことから、そうではないのだろうなと感じます。
おそらくは体に金属が入っていて、人の形ではあるのだろうというところは推測されます。ただ、どういう存在なのかは最後までハッキリしません。ですが、果物を食べることができるということと、男がミキちゃんとの生活を「ふたりぐらし」と呼んだことから、人っぽい生き物であることは間違いないのだろうなと思います。
(Artistspoken「大竹さん、いる!」にて、「ミキちゃん」の打ち合わせ段階の話が少しあり、その話を聞いておそらく「人」ではありそうと推測しました。十九人の週末は踊るは面白い!ぜひ10月5日分をお聴き逃しなく)
ミキちゃんが男の言葉を模倣する様子、数字を数えるように教育する男の姿から、ミキちゃんの頭脳はかなり幼いということはほぼ間違いないと見えます。一方で、男の言葉を繰り返そうと努力することも、りんごを食べたくても我慢して懸命に数字を数える姿からも、ミキちゃんが男に懐いていることが伝わります。そして、男が自分を守っていることも理解しているから、何かあるとすぐミキちゃんは男の元に駆け寄ります。
ミキちゃんは表情豊かで声がでかくて明るくて元気で、現れるだけで部屋の中を照らすような存在だと感じますが、一方で簡単に人を殺せる力を持つ危険な存在でもあります。そして、手榴弾を抱え込んでもほぼ影響がありません。(ということは、あの洋服も相当な耐久力がある)
幼子のように無垢な内面と世界を破壊できそうな脅威になりうるミキちゃんですから、当然危険な存在と認識されたり、命を狙われるということもありうると思います。それでも観ているこちら側に、幸せに生きてほしいと思わせるのは、ゆッちゃんwの流石の演技力と既に持ったものがあるのだろうなと思います。
あとたぶんですが、ミキちゃんが「ちゃんちゃん♪」を終わりの合図だとわかっているということは、おそらく男がミキちゃんに絵本の読み聞かせかアニメを見せているんだろうなと推測します。(あるいは男と出会う前に教えてくれた人がいるのかな)
その3 「ミキちゃん」よりも得体が知れない「男」の存在
このコントの中でミキちゃんという存在があまりにも大きすぎて見逃しそうになるのですが、実は男の存在が話の根幹を握っていて、それなのに最後までミキちゃん以上に背景が見えないと感じています。
男がミキちゃんを大事にしているのはまず間違いないと思います。ミキちゃんは「ただいま」と「おはよう」と「ミキちゃん良い子だ!」などは言い返せるけど、「おかえり」は言えません。おそらく、自分が言われたことがないからでしょう。男がミキちゃんを家の中に入れておくことで守ってきたと推察できますし、帰宅時にミキちゃんの身体に不調がないかも確認していることからも、男がミキちゃんにたくさん語りかけることであたたかい関係性を作ってきたことがわかります。
ですが、得体が知れないと感じた決定的な理由が、男が大家さんに対応するシーンの全てにあります。大家さんが訪問した際、男はミキちゃんに声を潜めて静かにするようにしているのに、お裾分けを受け取って「ふたりぶん」と言ってミキちゃんに渡します。直後に違和感を感じて危険な状況になります。その数分で男がミキちゃんを隠していることを忘れているとは考えにくいです。
また、男と大家さんのやりとりで「今は何も返せるものがないから、今度、期待しておいてくださいよ」と言う場面の言葉が引っ掛かります。この時点から、男は大家さんがミキちゃんと自分の生活を脅かそうとしていることに気づいていて、それに対する制裁を決めているように思います。前述したミキちゃんを大事にしてきた経過を見れば、男がそうした反応になることは違和感がありません。
ただし、この男の存在が実はコントの中で一番不可解であり何も明らかにされていないので、実は一番おかしいのはこの人なのではと思う部分もあります。
というのも、「その1」にて「人が急にいなくなっても問題のない世界」と感じた根拠を述べましたが、これを反証する説として「そもそもこの男が殺人を容認しているだけで、この世界は安全でこの男こそが異常なのかもしれない」という可能性があります。
もしも男が何らかの理由で平和な世界からミキちゃんを奪い取り、それを取り戻そうとする人たちが正義で、男が悪であると仮定した場合、全て男がミキちゃんを通じて世界をめちゃくちゃにしているという見方ができるからです。
もしそうだとすると、ミキちゃんを大事にすることも、ミキちゃんに人を殺めることより自分たちの生活を大事にしようと促すことも、全て意のままにしているとしたら、一番ヤベエのコイツじゃん、となるわけですが、これはかなり邪推の範疇かもしれません。
どちらにせよあくまで想像するにすぎないのですが、こういう反転したパターンの可能性を示唆できるのも、十九人の底知れぬ力だなぁと思いますし、考察できる幅を無限大に伸ばしていることに、本当に驚愕しています。
その4 おわりに
最後になりますが、今回のコントで自分が本当に好きだと感じた部分は、この物語の前後がないのではなくあのシーンだけで全てのストーリーが完成されていることだと思っています。
ミキちゃんと男にとっては、その前も後もさしたる問題ではなく、あのシーンだけがふたりを表す全てだと感じさせるくらい、表現されうる限りの存在が詰まっていたように感じています。
ミキちゃんはその表現されうる全てを持って存在感を観客に伝え、男は表現されない中であらゆる話の根幹を握っていたこと、どちらもゆッちゃんwと松永くんにしかできないものだったと感じました。
初日の公演は「十九人やべえよ」としか言えないまま帰りました。
打ち上げライブにておばたさんが「余白が多い」ことを言ってくださり、マジでイマジナリースタンディングオーベーションでした。余白が多いということは必要な言葉が全て描かれているということでもあるなと思いますし、おばたさんの大絶賛のコメントに首が取れそうなほど頷きました。
(打ち上げライブは10月15日まで配信中です!本当に楽しかったしおばたさん凄かった)
あのふたりが最後にどうなるかと考えて、ラストの曲が…と思うのですが、流石に身も蓋もなければ情緒も礼儀もない話になるので控えます。
以上、つらつら書き連ねましたがこんな4000字強の文章どうするんだと書き終わってから冷静になりました。
供養としてここに記載しますが、どうか読んだ方のお目汚しや不快な思いになることが少ないことを心から祈っています。
十九人、本当にすごい。
2024年10月10日 苔藻ゞ a.k.a もこもこのMIC
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