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実は根拠規定がない?景品表示法に基づく処分の公表の位置付け

消費者庁が景品表示法に基づく措置命令及び課徴金納付命令(以下「措置命令等」)を行った場合、当該措置命令等の事実は消費者庁HPで公表されます。
ところが、実は景品表示法には措置命令等の公表に関する規定がありません。それでは、どのような整理でこのような公表が行われているのでしょうか?

このnoteでは、そもそも法律の根拠が必要な行政活動はどのようなものなのか?といった疑問に答えながら、公表の目的に応じた法律の根拠の要否などについて解説します。


1 公表規定が存在しない?

冒頭に記載したとおり、景品表示法には措置命令等が行われた場合の公表規定が存在しません

確かに、景品表示法には、以下のとおり28条2項に公表規定が存在しますが、下記文言からもわかるように、同項はあくまでも「28条1項に基づく勧告に事業者が従わなかった場合」、すなわち26条1項に基づく管理措置を講ずべき旨の勧告への不服従があった場合に、その事実を公表できるというものです。
そのため、同項は、措置命令等の公表の根拠にはなりません。

第28条(勧告及び公表)
1 内閣総理大臣は、事業者が正当な理由がなくて第26条第1項の規定に基づき事業者が講ずべき措置を講じていないと認めるときは、当該事業者に対し、景品類の提供又は表示の管理上必要な措置を講ずべき旨の勧告をすることができる
2 内閣総理大臣は、前項の規定による勧告を行つた場合において当該事業者がその勧告に従わないときは、その旨を公表することができる

2 法律の根拠を要する行政活動とは

(1)「法律による行政の原理」と「法律の留保」

それでは、どのような整理の下で措置命令等は公表されるのでしょうか。
この疑問に答えるためには、行政法の基礎理論に立ち返る必要があります。

行政法学の基本的な考え方の一つとして「法律による行政の原理」という考え方があり、その内容の1つとして「法律の留保」があります。
この「法律の留保」とは、様々ある行政活動のうち、どのような行政活動につき法律の根拠が必要なのか(法律に留保されているか)を問題とするものです。

(2)侵害留保説

上記「法律の留保」の範囲をめぐっては議論がありますが、伝統的かつ行政実務上採用されているのは、「行政活動のうち、私人の自由や財産を侵害するものについては、法律の根拠を要する」という考え方(侵害留保説)であるとされています。

逆にいえば、私人の自由・財産を侵害しない行政活動は、法律の根拠なく行うことができるということになります。

ちなみに、行政関係の法律には、①組織規範②規制規範及び③根拠規範の3種類が存在します。具体的には、①組織規範は「●●省は~~という事務をつかさどる」というように行政組織の事務分配を定めたもの、②規制規範は個別の行政活動が可能であることを前提にその手続等を定めたもの(例:行政手続法)、そして③根拠規範は個別の行政活動の要件と効果を定めたものです。
「法律の留保」において根拠となる「法律」とは、このうち③根拠規範のみを指します。

3 公表に法律の根拠は必要か

(1)侵害留保説から見た公表

以上を踏まえると、行政機関による公表については、侵害留保説からは「公表のうち、私人の自由や財産を侵害するものには法律の根拠が必要だが、そうでないものには不要」と考えることができます。

では、どのような公表が「私人の自由や財産を侵害するもの」なのでしょうか。
様々な考え方があり得る問題ですが、伝統的には、公表の目的を二分して、①違反に対する制裁目的の公表には法律の根拠が必要だが、②国民に対する情報提供目的の公表には法律の根拠は不要、と考えられています。

このような考え方に対しては、「実際問題として、②情報提供目的の公表であっても、公表された側には損害が生じることがあるのでは?」との指摘がありそうですが、上記の伝統的な考え方によれば、そのような損害は事実上の効果に過ぎず、公表の法的効果ではないから、侵害留保説にいう「侵害」には該当しないと説明されます。

参考裁判例として、O-157に起因する集団食中毒に関する厚生大臣の公表について、東京高裁は以下のとおり判示して、当該公表に法的根拠は不要であると判示しています。
本件各報告の公表は,現行法上,これを許容し,又は命ずる規定が見あたらないものの,関係者に対し,行政上の制裁等,法律上の不利益を課すことを予定したものでなく,これをするについて,明示の法的根拠を必要としない。本件各報告の公表を受けてされた報道の後,貝割れ大根の売上が激減し,これにより控訴人らが不利益を受けたことも,前記……のとおりであるが,それらの不利益は,本件各報告の公表の法的効果ということはできず,これに法的根拠を要することの裏付けとなるものではない。」

東京高判平成15年5月21日判時1835号77頁

(2)情報提供目的の公表と国賠法上の違法性

とはいえ、上記はあくまでも「法律の根拠が必要か」という問題であって、「損害が発生した場合に救済されるか」とは別の問題です。
つまり、②情報提供目的の公表に関しては、法律の根拠なく行うことができるものの(法律の留保の問題)どのような場合に国賠法上の違法が認められるか(国賠法上の違法性の問題)については別途検討を要するわけです。

この点について、法律の根拠のない公表の違法性が争点となった以下の各裁判例では、公表の国賠上の違法性は、概ね、公表の必要性、公表目的の正当性、公表内容の合理性、公表方法の相当性などを考慮して、職務上の注意義務違反が認められるか否かによって判断されていると考えられます。

O-157に起因する集団食中毒に関する厚生大臣の公表の国賠法上の違法性の判断基準について、各裁判例はそれぞれ以下のとおり判示しています。

①-1 東京地判平成13年5月30日判例時報1762号6頁(①-2の原審)
「被告の公表行為が法律の趣旨に沿った行為か、その公表に必要性ないし合理性があるか、公表方法が相当なものであるかなどの事情を吟味し、その公表行為が法律の趣旨に反したものであったり、公表の必要性や合理性が認められず、又は公表方法が不相当であって、その結果国民の経済的利益や信用を侵害した場合には、当該公表行為が職務上通常尽くすべき注意義務に違反したものとして、国家賠償法上違法と評価されるべきであると考えられる。」

①-2 東京高判平成15年5月21日判例時報1835号77頁(①-1の控訴審)
「しかしながら,本件各報告の公表は,なんらの制限を受けないものでもなく,目的,方法,生じた結果の諸点から,是認できるものであることを要し,これにより生じた不利益につき,注意義務に違反するところがあれば,国家賠償法1条1項に基づく責任が生じることは,避けられない。」

②-1 大阪地判平成14年3月15日判例時報1783号97頁(②-2の原審)
「これらのことを前提にすると,本件各報告の公表が原告の名誉・信用を毀損する違法なものかどうかを判断するに当たっては,公表の目的の正当性をまず吟味すべきであるし,次に,公表内容の性質,その真実性,公表方法・態様,公表の必要性と緊急性等を踏まえて,本件各報告を公表することが真に必要であったかを検討しなければならない。その際,公表することによる利益と公表することによる不利益を比較衡量し,その公表が正当な目的のための相当な手段といえるかどうかを判断すべきである。
この比較衡量の結果,公表行為に正当な目的があり,かつ相当な方法・態様において行われたと認められる場合には,それにより原告の社会的評価が低下することがあったとしても,違法な名誉・信用毀損行為にはならないというべきであり,逆に,公表行為が違法又は不当な目的のもとに行われたか,あるいはその方法・態様が目的達成のための手段としての相当性を欠く場合には,違法な名誉・信用毀損行為として国賠法1条1項に基づく被告の賠償責任が発生すると解すべきである。」

②-2 大阪高判平成16年2月19日訟務月報53巻2号541頁(②-1の控訴審)
「本件各報告公表(中間報告・最終報告の各公表)が違法であるかどうかを判断するに当たっては,公表の目的の正当性,公表内容の性質,その真実性,公表方法・態様,公表の必要性と緊急性等を踏まえて,公表することが真に必要であったか否かを検討し,その際,公表することによる利益と公表することによる不利益とを比較衡量し,その公表が正当な目的のための相当な手段といえるかどうかを検討すべきである。そして,公表によってもたらされる利益があっても,生じる不利益を犠牲にすることについて正当化できる相当な理由がなければ,違法であると判断せざるを得ない。」

4 措置命令等の公表

さて、それでは措置命令等の公表についてはどのように考えられるでしょうか?

(1)法的根拠の要否

まず、措置命令等の公表は、単に措置命令等の事実を公表するものであって、それ以上に、法律上の不利益を課すことを予定したものではありません。
そうすると、当該公表は、あくまでも、「商品及び取引に関連する不当な……表示による顧客の勧誘を防止する」(景品表示法1条)ために、消費者に対し、認定された不当表示に関する情報を提供することを目的としたものというべきでしょう。

したがって、措置命令等の公表は、上記②情報提供目的の公表であって、法律の根拠を要しないこととなります。

(2)国賠法上の評価

また、措置命令等のような行政処分に関する事実を公表することは、行政の透明性を確保するとともに、消費者に対する注意喚起や再発防止等を図るために重要な意義を有します。そうなると、措置命令等の公表には消費者保護のための必要性が認められ、またその目的も公益に向けられたものといえます(東京地判平成28年2月19日・平成27年(ワ)第1823号参照)。
公表方法についても、消費者庁HPにおいて、お知らせ又は報道資料の1つとして掲載されているにすぎないものであって、行政機関において通常行われる周知活動の範囲内のものといえるでしょう。

そのため、公表内容に問題があれば別段、現状の形による措置命令等の公表は、国賠法との関係でも問題が生じるものではないと考えられます。

5 おわりに

本noteでは、措置命令等の公表の法的位置付けについて解説してきました。景品表示法はそれ単体でも非常におもしろい法律ですが、行政法理論との繋がりを意識するとより興味深く学ぶことができます(私も、出向中は行政法の文献を漁る機会が想像以上に多かったです)。

もちろん、難しいことは考えずに、公表内容や関連ニュースを見るだけでも十分におもしろくかつ日常生活の役にも立ちますので、是非多くの方に興味を持っていただけると嬉しいです。

また、もし措置命令等に興味を持ってくださった方がいらっしゃれば、消費者庁HPのほか、以下の私が作成・運営しているデータベースにもアクセスしてみてください(宣伝)。

■ 参考文献

  • 中原茂樹『基本行政法〔第3版〕』(日本評論社、2021年)36頁~47頁

  • 西埜章『国家賠償法コンメンタール〔第3版〕』(勁草書房、2020年)245頁~250頁

  • 深見敏正『リーガル・プログレッシブ・シリーズ 国家賠償訴訟』(青林書院、2016年)154頁~158頁

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