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5. ベルジャンスタイル・フルーツビール
フルーツビールシリーズも今回で一区切り。今回は、ベルジャンスタイル・フルーツビールである。一言で言えば、ベルギーの伝統的なビアスタイルで、副原料としてフルーツを使ったものである。これまで扱ってきたスタイルの中でも、ベルジャン酵母を用いたものはこちらに該当、という形で差別化されてきたスタイルでもある。では、その詳細を読み解くことにしよう。
外観
ベルジャンスタイル・フルーツビールの外観については、基本的に「2. フルーツビール」を踏襲している。具体的には以下のような点すべてで基本的な考え方は共通している。
色合いは、ベースにした(ベルジャン)スタイルに基づいて、ペールからダークな色の範囲(SRMは5〜50)
使用したフルーツの色を反映している場合が多い
クリアでも濁っていても許される
厳密には「2. フルーツビール」では「ペールから非常にダークな色の範囲」と記載されていたが、SRMの範囲が共通しているため、本質的な違いではない。
アロマとフレーバー
一般的なフルーツビールとの大きな違いは、ベルジャンスタイル特有の酵母を使用することによるアロマやフレーバーにある。具体的には「発酵には、ヴィット、アビイ、ファームハウス、そのほかの伝統的なベルジャン酵母を使用する」と明記されている。このスタイルの特徴を述べる前に、まずは「2. フルーツビール」との共通点を確認しておこう。
フルーツのアロマについては強弱を問わないが、ホップのアロマに負けない程度にはっきりしていること
フルーツもしくはその濃縮シロップを糖化時、煮沸時、一次発酵時または二次発酵時に使用することで、フルーツの特徴を全体の調和を崩さない程度に引き出している
厳密には、「2. フルーツビール」では「濃縮シロップ」の使用とは書かれていないが、これは前回のフルーツ・ウィートビールと同様、大きな違いとは言えない。
一方、上記以外のアロマやフレーバーの特徴については、これまでと多かれ少なかれ差異が見られる。具体的には以下の通り。
ホップのアロマとフレーバーはローからハイ・レベルまでと範囲が広い
ホップの苦味のレベルは、ベースにしたベルジャンスタイルによって異なる
モルトのアロマとフレーバーは感じられないレベルからミディアム・ハイ
ホップ、モルトの特徴ともに「2. フルーツビール」よりもレンジが広いことがわかる。苦味レベルの書き方でわかる通り、基本的にはベースとしたベルジャンスタイルの特徴を活かした上で、フルーツキャラクターとのバランスを重視するが、それが高いレベルで調和している場合もあれば、低いレベルで調和している場合もあり得るということになる。
ただ、一つ疑問に思うべき点がある。このスタイルは、基本的には既存のベルジャンスタイルをベースにすることが求められている。しかし、ホップのアロマやフレーバーがハイ・レベルであるようなビアスタイルは伝統的なベルジャンスタイルには存在しない。これはどういうことか?一つの可能性は「26. アメリカン-ベルゴスタイル・エール」である。アメリカンベルゴは、ベルジャン酵母とアメリカンホップのハイブリッドであり、ホップのアロマやフレーバーは非常にハイレベルまで許容される。しかも、フルーツなどの副原料を含む場合についてはアメリカンベルゴには言及がなされていない。したがって、ベルジャンスタイル・フルーツビールにおけるベースのビアスタイルとしてアメリカンベルゴを許容すれば、ホップアロマがハイレベルであっても特に問題はないことになる。
さらに、このスタイルに独特な特徴として以下のような記述もある。
酸菌によって発酵中に醸し出された酸味が感じられれば、よりフルーツのキャラクターを強化するため望ましいが、必須ではない。
フルーツビール、柚子ビール、フルーツ・ウィートビールなどには、このような酸味に関する記述は存在しなかった。必須ではないという断り書きがあるとは言え、まさにこのスタイルでこそ見られる特徴と言えるかもしれない。
他のスタイルとの差別化
まず、次のような記述がある。
木樽で発酵やエイジングを行うこともできるが、その場合はヴァニラ香のような木香が感じられてはならない。ヴァニラのような木香を伴うもの、熟成に使用したワインの古樽やシェリーの古樽の残り香を伴うものは、木片および木樽熟成ビールに該当する。
後の回で扱うことになるが、「31. 木片および木樽熟成ビール」はフルーツやスパイス等を副原料として用いたものを含んでいる。ただし、酸味を伴うサワーエールの場合は、「35. フルーツ入り木片および木樽熟成サワービール」として区別する必要がある。
一方、「29. ブレットビール」との区別については若干複雑である。
フルーツを加えてつくったベルジャンスタイルのビールでブレタノマイセス・キャラクターを伴うものは、このビアスタイルに含まれる。しかし、ブレタノマイセス・キャラクターを伴うフルーツ入りセゾンビールは、スペシャルティ・セゾンに該当する。フルーツを加えてつくったブレットビールで、このガイドラインに収録されている既存のベルジャンスタイルをベースにしていないものは、ブレットビールのビアスタイルに該当する。
すなわち、ブレタノマイセスのキャラクターが感じられたとしても、ベースのビアスタイルが伝統的なベルジャンスタイルであれば、このスタイルに含み、そうでない場合は、「29. ブレットビール」として扱う、ということになる。ただし、伝統的なベルジャンスタイルにおける唯一の例外がセゾンである。セゾンではブレタノマイセスのキャラクターを伴うことは認められているが、必須ではない。上の記述は少しミスリーディングではあるが、要はブレタノマイセスのキャラクターがあるにせよ、ないにせよ、フルーツを用いたセゾンは、「69. スペシャルティ・セゾン」に該当する。
セゾンと同様のことがランビックにも言える。「フルーツを加えたランビックビールは、ベルジャンスタイル・フルーツランビックに該当する」と記載されている。正確には「72. ベルジャンスタイル・ランビックまたはサワーエール」の中のサブスタイル「D. ベルジャンスタイル・フルーツランビック」である。
また、これまでのフルーツを用いたスタイルでも述べられてきたのと同様の点も改めて記載されている。具体的には以下の通り。
ベルジャン酵母を使用していない場合は、フルーツビール、またはフルーツ・ウィートビールに該当
柚子を使用した場合は柚子ビールに該当
ココナツを使用した場合はフィールドビールに該当
チリペッパー(唐辛子)を用いた場合は、排他的にチリビールに該当
その他の特徴やパラメータ・注意点など
ボディはベースにしたビアスタイルによって異なる、ということなので、「2. フルーツビール」と同様である。加えて、初期比重と最終比重、アルコール度数、IBUについても「2. フルーツビール」との違いはない。
フルーツビールや前回のフルーツ・ウィートビールと同様に、審査会に出品する際には審査に必要な付加的情報を明記しなければいけない。「2. フルーツビール」と共通しているのは、以下のような観点である。
ベースにした(伝統的ベルジャンビールの)ビアスタイル名を明記
フルーツの種類と使用したタイミング(糖化時、煮沸時、一次発酵時、二次発酵時あるいはそれ以外)を明記
その他特別な原料を使用していればその名前と使用法を明記
一方、このスタイルに特徴のある記述としては、以下の2点が挙げられる。
使用したベルジャン酵母名
発酵と熟成に特別な容器を使用していればその名前
冒頭に述べた通り、このスタイルでは伝統的なベルジャン酵母を使用することが条件であったので、前者はそれが反映されている。後者も特徴的であるが、このスタイルでは木香を伴わなければ木樽などの使用も認められている上、伝統的なベルジャンスタイルでは、瓶内二次発酵をする場合もあり、これについても明記することが求められるわけである。
最後にもう一つ、注意が必要な点がある。フルーツビール、柚子ビール、フルーツ・ウィートビールでは、ベースのビアスタイルとして「既存のスタイル外」と書くことが許容されていた。一方、ベルジャンスタイル・フルーツビールでは、この断り書きがない。これは、このスタイルが原則として「伝統的なベルジャンスタイルをベースにする」ことに基づいており、ベースのスタイルが既存のベルジャンスタイルに該当しない場合は、その他のビアスタイル、具体的にはフルーツビールやブレットビールなどに該当するはずなのである。
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