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戯言秘抄 忘れた頃にゆるゆると

言ってみろだなんて。
自分で言っておきながら恥ずかしくなった。
まったく中央線あたりの学生芝居だって
今じゃもっと気の利いたセリフを使うというものだ。

だが、想定外の事態に直面してる割に冷静さを維持していることは、
私自身としては不思議であり、ある種収穫でもあった。
まるでもうひとりの自分を観察しているようだ。

京円は一瞬意外そうな素振りを見せてからおもむろに口を開いた。
「それを、アタシに言わせようと。そうおっしゃる。やれやれ旦那ってぇお人は、ほんに酔狂なお方で」
なるほど、そういう反応か。
すべてを知ってるというわけではなさそうだ。
それとも何かの探りをいれている。
いやこっちの出方を見ていると言ったほうがいいかな。
とにかくある程度の情報は持っているに違いない。
そこからはもう、できの悪い小芝居の応酬。

「京円、オレの手を見ろ。なにか思い出さないか」言いざま、ヤツの視界を遮るように手を顔に近づけてやった。驚愕催眠と言ったかな。とにかく芸達者な詐欺師が使いそうな手だが、相手を混乱に陥れるには十分だ。


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