サク山チョコ次郎でいい大人ぶりたい
夏休みだからか図書館には人が多く出入りしている。涼みがてら席を取り、本を読んだり書き物をする。帰り際にやることは水筒に冷たい水を補給してくこと。そんなお決まりの補給中にすぐ隣で机に向かっている子供をふと見たらふたまわり歳の離れた辰年のMだった。Mとはお世話になっている伊藤さんのダンスの教室で知り合った。ときたま街中でも見けて、やぁーと声をかけるのだが、図書館では初めてだった。何してるん?と声かけたら宿題と答えた。わぁ、がんばれよーとだけ伝え、その場はすぐに離れたのだが、なんだか沸々と、今までに感じたことがない、いや時折想像していた欲求が沸いていることに気がつく。すげぇ、いい大人ぶりたい。なんだろうかこの感情は。僕の周りにはいい大人が多い。優しく接してもらったり、時には何かをいただいたり、沢山頼らせてもらっている。ところが逆に言うと後輩付き合いのようなことはほとんどなく、なんだかふとカワイイ後輩にご馳走するだとか、そんなありきたりな先輩を演じてみたくなることが時たまあったのだ。それはまさに承認欲求。
そんなわけで、妄想シュミレーションを実践すべくローソンにおやつを買いに行くついでに、Mにもおやつを買っていってやろうじゃないかと(どちらかと言えばMにおやつを買って行くことがメインだったのだが)、勝手にやってる割に上から目線な思考を振り切りながらも僕はサク山チョコ次郎を握りしめた。100円程度のおやつでいい大人ぶろうなんて若干気が引けたが、それよりもやりたい!やってみたい!という欲求が勝り、とにかくいま持っているこのお金でお菓子を買って、はい、勉強終わったら食いなと、クールで優しいそんな大人ぶりたい。それでイソイソとウキウキとドヤドヤといったあらゆる擬音が混じりながら足早に図書館へと舞い戻った。
Mはまだ、勉強中だったのでそっとサク山チョコ次郎を差し出し、あたまの中で巡り巡らせてた言葉、はい、勉強終わったら食いなを繰り出して、手を振ってささっと帰っていった。Mはなぜか舞い戻ってきた大男に驚きながらも、半笑いで手を振ってくれた。そんな僕が自分のために買ったおやつは200円のエクレアだった。
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