分報で各自の作業を可視化して皆で協力し合う - ハピネスチームビルディング[5]
この記事の初出は、Software Design 2022年8月号です。
はじめに
チームのメンバーが今どんな事をやっていて何に悩んでいるか、リーダーまたはマネージャーの方々はどの程度把握しているでしょうか?
3年前の私は、ある程度は朝会で把握できていたものの、その後に各メンバーが遭遇した技術課題で何時間か悩んでいた事を、翌日の朝会になってやっと把握する事がしばしばありました。
もっと早く状況把握できていればと思っていました。
マネジメントについての記事や書籍などでも、チーム内の情報を共有してメンバーが相互に協力して問題を解消しながら進めることが良いと言われています。
そこで有効なのが「分報」というプラクティスです。
本稿は、私のチームで分報をどのように活用し、どのような効果があったのかを紹介します。
分報とは
分報とは、Slackなどのチャットツールを用いて、自分専用チャンネルで「今やっていること」や「困っていること」をつぶやくプラクティスです。
私が分報を知ったきっかけは「運営者ギルド」という社外コミュニティに入ったことでした。
そのコミュニティは各自が個人でWebサービスを開発しており、各自が自分専用チャンネルでサービス開発していく上での思考過程や得た知見を投稿していました。
その知見を皆で共有しながらお互いに助言し合って切磋琢磨していました。
そのコミュニティで分報によるメリットを体感した結果、仕事のチームでも分報が活用できると確信して導入しました。
私が分報を導入する上で参考にしたのは「Slackで簡単に「日報」ならぬ「分報」をチームで実現する3ステップ〜Problemが10分で解決するチャットを作ろう」という記事です。
分報のやり方をざっくり説明すると以下の通りです。
メンバーごとに自分専用チャンネルを作る。
チャンネル名は #times_{メンバー名} とする。分報という名前だが、1分ごとに投稿するという意味でなく、自分なりの任意のタイミングで自分の状況や考えを書き込む。
「今やっていること」や「困っていること」を書き込む事を推奨するが、それ以外にも自分が思った事を何でも自由に書き込む。
私のチームでのやり方
私のチームは分報を3年前から数人のチーム(現在は7人)で運用しています。
その具体的なやり方を紹介します。
ただし、分報はチームの人数や状況によって最適な運用方法が異なるため、参考程度にご覧ください。
人数が多いほど自分以外の分報を読むのに時間がかかるため、他の人の分報は見ても見なくても自由というスタンスでやっています。
自分が今やっているタスクに対して「困っている事」だけでなく「調査結果」や「対応方針」を随時書いています。なぜ皆がそれを書くようになったかというと、それを書くと調査結果や対応方針に対して他メンバーから助言をもらえる事があり、その後に行き詰まって誰かに相談する時にも、その内容をもとに相談しやすいからです。
Slackのスタンプでポジティブなリアクションを積極的に行います。それがしやすいように、デフォルトのスタンプに加えて、文字のスタンプをたくさん登録しています。例えば「タスク完了!」という投稿に対して「すごい」「さすが」「神」などの文字のスタンプが付いたりします。
チームのチャンネル設計について、分報で事足りる事でもあえて分報と別に分けたチャンネルが3つあります。
1つ目はアクションを依頼するチャンネルです。試行錯誤した結果、依頼事項は1つのチャンネルにまとまっていた方が分かりやすいという事になりました。
2つ目は雑談チャンネルです。こちらも試行錯誤の結果、分けた方が雑談がやりやすいという事になりました。
3つ目は学んだ事をアウトプットするチャンネルです。良い学びが得られた技術記事の紹介などは、分報でなく専用チャンネルに投稿した方が、見てもらいやすくお互いの刺激になると判断しました。このチャンネルは毎週自動で各自の投稿件数を通知して知見の投稿件数を見える化しています。
実際に私のチームでの分報の具体例は下図を参照ください(業務中の分報はそのまま公開できないので少し加工しています)。
効果
私のチームで分報を運用して得られた効果をいくつか紹介します。
①効率的に課題を解消
分報に書き込まれた内容に対して、他メンバーが助言することで、一人で調べて解消するよりも、早く課題が解消されるようになりました。
また、チームに配属されたばかりの新人の困りごとの解消にも有効でした。
新人にとって、チーム全体のチャンネルに質問を投稿したりメンションを付けて投稿するのは気後れするようで、「ちゃんとした文章を書かなきゃ」という高いハードルを感じていたようです。
その点、分報は自分専用チャンネルなので、気兼ねなく困ったことをつぶやけていました。
そして、先輩のメンバーは新人の分報を気にかけて、新人の困ったことを早期に拾って解消しました。
このように自発的に他メンバーが困っている内容を見て助言をすることが多くなるため、チームに助け合う風土が自然に根付きました。
②自分で問題を整理
分報の導入前は、開発経験の少ないメンバーは、ついついタスクに没頭して視野が狭くなることで、非効率な事をしてしまうことがありました。
分報を導入後は、調査結果や対応方針を随時書くことで、問題が自然に整理され、自分の思考が迷子になる頻度が少なくなり、効率が上がりました。
例えば、不具合の調査を行う際に、調査結果を随時書きながら進めることで、非効率な調査をする事が減りました。
③アクションアイテムの漏れ防止
自分が後でやろうと思っているアクションアイテム(もしくはTODO項目)を忘れないように、分報でそのアクションアイテムを投稿し、Slackのピン留め機能で自分専用のアクションアイテム管理をするメンバーもいました。
④心理的安全性の向上
あるメンバーが分報に投稿した困り事に対して他メンバーが助言をした時、私は積極的に「開発が加速して良かった」というポジティブな感情をメンバーと共有しています。
また、私はメンバーの分報の調査の途中経過に対して「論理的に妥当な方針で進められている」などのポジティブフィードバックをたびたび行っています。
そのように、自分の発言に対して前向きなフィードバックが得られる体験を繰り返す事で、自分の考えを発信する事に慎重だったメンバーも、間違っているかもしれない対応方針などの「自分の考え」を分報に投稿する頻度が上がっていきました。
これはおそらく「安心して自分の考えを発信できるようになる」という意味で、心理的安全性の向上があったと思います。
分報を定着させるには
分報について社外で発表した時に「人によっては分報を段々書かなくなってくるのですが、どうすれば良いか?」という質問を何度か受けた事があります。
私としては、メンバーが分報を書くメリットを感じるようにフィードバックする事が効果的だと思います。
例えば不具合調査をしている分報に対して、調査を進める上での助言をしたり、「そこに気付くなんて凄い!」「その想定は素晴らしい!」などのポジティブフィードバックをすれば、分報に書き込むメリットを感じると思います。
これから分報を始めようとする場合は、まず自分が分報を書いてみせた上で、上記のように助言やポジティブフィードバックを積極的に行うと、分報が定着しやすいと思うので、ぜひチャレンジしてみてください。
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