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仏教哲学から学んだスクラムマスターとしてのマインドセット

スクラムマスター Advent calendar 2023 の3日目の記事です!

この記事では仏教哲学を学んだことで得られたスクラムマスターとしての学びについて書いていこうと思います。


仏教との出会い

私は受託の会社で約2年間ほどスクラムマスターをやっています。今でこそ多少経験も積んでスクラムマスターとしての動き方にも慣れてきましたが、始めた当初はとてもじゃないですが順風満帆とは言えない状態でした。サイボウズの天野さんが「スクラムマスターのしんどさのピークは初期にくる」という話をnoteで投稿されていたのですが、まさにこんな状況だったなと。

スクラムマスターの活動は価値観を変えたり新しい活動を浸透させることなので、最初が一番しんどいという特徴があります。考え方を理解していない周囲と、スクラムマスター本人も未熟で対処方法がわからないという状況なので、軋轢が起きない方が珍しいと思います。

スクラムマスターのしんどさに向き合う天野 祐介 (ama_ch)

当時私が支援していたチームはとても優秀なメンバーが揃っていたものの、スクラムについて習熟しているとは言えない状況でした。自分も一応開発者としてスクラムに近い形の開発経験はあったものの、「ウォーターフォールとは違って短い期間に区切って開発していく手法」程度の浅い理解のままスクラムマスターを引き受けていました。

そんな状態でチームを支援した結果、当然多くの失敗をしてきました。特に当時をふりかえってまずかったなと思うのは、スクラムガイドに書かれていることを唯一絶対の解決策と考えてプロセスに強く介入していたことです。チームがスクラムガイドとは違う方法を取ろうものなら「スクラムガイドにはこう書いてあります!ちゃんとやりましょう!」といった具合にプロセスの番人として振る舞っていました。

勿論それでうまくいったこともあったのですが、大抵対処したい課題が中々解決できなかったり、時折チームメンバーとの確執も起きてしまうような状態でした。「一般的な正解ではなくて、チームの文脈に沿った解決策を考えて欲しいです。」と言われたことは今でも教訓として強烈に自分の記憶に残っています。

そんな中でもチームの開発は日々進行していきます。スクラムマスターとしての自身の未熟さを少しでも埋めるために、藁にもすがる思いで様々な書籍やブログを読み漁ってました。そんな時に出会ったのが今回のテーマとなる仏教哲学です。

仏教(哲学)とは

仏教は約2500年前、インドのゴータマ・シッダールタによって始まりました。ゴータマは釈迦族の王子として生まれ、人間の苦しみと解脱への道を求め悟りを開いた人物です。「一切の苦しみから解放された状態=悟り」に至るためのマインドセットと方法論が「四諦」や「八正道」などの形で説かれています。

※仏教の教義について真面目に説明しようとすると軽くnote数本分くらいになってしまう気がしたので詳細な説明は省きます…自分が参考にした書籍等は記事末に載せているのでご興味がある方はぜひそちらを読んでみてください!

現代日本においては仏教と言うとお葬式でお坊さんがお経を唱えてる様子を想起する方が多いのではないでしょうか。どちらかと言うと宗教的なイメージの強い仏教ですが、書籍などを通じて仏教について勉強してみると約2500年前に釈迦が作った原始仏教は驚くほど論理的で哲学的なものであることがわかります。この記事では仏教の論理的・哲学的側面にフォーカスするため敢えて「仏教哲学」という表現にしています。

今回は自分が特に影響を受けた「空」「唯識」という教義についてご紹介したいと思います。

空(くう)

自分が仏教哲学の中で特に感銘を受けたのは、大乗仏教における重要な教えである「空(くう)」という概念です。写経をしたことがある人なら般若心経の中の「色即是空、空即是色」という言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。では「空」とは何か?という話ですが、その前に仏教の基本的な考え方をお伝えしておきます。仏教では体験を通じた理解を非常に重視しています。言語(形式知)によって全てを理解することはできず、実践を通じた体験の中でしか真の意味での理解には至れないと言われています。なので、この記事で「空」をちゃんと説明するのはそもそも無理な話という前提ではあるのですが、最近出版されたビジネスシーンを生き抜くための仏教思考(著 松波龍源,出版 イースト・プレス) に非常に明快な説明があったので引用します。

【空】
すべてのものごとは因縁によって生じたものであって、固定的実体がないということ。縁起しているということ。単なる「無(非存在)」ではない。存在するものには、絶対性・固定的本質などはないと考えること。自我の実在を認め、すべてのものに恒久性を認める見解を否定すること。一切の固定的な枠が取り払われた真理の世界。

ビジネスシーンを生き抜くための仏教思考 p141

当然ですが私たちは自然に過ごしていると物事に固定的実体があると考えてしまいますし、この世のあらゆるものに実体がないと言われても??だと思います。が、仏教はそんなことを考えている「私」自身を含めて、あらゆるものに固定的実体がない、すなわち「空」であると言っています。全ての物事は常に変化しており、それは「私」自身も例外ではありません。これが皆さんご存知諸行無常です。人間の身体は3ヶ月で完全に入れ替わるらしいので、確かに人間は科学的にも常に固定的実体がなく変化し続ける存在と言えそうです。

唯識

「空」とともに大乗仏教の二本柱を構成するのが「唯識」という概念です。前述の説明の通り、仏教的な視点から見ると世の中のあらゆるものは実体がなく常に変化しています。しかし、私たちは確かに目の前にものが実在していると認識しているはずです。この事象を説明する考え方として「唯識」という概念が用いられています。

【唯識】
すべてのものごとは、ただ心から現れた表象(イメージ)であるのみということ。唯は「ただ、それのみ」の意味、識は認識作用を表す。(中略)人間の認識は8種類(眼識・耳識・鼻識・舌識・身識・意識・末那識・阿頼耶識)によって成り立つと考える。

ビジネスシーンを生き抜くための仏教思考 p155

世の中のあらゆるものは先立って実在しているのではなく、自分の認識作用によって初めて目の前に現出しているというのが仏教の基本的な考え方です。

例えば、AさんとBさんが1本の木を見ている時、普通はAさんとBさんとは独立して1本の木が実在していると考えると思います。しかし、唯識的な見方になると、Aさんの認識作用によってAさんの中に1本の木が立ち現れ、Bさんも同様に認識作用によってBさんの中に1本の木が立ち現れていると考えます。つまり、Aさんが認識した木とBさんが認識した木は異なるものという理解になります。いわゆる1人1宇宙ってやつです。

SCRUMMASTER THE BOOK 優れたスクラムマスターになるための極意の中に「誰もが正しい、ただし部分的には」という有名な言葉がありますが、唯識はこの言葉の正しさをロジカルに説明しているとも考えられそうです。

仏教哲学から得たスクラムマスターとしての学び

このような仏教哲学の考え方を知ってからは、自身のスクラムマスターとしての振る舞いも変化した気がします。当時のようにスクラムガイドに書いていることが唯一絶対の解決策であるという認識はしなくなりました。今自分が所属するスクラムチームにとって唯一絶対の正解などなく、仮に正解っぽいものに辿り着けたとしても次の瞬間にはそれが正解ではなくなっているかもしれない。そのような考え方を持った時に初めて、自分は「今この瞬間チームで何が起きているのか」をじっくり観察することができるようになりました。

また、今目の前に現出しているチームの状況は複雑な因果関係の結果であると捉えて、チームにとって望ましくない状態が結実しないように因果関係に働きかけるようなアプローチができるようになりました。これはシステム思考的なアプローチにもかなり近いかもしれません。因果ループ図とかありますしね。

唯識の考え方を知ったことで、それまで自分の前提となっていた実在論・弁証法的な価値観が変化し、自分と他者との違いを受け入れやすくなりました。スクラムマスターを始めた当初は自分の提案に反対されたり、意見が対立するたびに心にモヤッとしたものが発生し、それが態度や発言にあらわれた結果他者と軋轢が生じたりしていました。今は意見の相違があっても「1人1宇宙だからそりゃ違うよね〜」くらいの感覚で受け入れることができています。そして、自分の判断を一旦保留し、その違いはどこにあるのか?を深掘りすることで冷静に状況に対処することができるようになりました。

最後に

これは無宗教者が多い日本に強い傾向なのかもしれないですが、仏教というだけで「スピリチュアルな話…?」「なんか怪しい…」「病んでるんですか…?」みたいな反応をされることがあります。が、少し勉強をし始めてみると、宗教や哲学は無意識のレベルでかなり私たちの価値観や考え方を規定していることがわかります。人間を相手に仕事をするスクラムマスターにとっては、こういった知識は基礎的教養とも言えるかもしれません。偉そうに仏教について語っておいてあれですが、正直まだ自分は本を数冊読んだ程度です。これからもっと精進していこうと思います。

言いたかったことがもっとあった気がするし、もっとうまくまとめたい気持ちもあるのですが、自分の文才と時間が足りなかったため一旦この辺で終わらせとこうと思います。スクラムマスターにとって仏教哲学が良さそうという自分の考えが少しでも伝わってくれたら幸いです!

参考資料

自分が勉強する際に参考にした本・podcastを紹介しておきます!

# 書籍

# podcast


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