期間限定の探偵と7月のアイスクリーム3
困りものついでに言っておこう。先ほどわざとらしく探偵(仮)と紹介したが、正直に言うとオレは探偵としてはアマチュア的?というか正規の資格をもっているわけではない。
日本の探偵業務は許可制となっている。いろいろと手続き上のあれこれはあるが、探偵業務を開始しようとする日の前日までに公安委員会(警察署経由)へ届出を出す必要がある。
所定の探偵業開始届出書(別記様式第1号)に必要事項を記載し、履歴書や住民票などの書類を提出するだけで、だれでもその日から探偵になれる。
手数料は3,600円。書類に不備さえなければ探偵業届出証明書が発行される。仮にかつて暴力団員だった過去がある場合でも、脱退後5年以上を経過していれば探偵になるのも不可能ではない。
で、オレの場合だが、まぁ何事にも例外はある。反社会的な組織にも団体・グループに属したことはないが、つまりは無許可営業の探偵というわけだ。なぜ無許可でという質問には、他人と深く関わるのが苦手という理由で勘弁してもらえないだろうか。
ところで、調査費用20万円プラス必要経費とインボイス制度云々の関係はどうなるのだろう。一応、無許可ということで項目は雑所得というところかな。
とまぁ、真剣そのものの井川氏には、気の毒な話だが、オレは今いった程度の人間だ。どこまでできるかは疑問だが、できる限りは力になるつもりだ。さて、そろそろ本件についての話に戻ろう。
昭典氏が関わったその案件は、単なる事業継承とは少々どころか大いに趣が異なるものだった。話の主役は信金と同じ町内にある明治大正の時代から続く老舗の時計店。筆っぽい書体で真名島時計店の名が浮き彫りになった木製の大看板は、写真からもその風格が伝わってくる。
「その真名島家なんですが、元々は武士の家系でして」
井川氏のレクチャーによれば真名島時計店は、現在の当主で4代目。地域でも名家として一目置かれる存在なのだという。時計店の傍ら株など投資にも積極的で重ねるごとに着実の財をなしてきたという話からも武家の商法としては異例の成功者というべきだろう。
事業継承についても、特別トラブルというほどの問題はない。100年以上続いた時計商としての家業は3代目で一旦終了。5代目は来年からはクラシカルな店舗を生かした自家焙煎のサードウェーブコーヒー店を開業する予定だという。今どきなら同じサードウェーブでも、コーヒーよりビーン・トゥー・バー。チョコレートなんじゃないなんてうがった見方はなしだ。
そのための資金融資をということで信金の融資担当である昭典氏が登場するわけだが、この件についても問題はなし。融資にしてもむしろ信金側からお願いするような形だったらしい。
だが、問題はそこから思いがけない方向へと動き出していったというのだ。井川氏がなぜ相澤に相談し、相澤がどんな思惑でオレを紹介したのかが見えてきた。
なるほどね、そういうことですか。