【セミコロン;編】英文契約書における記号の取説
■ 日本人にとって馴染みの浅い句読点
英文契約書(やちょっと賢そうな英文)を読むと、さも当然かのようにセミコロン(;)やコロン(:)といった句読点(punctuation)登場します。
しかし、少なくとも田舎で意識の低い学生生活を送っていた私の記憶の範囲では、これらの謎記号がどのように使われるのかについてきちんと教えてもらう機会はありませんでした。
ただ、英文契約書で出てくる以上ルールを理解しておきたいし、ちゃんと使えれば便利そう…。
こんなご要望にお応えするべく、セミコロン(;)とコロン(:)について、英文法としての一般的なルールを確認した上で、英文契約書での実際の使われ方を、2記事に分けて解説したいと思います。
第1回として、本noteではセミコロン(;)を取り扱います。
■ 英文法ルール
まずは、セミコロンの英文法上の一般的なルールを確認してみましょう。
セミコロンには、大きく分けて、①2つの文(独立節)をつなぐ機能と、②コンマ(,)よりも大きな区切りを示す機能とがあります。
そして、①は、(1)セミコロンだけでつなぐ場合と、(2)接続副詞とセットでつなぐ場合とに分かれます。
- ①2つの文をつなぐ
まず、①のうち、(1)の2つの文をセミコロンだけでつなぐ場合としては、以下のようなものがあります。
この場合にセミコロンでつながれる2つの文は、意味的に密接な関係に立ちます。
上記例文では、2つの文は対比関係にありますが、それ以外にも、原因と結果、説明等の関係となることもあります。そのため、セミコロンがどのような意味を持つのかは、文脈から判断する必要があります。
次に、①のうち、(2)の2つの文を接続副詞とセットでつなぐ場合としては、以下のようなものがあります。
ここにいう接続副詞とは、品詞は接続詞ではなく副詞であるものの、2つの文をつなぐ働きをするもののことで、例えば以下のような語がこれに該当します。
接続詞と異なり、接続副詞はあくまでも副詞であるため、(厳密には)コンマ(,)+接続副詞で2つの文をつなぐことはできません。そのため、上記のように、コンマではなく、セミコロンが用いられるというわけです。
(ただし、接続詞とセットであれば、例えば「I did not use an umbrella, and therefore I got wet.」のような形であれば、接続詞がつなぎの役割を果たしてくれるため、セミコロンは不要です。)
- ②コンマよりも大きな区切りを示す
②のコンマよりも大きな区切りを示す場合としては、以下のようなものがあります。
上記例文では、簡易裁判所、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所の4つのグループが示されているのですが、仮に上記例文でセミコロンをコンマにした場合、グループの切れ目が一見して不明瞭となってしまいます。
このような観点から、コンマと併用して、セミコロンをコンマよりも大きい切れ目を示すものとして使用しています。
■ 英文契約書での用法
それでは、以上を踏まえて、セミコロンの英文契約書での用法を見ていきます。
- パターン①:WHEREAS条項
英文契約書を冒頭から読んでいて一番最初にセミコロンが見つかるのは、WHEREAS条項でしょう。
ここで、WHEREAS条項とは、中央寄せの「WITNESSETH:」といった記載に続く以下のような条項のことです。
この「whereas」という単語は接続詞で、通常は対比関係を示す「while」の仲間ですが、WHEREAS条項では、「since」や「given the fact that」、つまり理由や背景を示すものとして使用されます。
では、WHEREAS条項で用いられるセミコロンは、上記英文法ルールでいうとどの用法に該当するのでしょうか。
ここでヒントとなるのは、以下のように、伝統的にはTHIS AGREMENTから始まる前文が1つのセンテンスであったことです。
このセンテンスには多くのコンマがあるため、どこが大きな区切りでどこが小さな区切りなのか一見すると不明瞭ですが、意味的な区切りを図示すると以下のとおりとなります。
つまり、主語及び動詞である「THIS AGREEMENT . . . WITNESSETH」とthat以下の目的語である「the parties hereto agree as follows:」の間に、3つのWHEREAS節が挿入され、それぞれのWHEREAS節が「A, B, and C」のように列挙されていると理解できます。
WHEREAS条項のセミコロンは、このような大きな区切りとしてのWHEREASのグループを示すために、WHEREAS節の後ろのコンマをセミコロンに置き換えたものと考えられるわけです。
以上を踏まえると、WHEREAS条項のセミコロンは、コンマの代用として、②コンマよりも大きな区切りを示すものと整理できます。
なお、現在では、madeとenterを修飾としてではなく、「THIS AGREEMENT is made and entered into」と動詞として使用する(&動詞である「WHTNESSETH」の代わりに名詞である「RECITALS」などを用いて、「RECITALS」などの前で一旦ピリオドで文を区切る)例も見られます。
もっとも、このような現代的な書式においても同様に、WHEREAS条項のセミコロンは大きな区切りを示すためのコンマの代用であると説明できるでしょう。
- パターン②:ただし書
契約書本文における最もポピュラーなセミコロンの用法といえば、以下のような、ただし書の目印としての使い方です。
ぱっと見、「接続副詞の『however』があるから、①(2)の2つの文を接続副詞とセットでつなぐパターンだな」と思えますが、よくよく観察するとどうやらそうではなさそうです。
というのも、この「however」の直前には「provided」という語がありますが、この「provided」には、以下のように「if」のように条件を示すものとして、2つの節をつなぐ用法があります。
そのため、「provided, however, that」の前後2つの文(節)をつないでいるのは「provided」であって、セミコロン+接続副詞(however)ではないだろうと考えられるわけです。
実際、接続副詞とは異なり、上記のようにコンマ+providedで2つの節をつなぐこともありますし、「provided, however, that」とのフレーズにおいても、providedの直前にセミコロンではなくコンマを置く例(, provided, however, that)も見られるところです。
以上を踏まえると、WHEREAS条項と同様に、ただし書のセミコロンは、コンマの代用として、②コンマよりも大きな区切り(本文;ただし書)を示すものということになるのでしょう。
- パターン③:各号の列挙
他にも、セミコロンは、各号を列挙する場合にも用いられます。
こちらの用法も②コンマよりも大きな区切りを示すものですが、詳細は、次回の【コロン:編】でご紹介したいと思います。
- 英文契約書での用法まとめ
以上のように、英文契約書でのセミコロンは、いずれも②コンマよりも大きな区切りを示すものとして用いられていると整理できることがわかりました。
だからなんだと言われてしまうとそのとおりなのですが、英文法の一般的なルールからスタートして、英文契約書においてそれがそのように用いられているのか、あるいは英文契約書のガラパゴス的なルールはどこにあるのかを考えてみると、無味乾燥な英文契約書もほんの少し楽しくならないだろうか、ということで本noteを作成した次第です。
ということで、次回の【コロン:編】も是非ご覧ください!
※ 第2回のコロン編はこちら ↓
■ 参考文献
句読法の解説は薄いですが、「ロイヤル英文法」は辞書用の、「FACTBOOK」は通読用の英文法書としておすすめです。
なお、「ロイヤル英文法」にはアプリ版もあります。
以下の2冊は、句読法を含む英文ライティングのルールに特化したものです(後者はkindle版もあり)。
以下の書籍は、英文契約書に特化した起案方法の解説本(not 書式集)です。
まえがきに「『正統派』の法律英語の基本書を目指す」とあるとおり、本格的な一冊です。