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アート・ファーマーの輝いていた頃、 (JAZZ ESSAY 9)

Farmer's Market /Art Farmer (Prestige 8203)
僕は一体どの位、聴いた事だろう・・・。高校時代から毎日通っていた、明大前のジャズ茶房”マイルス”で実によくかかっていたのだった。このアルバムの他にもアート・ファーマーはよくかかっていた。なにしろ、”クール・ストラッティン”にも参加しているのだから・・このレコードが吹き込まれた1950年代のアート・ファーマーは精力的に活動していて、トランペットの音もとても輝かしい響きがあって,はち切れんばかりであった。”ファーマー・メッツ・グライス”(prestige),"Evening in Casablanca"等,特に、ジジ・グライスとのコラボレーションが多かったと思う。
  "Farmer's Market",このアルバムはA面の1曲目”With prestige"という、ケニー・ドリュ-のオリジナル曲が実にこの時代の空気を感じさせてくれている。リクエストはもっぱら、こっちの面だった。本当にこの頃のファーマーは魅力的だった。クールで知的なジジ・グライスとやってもいいし、熱い、ジャッキー・マクリーンと共演しても実にしっくりいっている。本当の名手とは彼みたいな奏者を言うのだろう。しかし、50年代にはなんと、沢山の輝かしいトランペットの音が聴けた事だろう。マイルス、クリフォード・ブラウンはもとより、ファッツ・ナバロ、ドナルド・バードにリー・モーガン、リチャード・ウイリアムス、等など。これらの輝かしいサウンドは今となってはもう、レコードの中でしか聴く事は出来なくなってしまった。アート・ファーマーも亡くなってしまった。
  50年代の輝かしい活躍と輝かしいそのトランペットの音色は後のギターのジム・ホールと共演した、ハーフノートのライブ盤(Atlantic)では、トランペットから,フリュウーゲルホーンに変わった事から,より彼のリリカルな面が、聴ける事になった。”From Sweden with love"(Atlantic)では,より彼のフリューゲルホーンが渋みを増して,いぶし銀の様なサウンドを作り出していたのだった。50年代の明るく輝かしい音色から明らかに,より知的でリリカルな方向へ向かって行ったのだった。
でも,50年代のアート・ファーマーのあのトランペットの響きはプレステージ・レコードの日だまりの中にちゃんと入っているのです。僕たちがこのレコードをかけると,部屋中、50年代の空気でいっぱいになるのですから、音楽って不思議です。

  1. 2007/01/06(土) 02:48:50


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