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ルポ 就活デモ2020

先日、約10年ぶりに復活するらしいという噂を聞きつけて、11月23日(勤労感謝の日)に決行された”就活デモ”に参加してきた。就活デモとは学生が就活(就職活動)に対する諸々の不満をぶつけるために、2009年に最初の就活デモが決行されて以来3年連続で実施されたもので、2011年を最後に途絶えていた学生主体のデモのことだ。勤労感謝の日に敢えてこのデモをおこなうのは過去3回ともこの日におこなわれた就活デモへのオマージュらしい。私は当事者ではなかったもののその3回のデモ全てに参加している。学校を卒業する時の景気で人生が左右されてしまうのはおかしいし、企業がその優越的な立場を利用して入口の段階で求職者に服従を求める態度が日本の労働者の奴隷精神を助長していると感じるからだ。本来、企業と労働者は対等な関係であるにも関わらず、長らく日本で労働運動が停滞しているのも、この日本独自の就活システムの影響が大きいと思う。

さて当日、集合場所の日比谷公園(中幸門)に着いてみると、まだ定刻の40分前だったためか主催者の学生は来ていないようだった。ただその代わり、どう見ても学生ではない怪しげな男たちが約30人ほど待機していた。瞬時に公安警察と分かったが人数が多すぎる。白々しく「就活デモですか?」と聞くと、「(主催者は)まだ来てない」という。公安に話しかけて返事をされたのは初めてだ、大抵は無視されるのだがコロナ禍で仕事が減っているためか普段より態度が暖かい。これならもう少しコロナ禍が続いても良いかもなどと不謹慎なことを考えつつ、前日に時間がなくてできなかったプラカード作りをその場所ですることにした。こうしていればまだ見知らぬデモ参加者にも私がデモの参加者の1人だと分かってもらえるし、集合場所が分からない参加者に対しての目印にもなる。手順としてはあらかじめコンビニのネットプリントで出力しておいた文言の書かれた紙を両面テープで段ボールに貼り付けるというごく簡単な作業だ。しかし屋外となるとなかなか室内のようにはいかない。地面で作業するとどうしても体勢が不自然になるし、風で舞ったプラカードを慌てて足で踏みつけるということも2〜3度はあった。するとそのたびに総勢30人ほどの公安が一斉にメモを取るのだ…その情報はいったい何の役に立つのだろうか。

プラカードが一通り完成したので、今度は自分の年齢を隠すためのコスプレをした(今回はカオナシを選択)。学生主体と宣伝されているデモに白髪混じりの四十男の姿があっては他の参加者に警戒心を抱かせてしまうかもしれないし、ネットで邪推されないとも限らないので自分なりの自主規制のつもりだ。コスプレと言っても首穴のない黒いマントのような布を被りお面をつけるだけの簡単なもので、途中マントの被り方が分からず試行錯誤していると、その様子も公安がメモを取っていた。ひょっとして来月の治安フォーラムには「就活デモの黒幕はカオナシに扮した四十男」という記事でも載るのだろうか。確かに私は黒い幕は被っていたが黒幕ではない。

そうこうしているうちに主催者の学生たちがやってきた。3人組のイケメン風で2人はすでに大学を卒業して社会人とのことだったが、昨年までは学生で、今の日本の就活制度に不満があり当事者の学生主催者をサポートしているそうだ。立派な心がけだと思う、こういう若者がいなければどう考えても不平等で理不尽な慣行が漫然と継続されてしまう。そもそも今の就活システムは2大大手と言われる職業紹介事業者が仕掛けたもので、学生と企業はそれに振り回されているにすぎない。事実1980年代までは大学教授やOBの斡旋で普通に学生の就職は成立していた。それが成り立たなくなったのは1990年代のバブル崩壊以降で、企業が一斉に採用を絞り込んだためだ。当時、不安に駆られた学生たちが手当たり次第に企業にエントリーシートを送り始め、それを商機とみた大手職業紹介事業者が就職活動をシステム化してビジネスにしたのが現在の”就活”の始まりなのだ。

職業紹介事業者にしてみれば学生は言わば商品であり、それを分かりやすい形でランク付けして企業に売っているにすぎない。企業もそれを唯々諾々と受け入れ毎年多額の紹介料を支払っている。日本の名だたる大企業であれば職業紹介事業者など介さなくとも簡単に学生は集まりそうなものだが、学生側が職業紹介事業者の宣伝文句に煽られ、そうしなければならないと信じ込んでしまっているためにそうもいかないのだ。これには大学当局の指導の影響も大きい、特に競争力のない大学ほど企業とのパイプが細く就職先を斡旋することが難しいため、職業紹介事業者のいわゆる”ナビサイト”への登録を勧めているのだ。大学といえど学生を確保するためには就職率を上げることが重要で、そのために学生たちは大学生活の半分を就活に費やし、大学当局もそれを容認しているのだ。結果として学生の本分であるはずの学業は疎かになり、現在の大学は学生たちから”就職予備校”と揶揄されている始末だ。

さらに就活のルールメイクも職業紹介事業者の独擅場になっている。真夏でも全身黒ずくめのリクルートスーツや事実上の採用選考の場となっているインターンシップ、適性検査のSPIも職業紹介事業者の主導だ。細かいところではお辞儀の角度やノックの回数など、誰が決めたのか分からないマナーという名の就活ルールで学生たちはがんじがらめになっている。逆に企業は学生に対してハラスメントが疑われるようなことを平気ですることがある。変に騒げば目を付けられると学生たちが恐れていることを知っているからだ。たまに学生に対して差別発言や性的行為を強要したことがニュースになるが、それらは氷山の一角にすぎない。それでもその状況が維持されてきたのは当事者である学生たちが不満を訴えてこなかったからだ。今回の就活デモはそうした不満を公に表明することによって、漫然と現状に甘んじて変化を恐れる社会に一石を投じることを目的としている。

もちろん主催者たちは参加者が過剰なリスクを負わなくてすむよう色々と気を遣っていた。素顔が分からないようにお面やマスクを配布したり、集まったインディペンデント系メディアに対しても当事者のプライバシーが保たれるように要請していた。とはいえ過去に就活デモに参加した学生の中にそれに参加したことで不利益を被った人がいたという話は聞かない。むしろその行動力が評価されて大手メディアに内定を決めた学生もいたくらいだ。当事者である学生たちがナーバスになる気持ちも分からなくはないが、就活デモに参加したことで不利な扱いをする企業があるとしたら、そんな企業にはむしろ入らないほうがいい。先にも言った通り企業と労働者の関係は対等であって、労働者側に不満があればそれを改善していくのがマトモな企業のすることだからだ。私の知り合いの人事のプロも今の就活制度は馬鹿げていると批判していた。社会人の中にも今の就活制度がおかしいと考えている人は意外と多いのだ。なぜなら彼ら(概ね40代くらいまでの人たち)も歪んだ就活システムの被害者であり、現在の学生と同様の不満を持っていたからだ。

結局、集合場所に集まったのは主催者を含め20名弱と少数だったが、たった20人と侮るなかれ、彼らの意志と行動力は並々ならぬものがあり、一人一人がリーダーの資質を持った言わば精鋭である。以前に東洋大学で元経済財政政策担当大臣の竹中平蔵の講演会が開催されることになったとき1人で抗議の声を挙げていた学生や、2010年の就活デモの中心メンバーで東大卒の社会人も応援に駆けつけていた。女性も3名ほど参加していた。事前に大きな話題になっていたわけでもなく、主催者も宣伝に苦戦していたことを考えれば、予想以上の参加人数と言えるだろう。恐らく潜在的にはこの数百倍〜数千倍の学生たちが同様の不満を抱いているに違いない。それだけ現在の就活制度に不満を抱いている学生は多いのだ。

定刻になりデモが開始されると、事前に募集していたシュプレヒコールが読み上げられた。

【就活全般】

大学生活を返せ!
学生の人生をもてあそぶな!
大学で勉強させろ!
大学は就職予備校じゃない!
就職活動、早すぎるし長すぎる!
生殺与奪の権を面接官に握らせるな!!
「採用には関係ありません」嘘つくな!
就活ルールを守れ!
平日に面接するな!
平日にインターンするな!
夜10時に電話かけるな!
非通知で電話かけるな!お前誰やねん!
非効率な就活マナーやめろ!
意味不明な就活マナーやめろ!
真夏にスーツ着させるな!
オフィスで水着着るぞ!
真冬にスカート着させるな!
ノック3回、誰が決めた?
手書きのES、時代遅れ!
コミュカってなんだ?
自己分析ってなんだ?
就活セクハラ、今すぐやめろ!
パンプス強制、ふざけるな!
面接で恋愛経験を聞くな!
就活で、おっさんの性欲を発散するな!
トランスジェンダー差別をやめろ!
人間の価値を性別で判断するな!
女子学生も地方学生も差別するな!
交通費よこせ!
新卒一括採用やめろ!
まともな就職先を用意しろ!
コロナは私たちのせいじゃない!
夢を諦めないぞ!
自己責任に屈さない!
おかしいことにはおかしいと言おう!
日本の未来を担うのは、私たちだ!
威張っていられるのも、今だけだぞ!
私たちは奴隷じゃない!
就活生は声上げよう!
労働者も声上げよう!
就活をぶっ壊す!

【リクルート関係】

就活奴隷商人リクルート!
まだ、ここにない、奴隷との出会い!リクルート!
就活生の涙で食う飯はうまいか?リクルート!
セクハラ対策にカを入れろ!リクルート!
まともな求人を案内しろ!リクルート!
就活で金儲けするな!リクルート!
不安を煽って、商売するな!リクルート!
生殺与奪の権をリクナビに握らせるな!!

【経団連関係】

生殺与奪の権を経団連に握らせるな!!
経団連よ、就活生の声が聞こえるか?
経営者は就活生の声を聞け!
労働者から搾り取った金で食う飯はうまいか?
若者の涙で食う飯はうまいか、
経団連経団連、もうええかげん、にせい!
経団連、そろそろ一括採用やめても、ええんじゃね?

沿道への呼びかけ案お騒がせしています。私たちは「日本の就活はおかしい」と感じ、デモをしています。新卒一括採用、就活の早期化・長期化、女性やLGBTへの差別など問題点は山のようにあります。就活に違和感のある方は、ぜアト就活デモにご参加ください!#(ハッシュタグ)就活デモ2020で、一緒に声を上げていきましょう。

就活デモ2020実行委員会賛同できるコールがあれば、ぜひー緒に声を上げてください!言いたいことがあれば、自由に言ってもらって構いません。(差別や誹謗中傷はご遠慮ください。)適宜、インターネット上で募集したコールや呼びかけを挟みます。

さらにデモのゴール付近の経団連前でも街頭宣伝がおこなわれた。一人一人が拡声器を使い自分自身の思いや体験を訴える。交通費の負担が重すぎる。セクシャルマイノリティ当事者が繰り返し性別を問いただされた。パンプスが痛い…など内容は様々だ。特に深刻と感じたのは奨学金に関することだ。現在の学生の約半数は奨学金を借りて大学に進学している。奨学金と言っても返済期限のある有利子の負債であり、借金と何も変わらない。この返済が卒業と同時に始まるために内定を得られなければ死活問題になるというのが現在の学生たちが置かれた立場なのだ。このことが学生を追い詰め、企業をさらに有利な立場に押し上げていることは言うまでもない。以前、外国人実習生として日本に働きに来る人たちが母国でブローカーに多額の借金をしているために、日本の職場で非合法な扱いを受けても訴えられないということが問題になっていたが、現在の学生たちが置かれている立場はそれと何ら変わらない。このことは決して学生たちだけの問題ではない。私たち一人一人が真剣に考えなければならない社会問題なのだ。

《関連リンク》

インディペンデントメディアIWJによる中継

セクシャルマイノリティ当事者の訴え

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小島 鐵也
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