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4. フルーツ・ウィートビール

今回は、フルーツ・ウィートビールである。一言で言えば、フルーツビールの小麦版。あぁ、フルーツビールで麦芽が小麦になっただけなんでしょ?と言うなかれ。そうには違いないんだが、それだけでガイドラインの記述にはかなりの相違点が見られるのだ。ベースとなるのは、初回に扱ったアメリカン・ウィートや、南ドイツスタイルのヴァイツェンなんかが代表的。さて、これらをベースにフルーツを使ったビアスタイルの詳細について、読み解いていくことにしよう。


外観

フルーツ・ウィートビールの色合いは、一般的にストロー(麦わら色)から明るいアンバーの範囲で、使用したフルーツの色をある程度反映している場合が多い。冷温白濁があっても許される。冷温白濁があっても許される。

「2. フルーツビール」の場合は、色については「ペールから非常にダーク」とされており、SRMも5〜50とかなり幅広かった。これに比べると、フルーツ・ウィートビールは控えめで、「一般的に」と断りがあるものの「麦わら色から明るいアンバー」と全体的に淡めで、SRMの値も2〜10とかなり低いことがわかる。まぁ、ヴァンツェンなんかでもSRMは3〜9あたりなので、リーズナブルと言えばその通りなんだが、「一般的に」とあることから例外は許容されると考えられる。デュンケルヴァイツェンとか、ダーク・アメリカン・ウィートなんかをベースにしてしまうと、この範疇には収まらないことが容易に想像できる。

冷温白濁については、小麦ベースであるため、「1. アメリカン・ウィートビール」で記したのと同じ理由で言及されていると考えればよい。

サービングの際に、酵母と一緒に注いでも注がなくてもよい。酵母と一緒に注いだときは、外観が霞んでいたり非常に濁っている。

これはこれまでのビアスタイルには書いていなかった内容であるが、アメリカン・ウィートにせよ、ヴァイツェンにせよ、酵母入りのものもあれば酵母入りではないものもある。さらに酵母入りの場合も、酵母と一緒に注ぐかどうかで見た目が大きく変わる。これにより口当たりにも大きな変化が現れるのだが、それはまた後で述べることにしよう。

アロマとフレーバー

フルーツもしくはその濃縮シロップを使用し、人工香料でない本物のフルーツがもたらすアロマとフレーバーを備えていること。フルーツ・ウィートビールの場合、小麦麦芽とフルーツのアロマ・フレーバーが調和するように、フルーツ由来のアロマのレベルをフルーツビールよりも抑えぎみにするケースがよく見られる。フルーティーなエステルはロー・レベル。ホップのアロマとフレーバーおよび苦味は、ローからミディアム・レベル。モルトのアロマとフレーバーもローからミディアム・ロー・レベル。

「2. フルーツビール」の場合は、「フルーツもしくはその濃縮シロップ」とは書いていなかったが、「フルーツ、果汁もしくはエッセンス」と書かれていたので、ここに大きな違いはないと思われる。それよりも大きな違いは、次の「フルーツ由来のアロマのレベルをフルーツビールよりも抑えぎみにする」という部分である。これにより、ホップやモルトのアロマについても影響が出てくる。

フルーツビールの場合は、ホップのアロマもモルトのアロマも感じられないレベルからミディアム・ローであった。一方、上にある通り、このスタイルでは、ローからミディアム、とかロー・からミディアム・ローとなっており、少しだけ高め。特に「感じられないレベル」という記述は完全に消えている。これは副原料であるフルーツのアロマやフレーバーも抑えめにすることによる直接的な影響で、全体のバランスとしてホップやモルトのアロマもそれなりに感じられるべき、ということである。特に、小麦麦芽とフルーツのフレーバーが調和するように、と書かれていることから、小麦本来の香りやフレーバーが弱くともそれなりに感じられることがこのスタイルのアイデンティティであると主張しているようにも読める。

ちなみにエステルについては、フルーツビールには記述がなかった。これはベースのスタイルがあまりに多岐にわたるため、敢えて書かれていないという解釈もできるだろう。一方、フルーツ・ウィートビールの場合は、ロー・レベルであると規定されている。仮にベースのスタイルがアメリカン・ウィートならばローからミディアム、ヴァイツェンならばローからミディアム・ハイなので、フルーツを使用している分、バランスとして全体的に抑えられていると解釈すれば、辻褄が合う。

オフフレーバーについては、「ダイアセチルがあってはならない」とされている。フルーツビールにはこのような記述はないので、原則としてはベースとしたビアスタイルに準ずると考えるのが妥当であろう。一方、フルーツ・ウィートの場合は、主たるベースのスタイルはアメリカン・ウィートやヴァイツェン、それにその他の小麦ベースのスタイルになると思うが、これらのビアスタイルは基本的にダイアセチルを許さないものがほとんどである。例外的に、例えば、ベルジャン・ヴィットなどは非常にローレベルのダイアセチルを許容している。ただし、副原料としてフルーツを使用しており、他のフレーバーとバランスは取る必要があるとは言えども、フルーツのキャラクターがそれなりに強調されるべきであることを考えれば、オフフレーバーは許容すべきではない、という記述はリーズナブルであると考えられる。

ボディとマウスフィール

「2. フルーツビール」の場合は、ボディについてはベースにしたビアスタイルによって異なる、と書いてあっただけである。一方、フルーツ・ウィートの場合は、小麦を使用していること、酵母が残されている可能性があることを考慮して、特にマウスフィールに関連してかなり書きぶりが変化している。

発酵にはベースにしたウィートビールのビアスタイルに合わせて、ドイツ、英国、またはアメリカの伝統的なエール酵母またはラガー酵母を使用する。穀物原料には少なくとも30%以上の小麦麦芽を使用すること。酵母と一緒に注いだときは、イースティーなアロマとフレーバーがローからミディアム・レベルで感じられる。その場合はまた、マウスフィールも非常にイースティーな感じでなければならない。

アメリカン・ウィートと同様にエール酵母でもラガー酵母でも使用できる。このことが、あえてフルーツ・ウィート「ビール」と書かれている理由でもある。小麦麦芽の使用料は30%以上という規定があり、これを下回る場合は、一般的にはフルーツビールに該当することになる。また、酵母入りの場合、酵母と一緒に注ぐと酵母由来のアロマやフレーバーが控えめではあるものの感じられること、さらには酵母が残留していることで口当たりにも豊かさが感じられることが必須、というわけである。このあたり、酵母入りのアメリカン・ウィートやヘーフェヴァイツェンのスタイルの記述とも大きく関係があるので、参照するといいだろう。

ちなみに、ボディは「ライトからミディアム」とされている。これはアメリカン・ウィートと同じ。もし、ベースがヴァイツェンなら、ベースのスタイルのボディはミディアムからフルということになるが、副原料を使用していることで弱めになることが示唆されていると考えればいいだろう。

他のスタイルとの差別化

このビアスタイルの場合、他のスタイルとの違いについては、リマークしなければならない点が非常に多い。まず、次のような記述がある。

通常のビールのようにフルーツを使用せずに醸造し、完成後にフルーツを加えたウィートビールであっても、木片もしくは木樽でエイジングしていなければフルーツ・ウィートビールに該当する。たとえば、南ドイツスタイル・ヴァイツェン、アダムビール、グローズィスキーなどのヨーロッパ発祥のウィートビールにフルーツを加えたものが、これに含まれる。

これは「2. フルーツビール」には無かった記述である。フルーツビールの場合は煮沸時、一次発酵時、二次発酵時にフルーツを使用することは書いてあったけれども、完成後にフルーツやシロップを加えるケースについては記述がなかった。このスタイルではそれが許容される。このような場合、フルーツのアロマはフレーバーはそれなりに強く感じられることが想像されるが、冒頭にあったように、小麦麦芽とのバランスを重視する、という観点からフルーツのフレーバーが全体を凌駕するほど支配的になるというケースは除外されていると考えられるだろう。じゃあ、小麦を使用しないような一般のフルーツビールで完成後にフルーツを加えたものはどう評価すればいいのか、ということになるが、もしその場合にフルーツのフレーバーがホップやモルトとバランスが取れていれば許容、そうでなければ、より正確に言えば、ホップもモルトも感じられず、フルーツのアロマやフレーバーしか感じられない場合は高い評価はできないということになるのだろう。

ちなみに、木樽や木片を用いた場合についての記述があるが、これは「31. 木片および木樽熟成ビール」(フルーツを用いたバージョンも含まれる)や「35. フルーツ入り木片および木樽熟成サワービール」と区別するためのものである。

さらに、「2. フルーツビール」にはなかった記述として、次のような一文がある。

酸味の強いフルーツ入りウィートビールは、いろいろなフルーツ入りサワービールのうちのいずれかに該当するが、下記のスペック(初期比重などの数値)に適合していない場合はフルーツ・ウィートビールのビアスタイルから外れるため、ベースにしたビアスタイルのフルーツ入りバージョンとなる。フルーツを加えたベルリーナ・ヴァイセやコンテンポラリー・ゴーゼの場合は、元のビアスタイルに該当し、このビアスタイルには含まれない。

この文は注意深く解釈すべきである。フルーツを用いており、かつ小麦使用量が30%以上で、さらに初期比重やアルコール度数などのパラメータがフルーツ・ウィートビールで示されている範囲に入っていれば、このビアスタイルに含めることになるが、スペックがこの範囲外であれば、それぞれベースのビアスタイルのフルーツ入りバージョンに該当するという意味である。具体例として、「62. スペシャルティ・ベルリーナスタイル・ヴァイセ」「63. コンテンポラリー・ゴーゼ」に言及されている。パラメータとしては、前者は初期比重、最終比重やIBUがフルーツ・ウィートの範囲から外れる場合があり得るし、後者はIBU値が完全な包含関係にはない。ただし、実際のサンプルにおいて、これらのサワーエールスタイルと判断するか、フルーツ・ウィートの範疇に入れるか、どちらでも該当するようなケースは理論上あり得るとは考えられる。さらには、「28. フルーツ入りアメリカンスタイル・サワーエール」「29. ブレットビール」「30. ミックスドカルチャー・ブレットビール」などで小麦を用いたバージョンにも同じことが言えるであろう。

この各種パラメータがスペックの範囲に入っているかどうか、という観点は「2. フルーツビール」の場合にはなかったものであるが、本来は「フルーツビール」でも考慮にいれるべきであるように感じられる。

さらに、フルーツビールの場合と同様に以下のことにも言及されている。

  • 柚子を使用した場合は柚子ビールに該当する

  • ココナツを使用し、ココナツのフレーバーが明白な場合はフィールドビールに該当する

その他の特徴やパラメータ・注意点など

上でも言及があった各種パラメータの数値であるが、初期比重と最終比重、ABVについては、フルーツビールの場合とまったく同じである。一方、IBUについては、フルーツビールが5-70とかなり幅広かったのに比べ、フルーツ・ウィートでは、10-35とかなり限定的である。これは伝統的な小麦ベースのビアスタイルが想定されていることによるものだろう。

フルーツビールと同様に、審査会に出品する際には審査に必要な付加的情報を明記しなければいけない。フルーツビールと共通しているのは、以下のような観点である。

  • ベースにした(ウィートビールの)ビアスタイル名を明記

  • フルーツの種類と使用したタイミング(糖化時、煮沸時、一次発酵時、二次発酵時あるいはそれ以外)

  • ベースのスタイルが既存のビアスタイルのどれにも合致しない場合は「既存のスタイル外」と書いても構わない

これに加え、小麦を使用していることで以下のような記述についても言及されている。

  • 小麦麦芽以外に特別な原料を使用していればその名前と使用法

  • サービングの際に普通に注ぐか、透明な上澄みだけを静かに注ぐか、またはボトルを振って酵母と一緒に注ぐか

前者は審査にとって必要なため、必須である。一方、後者は出品者が要望することができる、とされているので、審査に供されるにあたり、本来のそのビールのキャラクターが適切に反映されるよう、サービング法を主催者側にリクエストできるというオプショナルなものである。

フルーツビールの回でも述べたが、実際の審査会において、これらの記述がない、または不足しているがゆえに、本来そのビールがもつポテンシャルを正当に評価されない場合が散見される。これらは審査員が適切な評価を行えるよう、出品者の責任において記載されるべき情報である。ビールそのものの責任ではない

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