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インハウスロイヤーの仕事(2) 案件のソーシングについて

前回、全社的重要性が高く、かつ、定型性・ルーティン性が低い業務(=経営陣の関心事項)を法務部のコア業務と位置付け、インハウスロイヤーはこれに時間を集中投下すべきことを述べた。前回のおさらいついでにここで念のため、このようなセグメント化・集中戦略は、時間・リソース管理として重要なだけでなく、インハウスロイヤーにとって取り組みがいのある、チャレンジングな案件を法務部に集中させ、チームメンバーのモチベーションを維持し、スキル向上・キャリアディベロップメントの機会を提供し、ひいてはレベルの高い人材を維持するためにも有益であることを付記しておきたい。

さて、ではここで、このようなコア業務を構成する、全社的重要性が高く、かつ、定型性・ルーティン性が低い業務(=経営陣の関心事項)をどのようにインハウスロイヤーのもとに呼び寄せることができるのか、案件のソーシングが問題となる。これを今回のトピックとしたい。

当然のことながら経営陣にも様々な人がいる。営業畑一筋で出世の階段を駆け上った人、管理部門で長い経験をしてきた人、ビジネスの企画・立案で辣腕を振るってきた人等、バックグラウンドに応じて知識・経験はそれぞれ異なるし、それに応じて関心事項も当然異なってくる。法律に興味がある人もいれば、法律の重要性はもちろん理解するものの、自ら探求するより、定期的にアップデートを入れてくれれば十分、という人もいる。役員間の業務分掌を明確にしている会社であればこの傾向は尚更顕著かもしれない。

ぜひ、ターゲットを間違えないようにしたい。法律的な事項を理解したり、ビジネス戦略の立案に際して法令を積極的に利用するといったことに関心を持つ人はいるか、いればそれがまさにアプローチすべきキーパーソンだ。日頃から会議などで同席する機会があれば、経営陣の発言内容を分析し、どのような人なのかを把握しておくことが重要だ。

その上で、組織内で未解決のままになっている問題や、誤解されたままになっているイシューを掘り起こしていく。組織には、実は法律上は可能であるのに、何らかの事情で法律上できないと誤解されているビジネスなど、法律の誤解故に未開拓のままとなっている領域が意外とあることなどもあり、こういうのは格好のトピックといえる。さらにこれに経営陣が関心を持っていれば言うことなしだ。経営陣やそのすぐ下で働く人とコミュニケーションを取り、このようなトピックを探知すれば積極的にこれを取り上げて調査していく。

もちろん従前「法律上できるのにできないと誤解されていたビジネス」などは特に、関係者の利害が絡む場合もある。ここで無理にインハウスロイヤーが前面に出て戦う必要などは全くない。外部法律事務所を入れて、意見を取ったり、会議を主催したりして、関係者が納得しやすい方法で正しい理解を浸透させていけばよい。経営陣の関心事項であれば当然、予算もつきやすいというものだ。

そうして後日、インハウスロイヤーに対し、経営陣から追加質問のための電話がかかってくることになる。「いやあこの前の話なんだけどさ、ちょっと検討してみてさ、実はこんな形で進めようと思ってるんだ。どう思う?」と。そうすればしめたものだ。

そんなことを積み重ねていくうち、それらはいつか大きな流れになり、組織に大きな変革をもたらしていく。これこそインハウスロイヤーの仕事だ。


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