初めて飛行機に乗った話 ②
さよなら地上
さて滑走路の端まで来たドルニエ君はその場で一呼吸置いていよいよ離陸。助走をつけて一気に空まで駆け上がります。その加速の速いこと速いこと。加速が良いとかそういう次元を通り越してもはや治安が悪い加速です。さっきまでの『歩くの苦手だよ…』みたいな動きはどうした。もしかして滑走路まで来ると性格豹変するタイプかキミ。
地面からの振動が無くなってエレベーターみたいなフワァ…っとした感じがすると同時にどんどん地面が離れていきます。おお、飛ぶってこんな感じなんだ。
見慣れた高さの景色が展望台くらいの高さ、そしてGoogleマップの航空写真の高さになっていきます。どんどん距離感がバグるので地上の物体の速度がまるで正しく分かりません。止まってる?
中央線が見えました。細長い身体にほっぺたが特徴の可愛らしい顔。その近くに見えるのは特急あずさ。一瞬天文台や新宿の高層ビルも見えた気がしますが、ドルニエ君が意外とぐるぐる回るので今どっち方向に進んでるのかわかりません。そういえば離陸の方向って目的地じゃなくて風向きとかで決まるんでしたね。電車やバスとは色々違います。
ふと上の方を見ると雲が近づいてきます。うわー霧が浮いてる!触れそうだなあと思ったタイミングでそのまま雲にズボ。
下を見ると住宅の屋根の上に雲のレイヤーが表示されています。屋根だけはGoogleマップで見たことがあるだけにすごい違和感です。その雲レイヤーの不透明度がどんどん上がっていきます。
雲の上に出ました。雲海の先に富士山が見えます。おお、これが飛行機からの風景…
さよなら陸地
雲を過ぎると再び地上が見えるようになります。東海道線が細長い身体で器用に街を縫いながら走っていきました。鎌倉を過ぎたドルニエ君は右手に江ノ島を眺めながら海に向かってぶっちぎります。
海の風で多少ワタワタするドルニエ君。特に不安定ではないものの、ちっちゃいボディで頑張っているのが伝わります。飛行機に乗ったのが初めてなのでこれがどのレベルの揺れ方なのかは全然わかりません。気付いたら耳がピキピキ痛くなっていたので耳抜きをしました。
たまに船を見ながら穏やかな海面を眺めます。このまま暫く海だけ見てるのかな〜と思っていると突如陸地が見えてきました。伊豆大島?もう?飛行機の地形無視&スピード恐るべしです。そういえば伊豆大島には以前ジェットフォイルで竹芝から熱海まで行くのに経由したので20分程度だけ滞在したことがあります。キャリーバックの車輪のゴムがもげたのもその時です。
そんな思い出の地を通り過ぎると少し片寄ったホイップクリームみたいな島が見えてきました。利島です。面白いのはそのホイップクリームの先端付近から雲が尻尾のように生えていること。多分、海面からの湿った空気がホイップクリームの形に沿っていい感じに上昇して雲ができてるとかそんな感じなんだと思います。実際、よく見ると島の頂点より少し上から雲が絶え間なく発生している様子を見ることができました。
いざ着陸
新島が見えてきたあたりでドルニエ君がいそいそと引っ込めていた脚を広げます。自分の脚を広げただけでガチン!という音や振動まで伝わってくるのが可愛らしい。本当にちっちゃいボディでがんばるなぁドルニエ君。
羽伏浦海岸が見えてきました。崖の下に白くて長い綺麗な砂浜が続いています。…あれっそういえばこの島の滑走路って崖の上に存在してたような。そして今の進行方向は滑走路に対してなかなかの角度です。
案の定ドルニエ君は高度を下げながらえぐい角度で旋回します。峠でも攻める気か。右回りに旋回したので私が座ってる右側の窓からの景色はほぼ海です。ちなみに反対側の風景はほぼ空でした。この角度ジェットフォイルとかそういう系じゃないの?ジェットフォイルも旅客船としてだいぶ非常識な動きしてるけど。もしかしたら伊豆諸島は挙動がやばい交通機関の巣窟なのかもしれません。
崖に近づくにつれてバグっていた距離と速度の感覚が急激に戻ってきます。うわー飛行機ってこんな速かったんだー。後方に吹き飛んでいく海、崖、木、民家の屋根、空港の柵。滑走路が見えて暫くしたところでドン!という振動があり地上に着いたことが分かります。続いて全力で速度を殺しにかかるドルニエ君。
グォオオオオオオアアアアアアアアアアアアゥオオオオオン!!!!!
運動エネルギーを無事に始末したドルニエ君は何食わぬ顔で地上を移動します。ドルドルドルドル。やっぱり滑走路で豹変するタイプなのかもしれません。
滑走路を離れ、可憐でおとなしい小型機に戻ったドルニエ君はエンジンを止めます。しばらくはプロペラが回っていますがやがてそれも止まります。
ぐおおおおおひゅるるるるるるるるるーーーーーん。
ドルニエ君が落ち着いた頃、狭い機内を屈みながら飛行機を降りました。ちなみに乗り降りの際にタラップやボーディングブリッジなどを掛ける必要はなく、開いた扉がそのまま可愛らしいサイズの階段になります。なんて便利!
機外に出るとまた「こちらお歩きくださ〜い」と保育園のおさんぽのじかんの如く誘導されながら空港の建物まで移動です。一仕事を終えたドルニエ君は坂を下る自転車みたいな音でカラカラ鳴いていました。
次回、空港を出て新島を歩きます。