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既読無視の恋愛【1分小説】

僕はいつも冷静でいようと心がけていた。恋愛に関しても例外ではない。興味が湧いても、自分の気持ちを過剰に表現することはなく、相手に負担をかけることもなかった。けれど、彼女に出会った瞬間、そんな冷静さはどこかへ消え去った。

彼女の名前は美月。会社で隣の部署の人だが、直接のやりとりはほとんどなかった。会話もあまりしていなかったけれど、何度か目が合うことがあって、その度に不思議と心臓が高鳴っていた。最初は単なる偶然だと思っていたけれど、気がつくと、美月がいるだけで一日の流れが少しだけ特別に感じるようになっていた。

ある日、仕事のメールのやり取りをしているときに、ふとした拍子で彼女と二人きりになった。気づけば、いつの間にか「今日は何してるの?」と、少しくだけた感じで話しかけていた。正直、気がつけば無意識に言葉が出ていた。

「そういえば、明日ランチでも一緒にどうかな?」と僕が言うと、美月は少し驚いた様子で「うん、いいよ」と返事をくれた。その返事に、心の中で「やった!」と思わずガッツポーズをした。でも、その瞬間、僕は気づいていなかった。その「やった!」の気持ちが、後々大きな不安の種になることを。

次の日、ランチの約束を果たすことになり、僕はその日を心待ちにしていた。あれこれ考え、服装も少しだけ気を使い、緊張しながらも美月と会う時間を楽しみにしていた。ランチの席では、予想以上に楽しく会話が弾み、あっという間に時間が過ぎていった。

それからしばらく、メッセージのやり取りが続いた。最初はお互いに少し照れくさかったけれど、次第にお互いの近況や趣味の話をするようになり、共通点を見つけるたびに嬉しさが込み上げてきた。

そんなやり取りを続けていると、ある日、突然その出来事が訪れた。僕が送ったメッセージに対して、彼女は既読をつけただけで何も返事をしなかった。正直、最初は「忙しいのかな?」と思っていた。だけど、次の日、またその次の日、またまたその次の日、返信は来なかった。

僕は少し不安になり、次に送ったメッセージがまた既読になったが、それから一切返事は来なかった。無視されているわけでもなく、ただ「既読」だけがつくのだ。最初はそれほど気にしなかった。彼女が忙しいのかもしれない、とか、急用で返信できないだけだろうと自分に言い聞かせていた。

しかし、日が経つにつれてその「既読」に対する不安がどんどん膨れ上がった。僕は何度もスマホを開き、彼女の名前の横に「既読」と表示されたそのメッセージを確認するだけで、心臓がドキドキしてくる。返信をもらえないことに対して、何か心の中で不安が増していくのだ。

僕はどうしてこんなに気になるのだろうか。冷静になろうとしても、無意識にまたスマホを手に取ってしまう。何度も画面を開いては、彼女が返事をしてくれることを期待していた。そしてまた、「既読」のまま何も返ってこない。

そのうち、僕は自分に問いかけるようになった。「何か間違えたのか?」と。前のメッセージが何かまずかったのか?それとも、やり取りが少しうるさかったのか?それとも、もう僕には興味がなくなったのだろうか?

その時、僕は自分の過去の恋愛を思い出していた。こんな風に、相手からの反応を一つ一つ気にしすぎて、自分を追い込んでいたことがあった。自分の価値を相手の態度で決めてしまっていた。結局、いつもその結果は上手くいかず、最後には傷ついていた。

だから、今回は違うと思いたかった。自分を大切にし、冷静でいようと心がけていた。しかし、現実はそう簡単にはいかなかった。僕は、再び同じ過ちを繰り返している自分に気づいた。

結局、何度かメッセージを送った後に、ようやく彼女から返事が来た。「ごめん、忙しくて」とだけ書かれていた。安心はしたが、その後も以前と同じように、返事が遅れることが増えていった。そして、また「既読」だけがつくことが続いた。

その「既読」は、まるで僕を試すかのように、何度も僕を追い詰めた。返信を待ちながら、何度も自分のメッセージが正しかったのか、相手が求めていたのは何だったのかを考えていた。そして、何も返信が来ないままで数日が過ぎると、僕はとうとう気づいてしまった。

「既読は、一生返ってこない」

僕が送ったメッセージに対して、彼女からの返事はもう来ない。どれだけ心を込めてメッセージを送っても、どれだけ期待しても、その返事は一生返ってこないのだ。その事実を認めることが、僕にとって最も辛い瞬間だった。

その後も何度か彼女からの返信はあったが、心の中ではその「既読」に対する不安と焦りが消えることはなかった。僕は何度も反省した。自分があまりにも依存していたこと、相手に過剰に期待していたことを。そのことを理解していなかったから、こうして傷ついているのだ。

そして、僕はようやく気づいた。恋愛において、相手からの反応をすべて自分の価値にするのではなく、自分自身を大切にしなければならないのだと。それができなければ、また同じような傷を負うことになる。

彼女との関係は、結局、無言のままで終わった。それでも、僕はそれを悔やまなかった。むしろ、それを教訓にして、次に進むための一歩を踏み出さなければならないと強く感じた。

これからの恋愛では、期待しすぎず、自分の気持ちを大切にしながら、無理のない形で歩んでいこう。彼女が返事をくれなくても、それを乗り越えて、もっと自分を成長させることが大切だ。

次は、もっと素直に自分を出し、無理なくお互いに理解し合えるような恋愛をしていきたい。そう決意した。

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