名馬と記録:がんばれ!ホッカイドウ競馬のコラム(第90回)より
えっ?! 僕はそのニュースを見て、我が目を疑い、思わず絶句しました。
「高知競馬のハルウララ号、連敗記録を91にまで伸ばしました……」
れ……連勝ではなく、連敗? そもそも連敗の記録で“伸ばす”だなんて言葉を使うの? と。
公営高知競馬、2003年7月27日の第4レースのことです。そこで記録、いや少し変わった記録が更新されました。その内容はなんと連敗記録!
ハルウララはニッポーテイオー参駒の7歳牝馬(コラム執筆当時)なんですが、成績がはなんと(0.4.4.83)。つまりデビュー戦から通算91連敗中の未勝利馬というわけなんです。
このハルウララ、どうやら神経質なタイプということで、レース前には緊張のあまり震えることもあるそうです。カリカリしたり、ちょっと臆病になったりする馬というのは聞きますが、緊張で震え上がる馬というのは……、なんだかどこか人間臭さを感じてしまいますね(笑)。
さて時を同じくして海の向こうから、「Zippy Chippy(ジッピ-チッピー)」という馬が97連敗を達成したというニュースが入ってきました。インターネットで調べてみると、記事には“Achievement”なんて言葉が添えてあります。辞書を片手に訳すと、 “偉業達成”ってところでしょうかね?(汗)ふーん、偉業なんだ……(苦笑)。
Zippy Chippyの父はCompliance(Northern Dancer直仔でトライマイベストやエルグランセニョールの全兄弟)、母はSex Appeal(母父:Buckpasser)と、血統としてはなかなかなハズなんですが…ね。
さて、こんな2頭が日米同時に、まさに流星のごとく現れたのは偶然なんでしょうか?
それとも競馬の神様の思し召しなんでしょうか?
もちろんそれは誰も知る由もないわけですが、両馬ともスゴイのは、重賞勝馬にも負けないほどの数のファンがいるということなんです。
Zippy Chippyはそのあまりの負けっぷりに、現地では大フィーバーに。ついには様々なエキシビジョンマッチが組まれる程だそうなんですが、お客さんで満員御礼らしいんですね。興行収入もなかなかなものだそうです。
非公式なレースでは、マイナーリーグの野球選手(つまりは人ですね)と2戦して、うち1戦は負けてしまったとか(どんな状況かは全くわかりませんが)。
いずれにせよ、お祭り好きのアメリカ人は、この馬のスゴさ(?)を放っておけないんでしょうね(笑)。
一方のハルウララの方も、多くのファンを抱えていて、90敗目のレースでは出走9頭中、未勝利馬でありながら4番人気!(結果は8着)、そして91敗目にいたっては、出走9頭中(1頭取消)、なんと2番人気に支持されていたというのです(ちなみに結果は残念ながら7着)。
注目すべきはハルウララが出走するレースは、出走しなかった同条件のレースと比べ、約1.4倍の売上があるんだそうです。うーん、高知競馬の売上に貢献していますね。
ところで……彼等がいつの日か勝利を手にしたとき、人々は喜ぶのでしょうか? それとも残念に思うのでしょうか?
きっとどちらでもあるんでしょうね。でもできれば、彼らが勝利を手にしたとき、笑顔がこぼれるような人々がいれば、彼等も幸せなのではないでしょうか。
ま、なんにしても、必ずしも「速さ、強さ」=「人気」ではないってことで、競馬は不思議なスポーツですよね。
でもねこの2頭、もう一つスゴイことがあるんです。確かに彼らは、90戦以上負けた馬です。それは事実ですが、また一方で、彼らはそれだけ走った馬なんです。無事是名馬。ホント頭が下がります。だから勝っても負けても、僕は彼等を応援したいと思います。彼らには「勝て!」とも、「負けろ!」とも言いません。
ただ一言、「ガンバレー!!」
【現代でのあとがき】
ハルウララとジッピーチッピーの繋がりを書いたのは、話題になり始めてすぐのことだったので、このコラムは、あちこちで取り上げていただいたようなんですね。某巨大掲示板のいろいろな板に貼られたようで、今風にいえばちょっとだけバズったといっても良いのでしょうか(汗)。この記事や私のコラムが、ハルウララ関連のページからずいぶんとリンクされたようです。
お蔭で高知競馬の公式サイトでもコラムを書かせていただいたりと、非常に良い思い出もあるのですが……ご承知の通り、かんじんなハルウララの方がね、ほら(ここではあまり書かないことにしますので、Wikipediaをみてください)。
結局のところ、ハルウララは113戦0勝で引退。その後も本当にほんとうに色々なことがあったようですが……今も元気にしているようです(ウマ娘でも登場してくれたのは嬉しかったですが)。
一方のジッピーチッピーの方は公式記録としては100戦0勝で引退、その後はフィンガーレイクス競馬場で誘導馬となり、それも2010年に引退して…というところまでは辿ることができました(2019年時点ではニューヨーク州グリーンフィールドの引退競走馬センターでの記録が残っています)。
で、前述のようなことがあった関係で、このコラムは特に印象に残っているコラム(文章)であったわけですが、個人的に伝えたかったのは、勝負としては勝つことが目的だろうし、レースという意味では1位を目指すのが自然なんだろうけど、応援するというのはそこが全てではない、というのが日本人の良いところであり、競馬の素晴らしいところであり、それはアメリカの人たちも同じなんだなーって思ったという話で。
勝ったらどうなるのか、というのは杞憂に終わったのですが、ちょっと見て見たかったなぁ(ちなみに上段のハルウララグッズは私の秘蔵コレクションです)。