東京「警戒心」
東京で暮らしてたとき、怖かった思い出がいくつかある。そのうちの一つを記しておきたい。
それは今から3年ほど前のこと
その日は土曜日で、仕事が正午で終わった。
京王線の電車に乗り、途中で下車して寄り道を済ませた後に再び京王線の電車に乗車した。
車内を見渡すと座席は埋まっており、わたしは乗車口横のひと1人分立てるスペースに立つことにした。
hspの特性なのか、周囲の人の存在に無意識に刺激を受けてしまう。
周囲への警戒心だろうか...
電車にのるとき、周囲に背を向けて立つのではなく、周囲を見渡すように立つ癖がある。
ケータイを弄っていてもたまに周囲を見渡してみたり、どんな人が乗車してるのか観察してみたり。
その日、いつものようになんとなく周囲の人を見渡すと、背が高くスラッとしてミニスカートを履いたスタイルの良い女性が気怠げにケータイを弄りながらつり革に捕まり立ちしていた。
その横には中年のおじさんがつり革に捕まり立ちしていた。おじさんは斜めがけのショルダーバッグを手にぶら下げて持っていた。なんで肩にかけずに手で持ってるんだろうな、と一瞬そんな疑問が浮かんだ。
女性とおじさんの距離は妙に近かった。
なんとなく、おじさんの方が女性に近づいて立っているような印象をうけた。
座席は埋まっているけど、車内は空いている。
どこのつり革に捕まってもいいくらいつり革捕まり放題で空いているのに、わざわざそんな近くに隣あって立つかな...?と疑問に思いながら、なんとなく女性とおじさんの後ろ姿を見ていた。
おじさんが女性に近づいて立っているというよりは、おじさんの手に持つショルダーバッグが不自然に女性に近い。
まるでわざと女性の近くになるようにバッグを持っているような...
おじさんは不自然な感じで女性のスカートの下にガバンがくるように持っていた。
そのガバンをじっと見てみると、ガバンのファスナーの隙間から黒いガラス玉のようなものがキラリと光って見えた。
(あ、盗撮だ...)
おそらく、ガバンの隙間から覗く黒いガラス玉はカメラのレンズだ。
だからカバンの持ち方に違和感があったのか、と納得した。と同時に、盗撮犯に居合わせた事実に動揺した。
私の他に気付いてる人はいないかと周囲を見渡してみたが、みんなケータイに夢中で下を向いており、誰も気づいていない。
盗撮されてる女性ももちろん気づいていない。
こう現場に遭遇したとき、咄嗟に行動に移せない。声に出せる人は凄い。
どうしようどうしようと考えた。
声に出して、逆上されたり暴れられたら?
協力してくれそうな男性に声かけてみるか?
知らない人に突然「あの人盗撮してます」なんて言って信じてもらえるか?
女性とおじさんの間に無理やり割り込んで阻止するか?
と思考回路を巡らせていたとき、盗撮犯らしきおじさんが私の視線に気付いてしまった。
わたしがおじさんのガバンをじっと見ていたことに気づいたのだ。
おじさんは手にぶら下げていたガバンを両手に抱えるように持ち直し、少し空けていたファスナーも全て閉めた。
その行動は自分が盗撮してましたって言ってるようなものなんだけど...実行犯として捕まえることは無理になってしまった。
その後渋谷駅に到着し、殆どの人が下車した。おじさんも下車したので、わたしも駅員か警察に「こういう盗撮犯がいました」と報告をしに行こうかと思い下車すると、おじさんとバチリと目があった。
まるでわたしが下車するのを待っていたかのように、5メートルほど離れた場所からじっとわたしの方を見ていた。
ゾッとしたわたしは足早に人混みに紛れるように改札口まで向かった。
(後をつけられている)
と思った。
おじさんはわたしが駅員か警察に行くことを警戒していて、わたしの後をつけて歩いている気がした。
(怖くて後ろは振り向けなかったので、本当にあとをつけて来ていたのかは不明。わたしの思い過ごしかもしれなかった。)
ありがたいことに渋谷駅は人で溢れ返っていて、人混みに紛れることは簡単だった。
人混みに紛れながら早歩きで改札を抜け、エスカレーターを早歩きで降り、人で溢れている渋谷スクランブル交差点をダッシュして走った。
このまま警察署へ行ってみようか迷ったけれど、おじさんが待ち伏せしてたら怖いと思ってやめた。
そのまま地下鉄へ向かい、そこでやっと後ろを振り返ってみた。
おじさんは着いてきていなかった。
その後何度も後ろを振り返りながら家まで帰宅し、やっとホッと息をつくことができた。
盗撮犯に遭遇したことは警察署のメールフォームから男の特徴や路線など記入して送信した。
盗撮犯に遭遇したとき、その場で声に出せなかったことを後悔しながらも、京王線で盗撮犯が捕まったニュースを見るたび、あのおじさんも捕まってますようにと祈るのだった。
(本当にカメラが入っていたかは不明で、本当に盗撮していたのかも今になっては不明です...)
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