見出し画像

あたまの中は忙しい。ひょんな一言で検索が始まる。

 山道を登って行くと「大仏に行く道はこちらで良いですか?」と、鉢合わせたハイキング中のマダムに声をかけられる。「はい、えーとここ下って行って、まっすぐ行くと着くんですけど、あれ?大仏って本当にこっちで良かったっけ?長谷の方だからあってるよな?ていうかまだ結構ありますよ。20分くらいは歩くかな?まあ看板出てるしなんとかなるか。そういえばこの前、ファミマの前で黒酢のドリンク飲んでたら中国の人に頼朝の墓は何時までやってますか?と声かけられて多分夕方とか17時くらいじゃないですかねぇ、と適当に返事してしまったな。なんでわかりませんとすんなり言えないんだろう。期待に応えようとしすぎじゃね?ああ、そう言えば河口湖行ってセブンの前で珈琲飲んでる時も観光客の西洋風の人にタバコは吸っていいですか?と聞かれて、初めてきた場所だからわからないしわかんないと言えばいいのに、あたり見回して、うろちょろして、灰皿無いから首を傾げてアイドンノウ。すぐにわかんないって言えたらいいのに。オオ、ワタシハワタシガアイドンノウ」とあたまの中で言葉が駆け巡る。大仏に行く道はこちらで良いですか?の一言から、あたまの中で検索エンジンがフル作動する。あたまの中は忙しい。そして絞り出した言葉は「えっとぉ、行けます」あたまの中は大忙しなのに言葉はてんで出てこない。表情はなんとかにこやかであった気はする。「少し歩くけどこの道を下ってくと市役所通りに出るので、信号渡ってそのまままっすぐ行くといけますよ」とか気の利いたことが言えたら良かったなぁなんてあたまの中ぐるぐるしながらまた歩く。

 買い物の帰り道ぼーっとしながら歩いてると突然車が緊急停車。なんや?と思って振り返ったら、運転席にドーナツ屋さんのSさん。「みぞこおはよー」と声をかけてくれる。「おおおお!Sさん、おはよ〜。あらお隣に見知らぬ女性が。新しいスタッフですか?調子はどう?というか久しぶりですねぇ。またまた〜」と「みぞこおはよー」の一言からあたまの中で言葉が駆け巡る。僕が絞り出した言葉は「うわあああああお」だ。おはようくらいは言いたい。しかしあたまの中で検索されたどの言葉も僕の声帯には引っかからない。出てきたのは言葉にならない声「うわあああああお」だ。ただこちらの方が反応としては素直な気がして、うまく言葉にできなかったけど、まあ良いかと妙に納得する。助手席の女性はなんか笑っていた気がするのだけど。

 あたまの中は忙しい。ひょんな一言で検索が始まる。そのどれもこれもうまくキャッチできず、なんとか絞り出した言葉になんだかなぁとなっては、どんどん動機がしてくる。苦しい。もっとうまく話せれば、もっとうまく言葉にできれば。なんというか無口に見える人ほどあまたの中でいろんな言葉が駆け巡ってたりするかもしれないのだ。こいつ全然しゃべんねーでやーんのなんて思わずに、色々言葉が駆け巡ってて、あたまの中忙しいんだなと大目に見えてあげてほしい。はて、僕は誰に向けて喋っているんだろう。

読んでいただき、応援していただきありがとうございます。