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オレンジジュースとカポエイラ shot5


海岸を歩いていた。日差しがキツイ。オレがバンパイアならとっくに灰になってるってくらいの光と熱だ。ビールが飲みたい。真っ当な人間には新鮮な血なんかじゃなく、キンキンに冷えたビールが必要なんだ。そうだ、確か民宿のオバちゃんが昼飯と一緒に持ってきてくれたはずなんだが・・・ないね。ンっ?なんだ足元にあるじゃないか。

懐かしいなプリモだよ。手を伸ばして掴もうとすると、まるで人間を警戒するする子猫のように、ヒョイッと逃げ回る。なんて悪い子なんだ、ビールのクセに。
あんまり動くと開栓(あ)けた時に吹き出すじゃないか。いい子だからじっとしてろよ。そういえばプリモはスクリューキャップだったな。そっと近づくと一気に飛びかかった。

「触るな!掴むな!離せ!バカヤロー」
手のひらにやけに柔らかい感触が伝わってきた。これは・・・ええと・・・プリモじゃないな。手触りとか、フォルムが違いすぎっ?

「汚い、役立たずに加えてエロかよ。お前はッ」
一瞬で現実に引き戻された。同じだったのは強烈な8月の日差しだけ。運転席から睨みつける結衣の目力の前に、冗談を返す余裕さえなくしていた。

「えぇっと、それでここはどこで、オレはこれから何をするのかな」
恐怖とわずかばかりの罪悪感から下手に出たオレの質問に、結衣は悪魔の微笑みを返してきた。



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