
小さなシェアドリーダーシップの発揮を見える化しよう(#33)
シェアドリーダーシップとは
シェアドリーダーシップというのは、指示を受ける側と指示を出す側が明確に分かれていたトップダウン型リーダーシップと異なり、全員が専門性や創造性を発揮し、意思決定に関わり、固定的なリーダーに依存しないリーダーシップのスタイルです。
近年はシェアドリーダーシップが推奨されることが多く、筆者も以下の理由でチーム開発でシェアドリーダーシップを促進した方が良いと考えています。
ソフトウェア開発で扱う問題が複雑で多様になったため、一人のリーダーがすべてを管理するよりも、複数のメンバーが状況に応じてリーダーシップを発揮する方が、迅速かつ柔軟に対応できる
リーダーシップを発揮して意思決定プロセスに参加することで、自分の意見が反映されると感じ、責任感が高まると共にモチベーションが上がりやすい
各メンバーが自分から積極的に提案することで、多様な視点からの提案が増えて創造的なアイデアが生まれやすくなる
以前はシェアドリーダーシップができていなかった
数年前の筆者のチームは、マネージャーの筆者が細かく指示を出している状態で、シェアドリーダーシップが発揮されていませんでした。
マネージャー以外のメンバーは配属されて1年以内の若手メンバーだけであり、チーム全体に対する主体的な提案がないことが課題でした。
そのため、シェアドリーダーシップを促進して、チームメンバー全員がリーダー的な役割を積極的に担う環境を作るために、様々なプラクティスを導入しました。
その1つがリーダーポイントです。
リーダーポイントによる見える化
リーダーポイントとは、各自の小さなリーダーシップを発揮した行動に対してポイントを付与することで、リーダーシップを見える化するための仕組みです。
メンバーがリーダー的な行動を取るたびに、マネージャーが評価してリーダーポイントを加算します。
リーダー的な行動がポイントとして評価されるため、どんな行動が求められているのかが分かりやすくなり、実践しやすくなります。
さらに、朝会で互いにリーダー的な行動を評価したり賞賛したりし合うことで、自分もがんばろうという良い競争意識が芽生えます。
実施する上で重要なポイントは以下の2つです。
1つめは、朝会で、誰のどの行動がポイント獲得につながったのかをみんなに伝えることですです。
どんな行動が評価されるのかを皆で共有した方が、健全な競争が生まれやすくなるからです。
2つめは、期間を定めて実施し、期間終了時に最もリーダーポイントが多いメンバーを皆で称賛した上でポイントをリセットすることです。
健全な競争意識を維持するには、メンバー間でポイント差が大きくなりすぎないように一定期間でリセットし、様々なメンバーが1番になるチャンスを作った方が良いです。
当時の筆者のチームは、スクラム開発で2週間ごとのスプリントだったので、スプリント完了後の朝会で最もリーダーポイントが多いメンバーを皆で称賛し、そこでいったんポイントをリセットして再スタートしていました。
リーダー的な行動の例
参考までに筆者のチームでのリーダー的な行動(リーダーポイントが加算される行動)の具体例を次に挙げます。
朝会において、「こちらのタスクを優先してはどうか?」と他メンバーにタスクの優先順位を見直しを促す提案
「今連絡が来た件について、すぐに打ち合わせを開いてどう進めるか決めましょう」といった別部署から急なタスクの依頼メールがあった時のチーム全体への呼びかけ
「その作業は毎回手動でやっていますが、以前に使ったXXXの技術を使えば自動化できると思います」といった自動化の提案
「プルリクエストのテンプレートをこのように改善すれば、不具合が減って品質が高まるのでは?」といったプロセスやプラクティスの改善提案
「テストの途中ですがXXX機能で検出した不具合が多いので、テストを中断してその機能のレビューを再度実施するなどの対策をしてはどうか?」といったテストの状況に応じた進め方の提案
「割り込みタスクは、Aさんがやると効率が良いのでAさんにお願いし、Aさんが担当予定のタスクはBさんにお願いします」といったマネージャーの不在時に誰が何をやるのか決定
「そこはXXXのツールを使うと効率が良いです」のように他メンバーの分報を見て行う助言(分報については第5回の記事を参照)
リーダー的な行動を促進するための工夫
リーダー的な行動機会を増やすために、あえて「余白(責務を明確にしない作業)」を設けることも一つの方法です。
例えば、過去の筆者のチームはCIのテストがNGとなった時に、誰が対応責任者なのかを明確にしていませんでした。
そのため、それに気付いたメンバーが、どのテストが失敗したのか確認した上で誰に対応してもらうと良さそうかを提案するところまでやってくれて、リーダーポイントを獲得することがありました。
チーム内でシェアドリーダーシップがあまりできていない段階では、このような「余白」を意図的に作り、リーダー的な行動を主体的に実行できる機会を多く提供すれば、シェアドリーダーシップが定着しやすくなります。
ただし、そういう余白を作るのは、チームの混乱や効率低下のリスクもあるため、シェアドリーダーシップが定着したらやめた方が良いです。
リーダーポイントの導入で得られた効果
それまでは、リーダーシップをマネージャーだけが担うことが多く、他のメンバーは受動的になることが多くありました。
しかし、リーダーポイントが導入されてからは、「リーダー的な行動を取ること」が具体的に認識されるようになり、各メンバーがリーダーシップを発揮する機会が増えました。
まとめ
リーダーポイントは、シェアドリーダーシップの発揮が定着したら終了します。
長期間続けるとマンネリ化や形骸化が起きる可能性もあるため、この手のプラクティスは目的達成した時点で終了することをお勧めします。
シェアドリーダーシップを促進したいという方は、リーダーポイントを試してみてはいかかでしょうか。
この記事の初出は、Software Design 2024年12月号です。
私は「Software Design」でマネジメントに関する連載記事を書いていて、その知見を楽しく知ってもらえると良いなと思って、最近、ライトノベルを書いています(2025/2/21時点で2話まで公開)。よろしければ以下リンクから、お読みください。
ITエンジニアがコミュニティのおかげで古いやり方や価値観を変えて成長していく物語
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