インハウスロイヤーが暇になってしまったらー仕事は自分で作ろう!
1 暇な法務部員は存在するのかー法務部は忙しい神話
六法を小脇に抱えて忙しく動き回るイメージ(?)を持たれがちな法務部だが、部員間でも繁閑の差が生じることはよくあるものだ。法務部内で暇な部員が出ると、部署内のチーム間で仕事を融通しあったりすることもあり、実は筆者も本日まさに、他チームのヘッドから、当該チームの若手に仕事を回してやってくれという依頼を受けたところだ。
法務部員の繁閑は様々な要因で変化する。市場環境の変化による売れ行き商品・サービスの変化、事業部のリストラクチャリング、プロジェクトの進捗・改廃、法令改正、不祥事など突発事象の発生等々。そうした法務部ではコントロールできない外部的事情で、法務部員の担当業務のボリュームが一時的に増加又は減少することはありうる。増加の場合の対応はまた別に検討するとして(もっとも、勤勉で優秀な法務部員の場合、忙しい方が嬉しいという猛者もいるかもしれないが)、今回は業務の減少=つまり暇!の場合について考えてみたい。
2 法務部員が暇になったらどうしたら良いのか
①暇になる法務部員の特徴ーインハウスロイヤーの仕事とは
そもそも、暇になる法務部員には一定の傾向がある。それは、①前職の法律事務所での専門分野にこだわってしまう場合と、②依頼された仕事だけやるのが仕事だと考えている場合である。
しかし、暇になった法務部員において状況を変えたいと考えるのであれば、インハウスロイヤーの仕事と、法律事務所の仕事の違いをまず理解する必要がある。ざっくり言うと、インハウスロイヤーの仕事は、内部外部のリソースをうまく使いながら、会社の案件を遂行し、また、会社の足りないところを補うことである。複雑なドキュメンテーションや大量の調査・届出などの作業は外部法律事務所に任せ、自らはそうした外部のリソースをうまく回しながら、会社の案件全体の完遂をマネジメントするとともに、業務遂行の過程で発見したリスクがカバーされるよう会社の体制整備を補完することが期待される。当然、依頼待ちだったり、対応分野を限定してしまう姿勢ではこれらは達成できない。こだわりを捨て、社内をフィルターを通さず観察するのが第一ステップである。
②具体的な暇解消アクションプラン
①を理解すると色々見えてくるだろう。事業部の法令に関する知識が手薄になっていたり、誤解がある部分、今後注力が予想されるビジネスに対して、テクニカルな部分で補う必要がある点、将来の法令改正や現行法上の規制対応に関するリスク等々。これらを内部外部のリソースを使って解決していくことを考え、自ら実践していくことである。具体的なアクションプランは以下が考えられる。
(a) 外部法律事務所とのネットワーキング
法律雑誌を見てみよう。様々な外部法律事務所の先生方の興味深い記事が掲載されている。自社に足りないと思われる知見があれば、思い切って執筆者の先生にコンタクトしてみよう。それに際しては必要に応じて上司を担ぎ出すのも有効だ。また、外部法律事務所のセミナーには積極的に参加して、情報収集とネットワーキングを行っておこう。筆者の先輩には、外部法律事務所に自ら挨拶に赴き、案件初期段階の無償協力等の支援の約束を取り付けた猛者もいる。
(b)社内勉強会の実施
ご厚意が得られるのであれば、外部法律事務所を招いて事業部向けに社内勉強会を実施するのも一つの方法だ。勉強会のアレンジに際して、自社の関心事項を外部法律事務所に伝え、意見交換する過程も非常に勉強になるし、楽しい時間となるだろう。もちろん、アレンジに際しては必要に応じて上司を担ぎ出しておこう。
(c) 重要法令改正情報のチェック及び部内・社内共有
重要法令の改正動向を把握し、社内情報共有を行おう。コンプラなど隣接部門が担当するものであっても、最終的な責任の所在が明確になっている前提であれば、サポートする趣旨で情報共有しておくのは法務部員にとっても有益である。その場合、責任部署が改正法施行ギリギリのタイミングで駆け込みの救済依頼をしてきたとしても、毅然と外部法律事務所などに流しやすく、法務部がアンフェアな形でリスクを背負い込まされずに済むことにもつながるからである。
(d) 社内イントラネット等への情報掲載
時間のある時こそ、FAQや契約雛形などを整備して、イントラネットなど社内の誰もがアクセスできる場所に掲載しておこう。これらの積み重ねが、後日繁忙になった時多いに助けてくれることは間違いない。
(e) エレベーターピッチで役員等と話してみる/役員等と飲みに行く
コロナ禍には適さないかもしれないし、性格的な部分の適否もあるので決して無理する必要はないが、役員(その他企業規模に応じてアクセス可能な範囲のいわゆる偉い人)は自社の法令遵守体制や今後強化したいビジネス領域などについて問題意識を持っていることがある。自ら懐に飛び込んで行って、お悩みを聞いてみるというのもありだ。彼らは意外と孤独なこともあり、長いこともやもやと1人で抱えていた問題が、思いがけず若手法務部員のサポートがきっかけで解決する、などということにつながれば大当たりだ。しかし、もちろん、まずは(a)-(d)のような地道な活動を行うことが先決であり、決して大当たりを狙う必要などはない。
3 暇な法務部員の支援ー主に管理職の立場で
さて、暇な法務部員側の視点での検討を一通り終えたところで、今度は視点を管理職に移してみよう。前述の「仕事を回してやってくれ」という法務部内のチーム間での依頼は果たして効果的なのだろうか。
そもそも暇な法務部員自身が自らの職務を狭く捉えすぎていれば、もともとの所属チーム内ですら仕事がない状況で、他のチームのカバーするエリアに関して、当該部員にできる(というか当該部員が自分の仕事と考えている)仕事が発生する可能性の方が低いだろうことは普通に考えればわかる。
ここは管理職もダイレクトに「仕事を回す」という直裁な考え方をするのではなく、もっと幅広に、どうしたら当該法務部員が自らのオポチュニティを拡大することを支援できるかということを考える必要があるのではないだろうか。つまり、情報共有により、当該法務部員の視野を広げることである。例えば、法務部内での定期的なミーティングにより、現在抱えている業務、問題、注目している法令改正情報などを各部員が共有する時間があれば、そこから、具体的な支援要請が発生する可能性も出てくるし、当該部員が興味を持つ業務があれば、可能な限り参加させてみてもよい。また、その場で出てきた法令改正のキャッチアップなどを指示してみることもありうる。情報の流れをうまく使って、オポチュニティの創出に取り組みたい。