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8月の雨3
「汚い、役立たずに加えてエロかよ。お前はッ」
一瞬で現実に引き戻された。同じだったのは強烈な日差しだけ。運転席から睨みつける結衣の目力の前に、冗談を返す余裕さえなくしていた。
「えぇっと、それでここはどこで、オレはこれから何をするのかな」
恐怖とわずかばかりの罪悪感から下手に出たオレの質問に、結衣は悪魔の微笑みを返してきた。
「気持ちよく引き受けてくれるってことでいいんだね」
完璧な落とし所だ。こいつは将棋指しにでもなればよかったんだ。名人やらのタイトルとは無縁でも、賭け将棋の世界でやっていけただろう。
「情報とか資料っていうのはあるんだろうね」
「ちゃんとしたのがあるならあんたに頼むわけがないでしょ。あるのはこれだけ」
突き出されたi-phoneのディスプレイでは小学校高学年くらいの女の子がこちらを睨んでいた。
「課長の娘とか?」
「子どものほうじゃない。この子が持ってるバッグ」
「これを探せっていうのか」
「半分正解」
いったいどういうことだろう。そんなオレの素直な疑問への配慮もなしに結衣は言った。
「辿れるだろ、あんたなら」また悪魔の微笑みだ。
そうだな、ここらでオレのことにというか、オレのちょっと特殊なスキルについて説明しておく方が良さそうだ。まぁ信じるか信じないかはそっち次第だけどね。