散漫な記憶を拾い集めて
鶴は戦火の空を舞った。著者:岩井三四二
集英社文庫として出版されたという小説のタイトルがなぜか気になった。書評のあらすじをみると 主人公は第一次世界大戦の日本人フランス軍パイロットとある。
あっこれバロン滋野のことじゃないの。
そうだよ、一応作中の主人公名は錦織英彦となってるけど、モデルとなったのはどう考えてもバロン滋野こと滋野清武男爵です。
コルネット奏者という音楽家でありながら、フランス陸軍航空隊のエースパイロット。第一次世界大戦での撃墜数6機は、後年の撃墜王たちに比べれば少なくもみえますが、航空機の機数そのものが少なかった時代。エースの基準は5機撃墜だったとか。いやまさに当時の日本人唯一にして日本航空史上初のエースパイロットです。
戦功が認められてレジオン・ドヌール勲章とクロワ・ドゥ・ゲール勲章を受章、う〜んそうか、レジオン・ドヌール勲章は外国人受章者の1割が日本人とか聞いたことがありますが、池田理代子さんもそうですか。あれですね「ベルサイユのばら」。黒澤明監督に、イッセイ・ミヤケ氏、北野武監督。オッバロンつながりじゃないけど、薩摩治郎八氏もそうですか。まぁこうしてみると叙勲のイメージの割に、フットワークの軽い勲章のようです。
まぁそれだけならふ〜んそういう人がいたんだ。なんですが・・・。この滋野さんカッコいいんだよね。
当時、彼が所属していた航空隊はコウノトリ飛行大隊の名の通り機体のアイデンティティとしてコウノトリのイラストが描かれていたそうです。
ところが滋野さん自らペンキと刷毛を手にするとコウノトリの代わりに鮮やかな鶴のイラストを。
見守る怪訝な表情の同僚たちに向かってこういったそうな。「これは日本のコウノトリである」とね。
小説のタイトルにある鶴とはきっとこのイラストのことでしょうね。
後年、JALがそのエピソードにちなんであの鶴丸を・・・。ということはもちろんないとは思いますが、どうなんだろう。
さて鶴のマークの彼の愛機、当時最新鋭の高速重戦闘機スパッドS.VIIを彼はこう呼んでいました。「わか鳥号」と。このわか鳥なのですが、漢字では和香鳥となるらしい。
あ〜ぁ説明がいるなぁ。実は滋野さんの渡仏には、愛する奥様和香子さんの死が関係している節があるのですよ。愛する妻を失った傷心のあまり、日本を離れてフランスへ。もっとも最初は音楽学校への入学目的で、飛行機乗りになるなど考えてもいなかったようです。
愛ですか、愛ですねぇ。航空隊に志願したのも、死んで天国にいけば和香子さんに会えるという思いがあったからのようです。
しかし、そんな滋野さんに次なる転機が・・・。
人生って何が起こるかわからないものですね。