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水星の魔女 感想/作中最も器用且つ不器用で臆病なシャディクという裏主人公

前回こちらの記事を上げましたが、その後無事に水星の魔女が最終話を終えて完結しました。今回はマーケティング云々とかは抜きにシンプルに感想を書いていこうかと思います。
途中で考察に類するような内容もありますが、設定資料などを細かく調べた訳ではなく放送を見ながら得た情報や印象をベースにしているので誤っている部分などはご容赦下さい。


■シャディク・ゼネリ


僕にとってはこのキャラクターの存在が非常に大きかったアニメでした。

TWITTERやウェブでの反応を見ると嫌いな人も多い印象です。実際にシャディクを嫌いだという人の感情も至極まっとうに理解できます。彼が事を起こさなければ死ななかった学生が多かったり、作中での役回り、立ち回りもそういうポジショニングでした。

シャディクはスレッタと対比される形で描かれていた様に思います。

水星の魔女は作品のメッセージとして「逃げたら一つ、進めば二つ」を徹底して伝えようとしていました。物語後半ではこの言葉からの派生で「何も得られなくても進むしかない」「進む事でしか変わらない何かがある」という事が示されました。一貫して前に進む事、歩みを進める事の意味を説いていた様に思います。

その中で
スレッタ:進む者
シャディク:進めない者

として明確に対比して描かれていました。

わかりやすかったのはミオリネとの関係で、両者ともミオリネに好意を持つ者として描かれていますが、それ以外については非常に対照的です。

スレッタ:いきなり現れたぽっと出
シャディク:いわゆる幼馴染

スレッタ:基本的に人を信じようとする
シャディク:猜疑心が強く人を信用していない(と言われてた)

スレッタ:ミオリネに向かって進んでいく
シャディク:ミオリネに向かいたいが進めなかった

スレッタ:みんなを救ったヒーローになった
シャディク:みんなを苦しめたヒールになった

スレッタ:ハッピーエンド
シャディク:バッドエンド


という感じで悉く日の目を浴びるスレッタと対比されていて、あまりに不憫な扱いです。

他にもグエルに対する発言からもシャディクの性質は読み取れました。
お前になら任せられる▶︎本当は勇気がなかった
真っ向勝負か。そういうところも昔から嫌いだった▶︎真っすぐ進めない自分

物語のテーマである「逃げたら一つ、進めば二つ」に対して、勇気を出して進めなかった者の末路と言わんばかりに、水星の魔女の物語の中で彼だけがバッドエンドに向かっていきます。様々な悪因を振りまいたプロスペラや怨嗟を生んだデリングですら救いがある中で彼だけは救いが無く物語が終わりました。

シャディクは作中では最後まで飄々とした態度で本心を僅かしか出しませんでした。唯一目立ったのは9話で、ミオリネの農園に足を踏み入れようとして「入るな」「信用できない」と言われ、その後にスレッタと邂逅した時のやりとりのみでした。表情がゆがみ、怒りを面に出した表情でガンダムと花嫁を貰うと言ったあの時だけです。

「あんたは信用できない」に対して言葉を失った表情

初めて自分から踏み込もうとしたら拒絶され、拒絶される要因となったスレッタに邂逅して思わず露わになった感情という感じで印象深いシーンでした。
もし彼の人生が分岐するルートがあったとしたらここでしょう。
ここで踏み込んでミオリネに言葉を続ける事ができればその後のあらゆる事が変わっていたかもしれません。ただ、このあたりの動揺や葛藤、本来は恐らく臆病な性質であるシャディクの人間像がリアルに描写されていると感じました。これが閃光のハサウェイのケネスであれば「信用できない」と言われた後もうまく言葉を続けていたでしょう。器用な大人と、不器用な青年の差ですね。

彼は生い立ちも詳細は不明ですが、孤児という点でリプリチャイルドであるスレッタとも対比されています。スレッタはその純粋さから、歪んでいた根っこはあったとしてもプロスペラから大事に育てられてきたと思います。シャディクは作中で明記されていなかったと思いますが、話の側面から予測すると戦争孤児でしょう。グエルが地球に行った際の子供の様な。
更に妄想を膨らませれば、裏設定などでは魔女狩りにあった魔女の中にシャディクの親が居た可能性もあります。徹底的に対比させるのであれば、スレッタの親であるプロスペラが魔女として描かれた様にそういう背景があってもおかしくはなさそうです。

話が逸れましたが、生い立ちについても上記の様な恵まれない環境で育った様な印象があります。その中で生きるために人を簡単に信用しなくなったり、猜疑心を育てたり、逃げる事でしか生き残れなかった事から染みついた進めない性質、というのが考えられます。

ですがシャディクはそこから単純な悪役という形には成らず、僕が見ていた中では「ひどく不器用なハサウェイ」というポジショニングになりました。

実際に最終回で公判に向かう前のミオリネとの接見でシャディクは「さようなら」を最後のセリフにして去ります。
これはシンプルに無期懲役的なものか、死刑を自身で予測している言葉です。これはハサウェイのラストに通じるものがあります。


もし、水星の魔女の2期や映画があるとすればメインの適役はシャディクになるというのは個人的には十分あり得そうだなと思ったりしました。
感情を殺して活きてきた不器用な青年が監獄の中で後悔に苛まれて、苛まれて、病んでしまう。何かのきっかけ外に出られて、それは例えばシャディクを思うシャディクガールズの誰かが彼を自由にする為に事を起こすとかもあるかもしれません。まぁ妄想なのですが。

とにかく僕が水星の魔女を見ていて1期後半あたりからは、スレッタと対比させる為だけに地獄の様な設定を与えられたこのシャディクというキャラクターがどうなるのか気になり続けました。そして最終話の最後の「さようなら」というセリフで予想通りのバッドエンドを引き受けた事で全てのキャラクターの中で最も人間味溢れて、深いキャラクターとして記憶に残る形になりました。

進めば二つ
進めたスレッタと
進めなかったシャディク

表面上はコミュニケーション能力が極度に高く器用な立ち回りができる反面、生い立ちからか弱さや本心を見せる事が極度に苦手であり、その一点のみで破滅に向かっていくのはあまりに皮肉な描かれ方でした。
テロ実行の後に義父であるサリウスが一言「愚かな息子よ」と、彼の性質を理解したような声音でボソッと一言漏らします。最も彼を理解していたのはサリウスだったのかもしれません。

個人的には数あるガンダムシリーズの中でも非常に好きなキャラクターの一人です。


■物語

という感じで物語はスレッタとミオリネにスポットを当てながら、重要な転換部はシャディクによって進められていきます。

全体は学園ものとして描かれて人物描写に重きを置きながら進んでいき、これは僕も往年のガンダムファン同様にこれまでの多くのガンダム作品らしくない感じに映り、最初は物足りなさを感じました。ですが11話12話あたりでテロが絡み始める事で、戦争と平和の温度差が妙にリアルさを帯びていき逆に他の作品よりも残酷さが際立つ印象でした。

24話構成という事で最後は非常に駆け足で進む展開でしたが、最終回終了後は視聴者の盛り上がりがSNSやウェブでスタンディングオベーションの様な感じが目に浮かぶようでした。僕も非常に良い視聴感でした、一部世の中の不条理を残してる様な面も含めて。

・ペイルテクノロジーズ
ウェブでは4BBAという感じでネタ扱いされていましたが、エラン4号を含めた数々の人体実験やモルモット扱い等、非人道的な活動を続けていた老人が最終回でワンカット穏やかな感じでお茶を楽しんでいるシーンは世の中の不条理を感じさせる演出でした。
処分されていったエランや強化人士、ノレアやソフィ、死んでいった多くの学生、その対比が酷かったです。

ちなみにこのペイルテクノロジーズ社の社章ですが、ネオジオンの紋章と少し似ています。


■ジオンの匂い

あと見ていて終始気になったのは水星の魔女の学生たちが着ている制服が過去のガンダムのジオンやネオジオン、ティターンズの制服と雰囲気が似ていた事です。


ZZのは時代的なものか、奇抜なデザイン感はありますが。カラーリングやアクセント等。

特にスレッタが着ていたホルダーの白い制服はそのまま逆襲のシャア等にネオジオンのキャラとして出てきても違和感はなさそうなデザインでした。

舞台が地球ではなくコロニーがメインである点でも、ジオンでの若者を主要キャラにした学園ものならこんな感じなのかなと思ったりしながら見る事もありました。

エアリアルを除くモビルスーツもどちらかというと過去のガンダムで言えばジオン寄りのモビルスーツが学生側にあり、ルブリス・ウルやソーンといったエアリアル以外のガンダムが敵側として登場したのもそういう印象を強めました。

■モビルスーツ

かなり久しぶりにガンプラに手を出してしまうくらいにアニメ自体も面白かったですしモビルスーツも魅力的でした。
その中で言えばキャラへの思い入れもありますが、シャディクの駆るミカエリスが一番印象的でした。

ぱっと見騎士を彷彿とさせるルックスですが右腕には他のMSと違って異形の右手が備えられています。それは同社の他のMSであるハインドリーと比較するとよくわかります。

これは憶測ですがシャディクというキャラクター性をミカエリスにも反映させた様なデザインにも思えます。

デザインや武装も含めて一番カッコいいなと思ったのはシュバルゼッテでした。



■終わりに

他にも語りたい事は色々とある濃厚な作品でしたが、シャディクというキャラクターがあまりに強烈な印象でした。省略あるいは簡略化された部分も多かったのでぜひ二期や映画が作られれば良いなと思います。

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