都バス06系統四ノ橋下車11
「WOW I'm American sexy queen!」腰をくねらせながらエミーがギャグを披露する。笑いながら俺も返し技「SORRY! baby I'm Samurai gay people」なんだか、二人とも笑っていないと場が持たないような気持ちになっていたんだと思う。笑いを止めた瞬間に大切な時間が消えてしまうことを知っている。臆病な動物みたいに。
二人きりの演芸大会は、まるでカポエイラの演舞のような技の応酬。リズムもシンクロしてきた。
「ケイシマウス、ケイシマウス、ケイシケイシマウス、みんなで歌おうケイシケイシマウス」その手できたか。
「エミーのことさ、エイミーって呼んでいい!」
「いいけど?」
「エイミー、エイミー、ラララッラララ、ラッラララッララ、エイミー、エイミー」こっちも負けずにディズニーラインだ。
「オッ、小人さんの合唱できましたか。まぁでっかくてごつい小人だこと」またしばらく笑いあったあと、エミーがポツッと言った。
「もう、戻れないんだね。あの頃の無邪気な笑顔には」まだ子どものくせに、昔を懐かしがるな。なんて言わないで欲しい。子どもだってある日急にスイッチが入るみたいに大人になる訳じゃない。うまくは言えないけど、大人の部分と子どもの部分がいったり来たりしながら、少しづつ変わっていくんだと思う。だから何も知らなくて希望や夢ばかりの時代を懐かしがることだってあるんだ。あんただってそう思うだろ。大切なものは無くしてから気づくんだってこと。だとしたら、今二人でいるこの時間もいつかは大切ななくしモノに思えてしまうときだってくるのかもしれない。
「そうか戻れないかもしれないか。でもあの人は、もっと遠くに行ってしまったのかもしれない。どこかで道に迷っちゃって」
「あの人って?」
「州次さんっていうんだ」ボクは州次さんとの出会いやなんかを彼女に話した。
「エイミーは何が有ったと思う?」
「あっエイミーって言った」
「ダメ?」
「良いけど、なんか新鮮。ちょっと気に入ったかもしれない」
「じゃあエイミーでいくよ」
「わざわざ、断るな。それより何か分かるかもしれないからその手帳見てみようよ」
ゴルチエのページには電話番号と記号、時間なんかが曜日ごとにきちんと書かれていた。通話記録のメモみたいだ。西荻店、新宿店、六本木店なんて都内のチェーン店みたいな店名と個人名、学校や職場、年齢も書いてあった。
「なに、これ?これだけじゃわかんないよ。」
でも、これから分かることがいくつかある。いいか考えてみてくれ。州次さんは血を流しながら逃げていた。奴はそれを追っていた。追っていたはずの奴が、その手帳を見たとたんに追うのをやめて、エイミーに襲いかかった。ということは。
「州次さんを傷つけても欲しかった手帳だったってこと。」
ボクはエイミーの言葉に頷きながら言った
「人を傷つけてまで欲しがるものなんてそうあるわけじゃない。そして、その手帳は州次さんのお気に入りのアイテムだ。手帳に書いてあることがわかるはずだ、でも」
「でも?」
「こっちは州次さんの電話番号も知らない。なんとかってデジタルクリエイターの学校に通ってて。実家は北海道だって事ぐらいで」
「ハッ、やっぱりケイシーくんって筋肉までノーミソだわ。はい、これはなんでしょう」エイミーは、ボクの顔にぶちあたりそうな勢いで例の携帯を突きつけた。
「いい、手帳には多分、あいつが秘密にしたかったことが書いてある。その秘密を手帳に書き留めるほどよく知っている州次さんと私に襲いかかってきたあの男。ああめんどくさいカルシウム男と呼ぶことにするねこれから。だから、あの二人は前から知り合いだって事。もしかしたら、友達だったり、何かの仲間かもしれない」
「そっか、その携帯には州次さんの電話番号やメールアドレスが記録されてるはずじゃん!」やっと分かった。ほんとにボクのノーミソって筋肉かも。