
【外資系企業】インハウスロイヤーと外部法律事務所の業務の棲み分け
1 本記事の目的
弁護士数の増加に伴い、法務人材市場や法務のアウトソースに関する議論を最近目にすることが多い。しかしそもそもこれら議論が法務に関する社内機能として何が存在し、何が外部からのリソースで調達・補完されているのかを検討された上でなされているのかについては定かではない。そこで本記事では、General CounselやChief Legal Officerといった法務の最高責任者を筆頭に法務部内にインハウスロイヤーが置かれ、インハウスロイヤーが制度として根付いている外資系企業において、インハウスロイヤーと外部法律事務所の業務がどのように棲み分けられているのかについて改めて整理を試みたい。なお、本記事は既に一般的に知られる事項を俯瞰的に集約することを試みたものであり、読者におかれては既にご承知の事項もあるかもしれないがご容赦願いたい。
2 外部法律事務所を使用する目的
インハウスロイヤーと外部法律事務所の業務の棲み分けを検討する前提として、外資系企業において外部法律事務所を使用する目的を簡単に整理しておきたい。主なものに以下の3つが挙げられる。
①リソースの補完
②専門性の補完
③特定専門分野のフルアウトソース
①リソースの補完は、膨大なドキュメンテーションを要するトランザクションや規制上のファイリングの対応や、一定期間において書面のレビューや調査などの作業が大量に発生する場合の対応等、社内リソースで賄いきれないボリュームの作業への対応を外部法律事務所の使用により対応する場合である。また、法務部内の人員異動によるリソース不足の補完のため外部法律事務所からの出向受け入れがなされることもある。②専門性の補完については、社内に不足する専門的知識を補う目的であり、新規分野への対応に際し外部法律事務所のアドバイスを受けたり、リーガルオピニオンを取得すること等がその例である。③特定専門分野のフルアウトソースについては、主に社内管理に関する事項について専門知識を有するグローバル展開の外部法律事務所にグローバル一括でアウトソースするものであり、具体的には知的財産管理に関するもの等がある。なお、上記①と②の複合的な目的での外部法律事務所の使用ももちろんありうる。
3 外部法律事務所の使用に関するインハウスロイヤーの業務
さてここで本題に入ろう。インハウスロイヤーと外部法律事務所の業務の棲み分けを検討するには、外部法律事務所使用に際してのインハウスロイヤーの業務を整理する必要がある。これには大きく(i)最適リソース配分の決定、(ii)コスト効率最大化のための問題の整理・アプローチの仕方の決定、(iii)案件期中管理、(iv)ベンダーマネジメント、(v)案件記録管理・その他の5つが挙げられる。以下これらの項目について検討していく。
(i)最適リソース配分の決定
最適リソース配分の決定については、日々刻々と変化する社内状況を前提に、個別の問題がどの部署により主に扱われるべきかということの決定に関与し、法務部が扱うべき問題については外部のリソースを使用すべきか否かについて検討・決定するプロセスである。このプロセスでは問題の内容・性質・リスク、社内リソースの状況、社内の業務分掌体制等が考慮され、場合によっては社内の事業部門の意向との調整が必要となる。
また、外部法律事務所を使用する場合、外部法律事務所に対して主に指示を出すのが案件をリードする事業部門であるのかそれとも法務部なのかといったチーム・プロセス編成面の決定を行うものこの段階になるであろう。
(ii)コスト効率最大化のための問題の整理・アプローチの仕方の決定
このプロセスは対象事項が複雑であるが故に必須となる。法務に関しては多くの場合、問題の素朴な観察や基礎的知識を踏まえない課題形成だけでは、法律事務所のフィーに見合った効果を得ることが難しい。外部法律事務所と論点ベースでずれたやりとりをするのは論外としても、最も検討を要する困難な部分を前提に譲ったリーガルオピニオンや、基本書に記載があるような基礎的な論点を中心にサマリーしたメモランダムで予算をすり減らすことを回避するためにも、外部法律事務所に持ち込む問題を適切かつ戦略的に定義・形成するのがこのプロセスである。特に外資系企業では日本法について知識を持たない外国人が関与することも多いことから、このプロセスにおいて社内関係者間の調整を慎重に行うことが肝要となる。
(iii)案件期中管理
案件の実施期間中の法務部の関与程度は、上記(i)での外部法律事務所への指示の出し方を含むチーム・プロセス編成に関する決め事によるところが大きい。別の観点では、内規上法務部が外部法律事務所の成果物を案件の稟議承認などに際して精査することが求められる場合などもあるかもしれない。いずれの場合であっても、適切なタイミングで外部法律事務所の成果物のレビューを実施し、適切な質問を行う等、案件を適切な方向に導くよう支援することが求められる。
(iv)ベンダーマネジメント
外部法律事務所も外部ベンダーという位置付けになるため、他の種類のベンダーと同様、ベンダーマネジメントプロセスの対象となる。但しこのプロセスは、通常のサプライヤーなどのベンダーと異なり、外部法律事務所については外部法律事務所の管理に適用される専用の内規が制定されていることが多く、また、法務部がその所管部署としてインハウスロイヤーが主体的にプロセスを回していくことが通常である。ベンダーマネジメントプロセスには(a)ベンダー選定、(b)契約交渉、(c)パフォーマンスモニタリング、(d)作業終了に関する連絡が含まれる。(a)ベンダー選定について、一般的に知られる通り外資系企業においては使用可能な外部法律事務所リストが内規の一部として置かれていることが多く、リストにない外部法律事務所を例外的に使用したり、リストに新たな外部法律事務所を加えるには特別な承認プロセスが必要となることが多い。一定のクオリティ担保とスケールメリットの享受がその趣旨と理解されるが、他方最近ではコスト管理の観点で新たな法律事務所を起用することのメリットを強調する議論も見られる(例えばこちらの記事)。但し、使用可能な外部法律事務所リストに掲載されていない外部法律事務所を新規にリスト掲載するプロセスは、情報セキュリティ面の施策に関する事項など様々な審査項目があり、外部法律事務所にとっても相応の負担を伴うプロセスとなることが多いことから、こうした手続面も含めての理解・検討も必要であろう。(b)契約交渉について外資系企業は、上記の使用可能な外部法律事務所リストに掲載された外部法律事務所と包括的な委任に関する契約を締結していることが多く、大きな案件を除き通常の個別案件の依頼については都度個別の契約を締結しないことが多い。他方、フィーに関しては個別案件毎の交渉が行われることが多い。フィーに関する交渉については、筆者の過去記事「外部法律事務所のコスト管理について」をご参照いただきたい。(c)パフォーマンスモニタリングについては、定期的に外部法律事務所のアウトプットの質などクオリティ面を中心にインハウスロイヤーが内部でフィードバックを上げるプロセスがあることが多いが、その他外部法律事務所に依頼した個別案件に関与する事業部門からのフィードバックが随時法務部に共有されることもあり、その扱い方について検討が必要となることもある。さらに、特定専門分野についてフルアウトソースがなされている場合、その管理を所管するインハウスロイヤーが定期的に外部法律事務所とミーティングを持ち、フィードバックや改善点の共有を行う等の取り組みを行うこともある。(d)作業終了に関する連絡については通常大きな問題を含む項目ではないが、作業終了のタイミングについては終了後に手付かずの残余の作業が生じることのないよう、案件の進捗を踏まえた法律的観点からの検討を要する。
(v)案件記録管理・その他
案件の記録管理を確実に行うことで後日の参照や情報共有が容易となるためリソースの効率的な活用という観点からも重要なプロセスである。また近年特に、企業内部の記録のみならず外部法律事務所とも情報共有が効率的にできるようなプラットフォームの導入などが検討されることもあり、これらもインハウスロイヤーの検討・対応事項である。
4 結論
以上の通り、外部法律事務所の使用に際してインハウスロイヤーの業務は案件発生から終了までをカバーし多岐に渡っており、こうしたファシリテーションの上に外部法律事務所の関与が成り立つことになる。インハウスロイヤーの立場としては、外部法律事務所と一層の効率的な協力関係を築くことができるよう、日々精進したい次第である。