新しい日のとまどい シーン4
思い出せよ、思い出すんだ。実家の話聞いたことことあったっけか。・・・無いな。少なくとも覚えてはいない。子供の頃の話?なんか言ってたな。そうだ祭りだ。『一生に一度は跳ねるもんだ』そんなこと言ってたような気がする。
『ハネトっていうの』そう、そうも言ってた。ねぶた?違うか。ねぷた?なんかでラッセ〜ラとかもいってたよな。ねぶた?ねぷた?どっちか忘れたけど、とにかく青森だ。青森ってことはイタコか、恐山だよ。おい本物かよ。変に聞こえるかも知れないけど、少し落ち着いてきた。
不安とか恐怖なんて、原因がわからないから余計に怖くなるんだよね。でもイタコっていうのは霊を呼び寄せるんだよね。降霊術?となると彼女はそっちじゃないな。やっぱりエクソシスト?
ってことはだ守られてたのボクって?そうか愛されてたんだな。そう思うと一気に心の中が思い出で熱くなった。我ながら単純なものだ。しんみりと飲むには絶好のシチュエーション。我ながら都合のいい性格だよ。まぁまだ諦めきれないという指摘は否定できないけどね。
そこでふと気づいた。どうして別れたんだろう。もちろん理由はあるはずだ。だがどうしても思い出せない。どっちが言い出したんだ。何が原因だったんだ。まぁ別れ話というやつは、これが原因とシンプルに言い切れるものではないことくらいはわかっている。
結論に至るまでには様々なファクターが絡み合っているはずだ。僕たちのケースもその例にもれるものではないんだろう。とはいっても、どんな破局にだって決定的な場面ってやつがあるはずだ。それが思い出せない。別れたという事実の一つ前の記憶は、どれも幸せなそればかりだ。
喧嘩?したけど痴話喧嘩ってたぐいのやつだね。少なくともボクの方から彼女に不満は感じたことはない。では、彼女からはどうだ。そこだよ。ボクにはそのつもりがなくても、彼女にとっては不満だったり、無視、あるいは侮辱された。大事にされていない。などと思わせる行為があったのかもしれない。しかし、そういった場合にはなんらかのサインがあるはずだ。もしかしたら、女友だちのだれかに相談してる?
そこは確かめてみるべきかもしれないな。誰がいい。僕たちの共通の知り合いで女性となるとだれだ。そのあたりに関してもない。少なくとも覚えてはいない。なんか変だな。そもそも、彼女の友だちにあった記憶がない。それどころか、話の中にさえ女にしろ、男にしろ彼女が友だちを話題にした記憶がない。
それだけじゃない。家族や学校の話すら聞いたことがない。ふつうはどうだろう。ありえないなそんなこと。出会いというか付き合ったきっかけはなんだっけ。思い出せない…。そもそもなぜ、今までそのあたりのこと、おかしいと思わなかったんだろう。