
脊椎の理学療法:国内で取得可能な認定資格
注)本編では国際認定資格のみ扱います。2025/3/3追記
主な理由として化学的根拠に基づいた臨床を提供し研究成果を世界に発信するには国際的な団体を持つ方が都合がいいためです。理学療法は海外で生まれた治療体系ですので国際資格を取得するのが妥当だと考えます。
はじめに
脊椎には腰部骨盤帯を始めとした腰痛の主要発生源と頸部や背部といった運動器疾患で原因となりやすい箇所が集中しています。
股関節や肩の痛みが脊椎に由来することも多く海外では脊椎に理学療法介入するのは一般的です。
脊椎の理学療法には歴史上多くの手技が生まれ、繁栄し、また淘汰されてきました。
日本の場合、理学療法士の中で脊椎の理学療法を実践できる人は非常に少ないのが現状です。最たる理由は養成校で教えていないためです。
そのため日本で理学療法士として手技を学ぶ(または患者として脊椎の理学療法を受ける)には養成団体にてコースワークを受け認定を取得するのが一般的です。
なぜなら、関節モビライゼーションやマニピュレーションに代表される関節に対する徒手テクニックはインストラクターの指導が無ければ獲得困難だからです。
※カナダやニュージーランドでは新卒レベルで四肢(手足)の関節、脊椎の関節のうち合併症のリスクが少ない部位に対する関節モビライゼーションを実践可能です。素直にずいぶん先を行ってるなと思います。
専門学校、大学学部課程では
国家資格受験資格のための養成校の授業では脊椎に対する理学療法を教える環境が整っていません。そのため新卒の段階で介入方法を知りません。
新卒時の理学療法士の基準では脊柱に対する徒手理学療法を習得する必要がなく卒後教育に委ねられているのが現状です。
卒後教育の重要性
卒後教育を受けるかどうかは個人の理学療法士の意思に任されています。
2025年現在、日本では以下の方法、団体にて徒手理学療法の卒後教育を受けることができます。
※日本の大学院修士課程は研究、教育分野の単位が多く実技指導を行うことはほぼありません。臨床と研究が乖離している原因のひとつだと考えます。日本で大学院に進学しても(わずかな例外を除き)ハンズオンの技術は向上しません。
大学院(修士号)
大学院レベルで徒手理学療法を教えているのは東京都立大学のみです。
修士課程も同時に修了可能ですが定員に限りがあり2年間で必要な単位を取得する必要があります。こちらで修士号と共に取得可能なOMPT(運動器徒手理学療法認定士)認定資格を取得していれば脊椎の理学療法が実施可能と言えます。
各種認定資格(ディプローマ)
学位を伴わないもののディプローマ(卒後資格のひとつでサーティフィケートよりも上位)を取得できます。ディプローマは国際認定資格なので海外でも認定を持っていることをアピールできます。学位の順序については本記事末にリンクを貼っています。
OMPT(Orthopaedic Manipulative Physiotherapist:運動器徒手理学療法認定士)
OMPTは世界26の国と地域で大学院修士レベルの教育を行っています。詳しくは末尾OMPTに関する過去ポストのリンクをご覧ください。
カルテンボーン・ユーベンス、メイトランド、マリガン、パリスなどが提唱したコンセプトについては各国で偏りがあるもののOMPTの実技講習で習得可能です。各コンセプトをより深く学びたい方には以下の認定資格があります。
メイトランド、パリスに関しては日本国内に教育団体はないようです。
カルテンボーン・ユーベンスコンセプト
修士論文を省いたコースワークが滋賀にて行われています。OMPT認定資格取得可能です。詳しくは本記事末のOMPTに関する過去ポストをご覧ください。カルテンボーン・ユーベンスコンセプトは以下の団体で学べます。
マリガンコンセプト
ニュージーランドのブライアン・マリガン氏により開発されました。脊柱を含む関節機能異常に対して多様な手技を提唱、世界中でコースワークを開催しています。特に患者の自動運動を利用するMWM(Mobilization with movement)が特徴的です。
マッケンジー法
ニュージーランドの理学療法士、ロビン・マッケンジー氏によって考案された治療法です。
主に、脊柱由来の腰や首の痛み、手足の痛みや痺れに対して症状から分類し、分類に応じた姿勢指導やエクササイズ指導をセラピストが行い、患者自身が自分で治す・自己管理することを特徴としています。
DGMSM(ドイツ筋骨格医学会)
頭部から足部までを系統立てて学ぶことができます。DGMSMのカリキュラムは基礎だけで250を超す治療手技が用意されています。DGMSMのメソッドはドイツ本国では卒後5年目までに大半の理学療法士が学んでいるそうです。
シュロス法
シュロス法はドイツのカトリーナ・シュロス氏によって確立され発展してきた脊柱側弯症の運動療法です。脊柱を3次元的に捉え呼吸法を含めた運動や習慣的な姿勢等の修正により脊柱側弯の進行の予防や手術の回避を主な目的としています。
MSIアプローチ
MSI(Movement system impairment)はワシントン大学のサーマン博士らによって開発された筋骨格系に由来する疼痛に対する評価・治療方法です。こちらで詳しく扱われています。
SFMA(Selective Functional Movement Assessment)
SFMA は、FMS(Functional Movement Screen)の医療モデルで、疼痛を有する患者を対象とした評価および介入システムです。SFMAは、発育発達、身体部位の相互依存性、運動制御の原理に基づき、7つの動作に対するスクリーニングと詳細なアセスメントからなります。
ヤンダアプローチ
視診と徒手での評価・治療を基本としたマッスルインバランスに対するアプローチです。提唱者のヤンダ氏はヨーロッパのリハビリテーションの父と呼ばれているそうです。日本ではMTIという団体が養成コースを開催しているようです。詳しくは以下からご覧ください。
フェルデンクライスメソッド
フェルデンクライス博士によって提唱されイスラエルで発展したようです。博士は柔道からもインスピレーションを得ていたそうです。以下の団体が日本国内で活動されています。
終わりに
いかがだったでしょうか。
日本にもこれだけ多くの徒手理学療法を学べる機会があるのは先人たちのおかげです。
徒手理学療法に興味を持つきっかけはどの手技でも良いと思います。まずは気になるところから初めて、余裕があれば他の手技も知っていただきたいと思います。
私自身ニュージーランドでメイトランド、マリガン、オステオパスを学び、帰国後はカルテンボーンを教わり、SFMAの基盤となるFMSのベーシックを終え、MSIについては学会で講義を受けました。マッケンジー法のテキスト2冊は新卒の時に原著を全て読みましたし、養成校在学中にDGMM−FAC(当時のドイツ徒手医学会)にて四肢の徒手療法ベーシックコースを修了しています。それぞれの利点を活かして臨床が展開できるのは私の強みです。
介入方法が増えれば患者に利益をもたらす可能性が増えるのは間違いありません。ひとつのコンセプトに固執せず、常にオープンマインドでいたいものです。前提としてクリニカルリーズニングにより最適な手技を選択する能力が必要です。
日本特有の治療体系はここでは扱いませんがもちろん効果があるものも存在するでしょう。日本は世界的に見ても歴史が長く固有の文化を残しています。
しかし理学療法は独立した学問ですので効果の検証には臨床研究が必要です。臨床研究を展開するには日本人だけで行うよりも海外も含めた多数の地域で標準化されたプロセスを使用することが重要になってきます。
残念ながら本邦には国際的な発信力を持つ徒手理学療法集団はまだないと思います(理学療法と民間療法は違います)。今後国内の徒手理学療法団体が国際的な発信力を持ちオリジナルの視点を提供することを誰よりも期待しています。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
以下はOMPTについての記事です。併せてご覧ください。
以下の記事は本編で学位の順序について触れています。よければご覧下さい。