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【インハウスロイヤー】キャリア上のリスクマネジメントとバリューアップ

1 2025年のマーケット展望
今回はインハウスロイヤーのキャリアにおけるリスクマネジメントとバリューアップについて考える。本日は2025年1月11日(土)、2025年仕事始めから既に1週間が経過しようとしている。2025年はトランプ政権への交代に関連するESGからの後退、そしてM&A需要拡大の予想など大きな展開の兆候が出てきている。平和と人権がTop Priorityであるという認識がグローバルで共有され、その上で、経済発展が達成されることを祈念したい。

足元の日本のインハウスロイヤー市場では、JILAの統計によるとこの10年で企業内弁護士数が約3倍に増加したとのことである。マーケットでは残念ながら、引き続き需要側の待遇に比して相当高いスペックの人材を求めるといった需給のミスマッチが指摘されるものの、他方で、一部企業のインハウスロイヤーの高待遇も取り上げられるなど、インハウスロイヤーのマーケットにも改善の兆しが見えてきている。Xやnoteなどのソーシャルメディアにおいても、企業法務や一般民事など様々なエリアからのインハウスロイヤーへの転向のニュースが見られ、大変喜ばしい限りだ。この傾向は当分続くであろう。

2 インハウスロイヤーのキャリア上のリスクマネジメントとバリューアップ
さて、前置きが長くなったが本題に入ろう。インハウスロイヤーは雇用契約上の地位に基づき給与の支払いを受ける反面、自らの環境や仕事についてコントロールを及ぼしうる範囲は限定的だ。日常の業務命令を受けることは当然として、さらに、組織再編や人事制度変更などの大きな変革の影響を受けたり、入社前には見えにくかった内部的な何らかの課題を認識することもあろう。自らの努力では如何ともし難い部分で勤務継続が難しいと感じる場合、組織を去る、という選択肢も検討する場合もあろう。一見これはネガティブだが、自らのキャリアを守り、さらに発展させていく上で必要な場合もあり、去ることこそがキャリア上の最大のリスクマネジメントとして機能する場合もあろう。

去ることを選択する場合、家業を継ぐとか家庭に専念する等の場合を除き、転職という形で次の機会を探すことになるが、日頃から準備できていないと効率的な対応が難しいのが転職である。仮に明日、転職が必要になったとしても、すぐにマーケットで訴求できるような存在であるために、日常業務の中で自らのバリューアップを図ることが必要になる。以下、そのためのアクションアイテムを取り上げる。

(1) 常に「CV・職務経歴書」「自己PR」を意識する
転職時にはCVや職務経歴書が最初の関門になる。今業務でやっていることをどう記載できるか、常に考えながら仕事をすることが重要だ。場合によっては、CV・職務経歴書に記載すればアピール材料になると思われるような業務が現に社内にある、又は発生しそうな状況であれば、自ら積極的に関係者に働きかけるなどして取りに行くことも考えられる。こうしていく中で、自然と市場価値の高い業務経験を積むことができ、自らの職務遂行能力や知識を高めることにつながる。

また、面接まで漕ぎ着けると今度は「自己PR」として、職務経験や実績を説明することを求められる。日常、今やっていることを面接でどう話せるか、までイメージができていると転職モードになった時でも効率的な準備が可能となる。面接対策については筆者の過去記事もご参照いただき、日常業務と転職時の面接でのアウトプットを常に関連づけてイメージできていると有益だ。

(2) 幅広い業務を経験する
一定範囲の業務を自らの業務と定義した上で、「コレが私の仕事なんです!」と、常にその範囲の中での対応のみを行うのは、一見安定的なので理解できるアプローチだ。しかし、いざ転職ということになった時には多少異なる状況になる。まずもってマーケットにおいて現時点と同じ限定的な対応範囲のポジションに空きが出ているなどということはむしろレアケースだ。次に、限定的な対応範囲しか経験していない人材へのマーケットの評価は「使いやすさ」の点で疑問符がつきかねない。一般的には「Iの字のキャリア」などと専門化を志向する考え方もあるようだが、一定分野で突き抜けた専門性を確立できているような場合を除き、一つの組織内での細分化された業務への固執は、人材の流動性を減殺する可能性が高い。可能な範囲で、ある程度の広がりを考えながら日常業務を遂行することは、いざという時にキャリアを救うことにつながる。

(3) リレーションを拡大する
リレーションというと業界の偉い方や先輩後輩との繋がりなどを連想されるかも知れない。それは重要だしそれが転職に役に立たないと言うつもりはもちろんない。ただ、転職に際して、これらの方々が常にタイムリーに自分に適したポジションを紹介したり後押ししてくれたりするかというと必ずしもそれは期待できない。

より手堅いやり方がある。日頃、人材サーチ会社の外国人などからかかってくる電話を無下にしていないだろうか。今すぐ転職しようと思っていなくても、時には話を聞いてみたらどうだろう。彼らはそのエリアのプロであり、マーケットについて有益な情報をもたらすかもしれない。さらに会話をきっかけに、ランチに誘われることもあるかも知れない。忙しいのは百も承知、しかし、時には行ってみたらどうだろう。実際に会ってみて、話をしてみて、どんな人たちなのか見てみる、それだけでも有益なこともあるし、さらに状況が変わった後のフォローアップで自分に必要な情報を今度はもたらしてくれるかも知れない。来るものをオープンに受け入れていくことで、今後につながるリレーションも自然にできてくるというものだ。

(4) 日常的に知識をアップデートする
(i)テーマを持つ

日頃業務上多く扱う事項など、自分の関心テーマを少なくとも一つは持って、継続的に法律雑誌などでそのテーマを追いかけて、知識をアップデートしていきたい。日常業務にも役立つし、転職の面接の際にも自信を持って臨めることにつながる。

(ii)法令改正に関する情報を追っておく
当然のことだが法令改正に関する情報は常に意識的にキャッチアップしておきたい。最近では法律事務所のニュースレターなど無償で入手できる情報も多く、また関連当局等のサイト上にも情報が集約されるようになってきており、やる気さえあればさほど難しいことではない。

(5) 余計なトラブルを回避する
いつでも転職できるように準備するとは言っても、「いつでも転職できるからいいんだ」などと言わんばかりに日常的に周囲と揉め事を起こしていては本末転倒だ(そんな人はもちろんいないとは思うが)。職場では極力余計な情報を出さず(詮索してくる人がいても一切相手にしない)、無用の感情のやり取りを生じさせないよう慎重な行動が要求される。

3 終わりに
以上、インハウスロイヤーのリスクマネジメントとバリューアップ、習慣づければいずれも必ずしも難しいことではない。インハウスロイヤーといえども一生安泰というわけではもちろんないので、常に自らの市場におけるバリューアップを考えながら日常業務に邁進したい。

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