隣の異世界は有名人だらけ 2
「有名ですとも。いや有名だって。ほらっ、あの船中八策とか書いた人だし、西郷隆盛とも」
あれっなんだろう。不思議そうな顔してるよ、リョーマさん。ん?いま一瞬顔が見えたような。実体化したの?
「なんね?センチュウ八朔?サイゴ?なんのことぞね。まだ八朔にはずいぶんと間があるぜよ」
なんか話がおかしい。どっか違う。船中八策知らないとか変。でも、まだ間があるってなに?もしかして8月1日のことを八朔っていうから、それと勘違いしてる。それとも船中八策のこと知らないの?西郷隆盛のことも?
「いやだから、坂本龍馬っていえば」
「知らんな」
「でもさっき、勝海舟の知り合いって」
「勝先生は知っちゅうけど、勝先生の最期ち、先生はまだ生きちゅーぜよ。そいから八朔?八朔は知っちゅうが、まだまだ暑い盛りじゃき、行水でもつこうにはええけんど、センチュウいうのんは知らんぞね」
やっぱり八朔違いだ。どうにも話が噛み合わない。あぁでもわからないじゃないな。ボクが知ってるのはテレビや小説、マンガの登場人物の坂本龍馬で、リアルに知ってるわけじゃないからね。
って、この現実を肯定してどうするんだって。それにしても西郷さんを最期って。まぁ悲劇的な最期ではあったみたいだけどね。
「そうだ、さな子さんとはどうなりました。」
「サナコいうんはあのお転婆かえ?」
おっと語尾が上がったね。
「単刀直入に聞くけど、どうなの好きなんでしょ」
まぁ結局二人が別れたってのは知ってるんだけどね。でもほら、こういうタイミングでもなけりゃ坂本リョーマの恋バナなんて聞けないから。
「ありゃ苦手ちゃ」
「へッ!でもなんというか恋仲というウワサが」
「ウワサ?そがなんはない」
きっぱりと否定された。それにしても坂本龍馬ってなんか、ドラマとは喋り方がどっか違うんだね。
「あのぉ〜さっきから声は聞こえるんですよ。でもね姿が見えないんでちょっと不便なんですけど、どうにかなりませんかね」
言った途端、目の前に小汚い着物姿の男が現れた。髪はボサボサ、しかもなんか臭う。
その昔、ホームレスの匂いはカブトムシの臭いって後輩が言ってたけど、あぁこういうことですか。臭いにまで磨きをかけたホームレス。福山雅治とも、小栗旬とも違う、もちろん内野聖陽とも。ボクのイメージの中の坂本リョーマ的ビジュアルがきっちりと上書きされた。