陣痛ガールの出産日記 その2

「ママ…ちょっと出血怖いから、産院に連絡してもいい?」
深夜1時くらい。友達の実家でくつろぐ、も、つーか陣痛来ててくつろげないけどさ!!痛みは当然にも増してくるし、普通に辛いし、ちょっと出血も増えているので怖くなってきたわたし。
 まあ産院も近いし、とりあえず行ってみよう!と。わたし、さとみさんのママ、みとまんは産院に向かった。
 深夜にも関わらず産院には出産中の人もいたので普通に電気もついており、スタッフも助産師さんもいた。
「あの、、、けっこう出血もあるし陣痛も強いので、一度みてください。」とお願いする。
もう何度このやりとりを繰り返しただろうか、という子宮口の開きをみてもらうと、相変わらず子宮口全開までは程遠い現状維持の状態。これはまた返されるか…と落胆したものの、助産師さんもめんどくさくなったのか、
「分娩室の隣の部屋が空いてるので、そこで朝まで過ごしましょうか?あ、お友達もいいですよ。深夜なので、なにかあったら内線で連絡してください。」
とあっさり入室を許された。しかも友達も一緒に。さすが深夜パワー&今までのしつこい訪問が実った瞬間である。
 控室でとりあえず仮眠をとるわたしとみとまん。やっと産院に入れた安堵感と、今まで点々と場所を移動してきた疲れで眠気はピークだった。もう目をつぶった瞬間眠れる。
が!!が!ここは忘れちゃいけない陣痛地獄の陣痛ガール、5分寝たと思ったら強烈な痛みが襲ってくる。その度にみとまんを起こしテニスボールで仙骨を押してもらう。この仙骨にテニスボールは噂にたがわずまあまあ効く。激痛が30%減くらいにはなる。なので、みとまんもわたしも5分寝ては起き、5分寝ては起き...って!!!全く休まらねぇーーー!!!まさに陣痛地獄。眠い、キツイ、痛い、眠い、眠い、眠い。。ほんとひたすら眠い。それは5分毎に起こされるみとまんも一緒で、けっこう気を遣うオンナわたしこと陣痛ガールは、陣痛に付き合ってくれるみとまんに申し訳なくなってきて、陣痛が来たとき、みとまんを起こさず、試しにテニスボールを床に置き仙骨で乗ってみる、と、お!お!!意外とイケる!なんなら細かい場所も圧もコントロールできる!いいやんけ!と一人で感動!陣痛が来たらひとりでテニスボールに乗るを何度も繰り返す。イケるイケる!としばらく陣痛と戦っていたが、さすが甘くないぜ陣痛地獄。だんだん胃がムカムカしてきた。ちょっとだけ我慢してたけど、明らかな吐き気。来る。。。。これは!来る!!
「みとまん!起きて!吐きそう!!」仮眠をとっているみとまんを起こし、内線で助産師さんに連絡してもらう。すぐに助産師さんが洗面器をもってきてくれて、見事そこにリバース成功!まったく、腹は痛いわ、眠いわ、ゲロは吐くわ、の地獄めぐりである。ちなみに陣痛中にゲロを吐くのは良いことらしく、極度の緊張から身体が逃れたい時の本能らしく、吐くことでお産がすすむらしい。
 ふーっっ痛いー!ゲロゲロ…気持ち悪っを繰り返し、気づいたら夜が明けていた。日付は11月29日。陣痛スタートから24時間が経過していた。
そこから、どこをどう乗り切ったのか、寝たのか、起きていたのか覚えていないが、多分5分毎の睡眠ひたすら繰り返した朝8時、気づいたらさとみママが産院に様子を見に来ていた。産院からもわたしからも特に連絡もないし、そりゃ心配になるよね。
えーっと、残念ですがまだ産まれず、わたしはゲロと汗まみれ。そしてみとまんは陣痛ガールに付き合って徹夜。ということで、ママにお願いして、駅までみとまんを送ってもらうことにした。半日も夜通し陣痛に付き合ったみとまん、ここで名誉の退場である。心細い夜に付き合ってくれてありがとう。家でゆっくり寝てくれ!と見送り、わたしは相変わらず続く陣痛にひとりで耐えていた。
が!そこからちょうど入れ替わるように、予告なくわたしの妹が父に連れられて産院に現れた。妹はけっこうドライな女なので、出産に立ち会ってよー。とお願いしたものの、姉の出産ごときて仕事を休むなんてありえねえ!と一刀両断だったのだが、たまたまその日が休みだったらしく、早朝の産院に連れられてきたのだった。
 そしてさっそく「まぁちょうどよかった!家族でドライブでもしてきてください。車の振動は出産に良いですからねー。」と助産師さんに言われ、楽しみでもなんでもない家族ドライブに行く羽目になってしまった。参加者は父、妹、そして陣痛ガール。
 全くもって楽しくもなんともない陣痛ドライブは、目的地も楽しい会話もなく、冬の田舎道をひた走る。そして、明らかに前日より強度が増している陣痛に苦しむボロボロのわたしを見て、父は確実にびびっていた。血とか、痛みとか、出産とかは苦手な典型的は昭和の男である父は、わたしの方を見ようともせず、ひたすらハンドルを握っていた。
「あ!砂像展ありよるやん!行ってみよう!」冬の海辺町の風物詩、“砂像展”発見である。この芦屋の砂像展はけっこう有名らしく、いたるところに看板が出ていた。まあ行くところないし行くか。ってことで行くよね、砂像展。
特になんの期待もなく仕方なく降り立った砂像展。まあ誰もおらんわな。しかも平日の朝。天気も悪い。おらんわー!!誰もおらんわー!!ってことで、余すことなく陣痛に苦しみながら砂像を見学。ほほう、、砂像、うん、砂像やわ。うん、砂像。
つーか砂像なんてどうでもいいし、何も覚えてないし、父も妹も砂像よりも、隣で苦しむ陣痛ガールのほうが気になって仕方がない。多分この時見た砂像のことなんて3人とも覚えていないだろう。砂像よりも砂浜で陣痛に苦しむ女のほうがシュールなアートである。
 もはや何を見たのか、どれくらい車で走ったのか、誰もわからないくらい車内は緊迫していて、耐えられなくなった父は、早々に助産院に戻り、妹とわたしをおろすと速攻で家に帰ってしまった。昭和の男、これが限界である。
 そこで、まあドライブもしたし院内で休もうかとすると「休んだらダメよ。海を散歩しておいでー。歩かないと陣痛は進まないからねー。」と無常にも助産師さんからの手痛いアドバイス。
「で、でも。陣痛けっこう痛くて、立ってられないし、寒いし大変なんですけど。。。」とちょっとでも休めないかと粘るわたし。
 「だいじょーぶ!だいじょーぶ!あの海に来る人は陣痛に慣れとるけんね。妊婦さんがおっても,陣痛で歩かされとるんやねってわかっとるけんね。だいじょうぶよー!」
!?陣痛中の妊婦に慣れている海辺の人々!!なんやねん!その慣れ、なんやねん!!と心の中で謎の大阪人が出るくらいだいぶツッコミどころ満載やったけど、陣痛ガールには反論する体力は残っておらず。テニスボールを持った妹と海に出る。冬の日本海に陣痛ガール再び降臨!である。
 しかも、この日は運が悪いことに、海辺でなんかしらの調査みたいなものが行われていて、数人の明らかに近所の人じゃない人々がいらっしゃった。小心者で気を遣う陣痛ガールは、陣痛と思われてはいけない!!とミッションインポッシブルを自分に課し、笑顔で海辺を散歩した。が、さすがインポッシブル、めっちゃ痛くて耐えられねぇ!陣痛が来る度に砂浜に倒れこむ。が、怪しまれてはいけない!笑顔で砂浜に倒れこむ陣痛ガール、むしろ逆に怪しいっ!!辛い。マジで辛い。陣痛がきているのに陣痛じゃないふりをするって何?なんのために耐えてるの?わたし何に耐えてるの?ゴールはどこ?ここはどこ?わたしは誰?
もう何がなんだかわからなくなってきて、わたしは半泣きで岡田さんに連絡した。そう、ここで助けを求めたのは、昨日もわたしを助けてくれた仏の岡田、岡田さんである。
「もうちょっとしたら車で迎えに行けるよー!」と仏の対応!仏ー!!仏がいらっしゃった!そんな仏の登場のおかげで、わたしは産院に戻り
「友達がきたので、おひるごはん食べてきます!」と極寒の日本海から避難した。
 
そもそも、そもそもである。出産するまでは入院にならないため、産院では食事は提供されず、陣痛中の妊婦の食事は各自で用意しなければならない。しかも、ここは田舎なので、近くにコンビニもレストランもない。車でどこかに行かなければ食事にありつけない。いや、本当は食事とかどーでもいいくらい陣痛でボロボロなんだけど、なんか口にしないと出産には耐えられないし、今日は寒いからあったかいものを食べておいで、と助産師さんからのアドバイスもあり、私たちは出かけることにした。
 さてさて、コンビニ食は冷たいし、陣痛がひどくてそこらのレストランには入れない、、、うーん、どこに行けばいいのか、、、、。悩んだ末に思い付いたのが、我らが北九州のソウルフード“資さんうどん”である!イーエス!資さんうどん!資さんならテイクアウトもあるし、うどんであったかいし食べやすい!いいねいいね、資さん行こう!地獄の中に見えた一筋の光、資さんうどんである。
 岡田さん、妹、陣痛ガールは近くの資さんうどんまで車を走らせ、無事に到着。もちろん定期的に強烈な陣痛は続いているので、店内で飲食は無理!迷うことなくテイクアウトを選び、身体に良さそうなわかめうどんを頼む。意外と人生初のテイクアウト資さんである。それを資さんの駐車場で食べる。まったく食欲はないが、出産に栄養は不可欠。無理やり口にうどんを押し込む。あったかい出汁が心と体を癒してくれる、、、が!陣痛は7分間隔。うどんの癒しの合間に地獄は繰り返される。出汁、地獄、出汁、地獄、出汁、地獄。ていうか圧倒的に地獄ーっ!!がんばって半分くらい食べただろうか。地獄の完全勝利で、ほんのひとときの癒しの時間は終わった。この時の陣痛はひとりでは耐えられない痛さまで成長していた。何をしても痛い。もう満身創痍のわたしは、何を思ったのか痛みから逃れる新たな方法を思い付く。
「ちょ、ちょっと、さ、、、岡田さんの手を握ってみてもいい?」
え?え?と多少戸惑いつつも、拒否はしない岡田さん。さすが仏の岡田である。もはや友人の手を握ってでもいいから、なにか、なにかしなければ耐えられないこの陣痛。しーかーも!!意外や意外手を握ってみると若干痛みが緩和されるのである。「岡田さん…いい!意外といい!これ効く!」と調子にのって、陣痛が襲ってくる度に、岡田さんの手を握るわたし。それを見守る資さんうどんを持たされた妹。
狭い車内で、日本海を前にして怪しい3人が陣痛と共に過ごすファンタジー。
 
 そんなこんなで、いちおうお昼ごはんは食べたので、産院に戻る3人。
あとは院内の岩盤浴に入って待ちましょう。という助産師さんの提案で、岡田さんは帰ることを許された。仏の岡田、ご帰還。
 岩盤浴ていうか、岩盤浴ドームみたいな。大きな筒のようなドームに入って身体をあっためるあれ、あれに入ることになったわたし。妹は水分を持って隣で待機。
 こういう自然に出産を促すというのがさすが助産院だなと思う。本来なら陣痛促進剤を使うところを、身体をあっためれば子宮口は開くという考えのもとお産が進むグッズが院内にはたくさんある。
 ドームに入りながら、助産師さんに「あとどれくらいで産まれますかね?」と聞くも、
「うーん、わからんねー。2日も3日もかかる人もおるし、突然陣痛が引く人もおるけんね。」とあっさりとしたご返答。…2,3日?!おい、テメェ聞いてねーぞ!たまひよ調べじゃ、日本の出産時間の平均は13時間なんだよっ!なのに、わたしときたらすでに30時間も経ってんだよ。わからないってなに?!ていうかたまひよ!!もはやボロボロすぎて何も言えない。2,3日…。2,3日…?!という言葉だけが頭の中をぐるぐる回り、汗なのか、涙なのかわからない雫が顔を流れていくのを温かいドームの中で感じていた。

 1時間ほど経っただろうか、
「あらっ?!この子、どうしたとね?」
ドームから出てトイレに行き、またドームに戻ろうとしたその時、わたしは魔女から声をかけられた。
 魔女…助産院の魔女!!そう、わたしとさとみさんはここの奥さんのことを敬意を込めて「魔女」と呼んでいた。わたしの記憶違いかもしれないが、ここの助産院には産婦人科の医師と助産師がいるのだが、実質この産院を取り仕切っているのは医師の妻であり、その妻が魔女並みの能力というか、人間力を発揮してこの独特な助産院をつくっていた。そもそも、この魔女は有名な四柱推命の先生で本職は占い師(だったはず)なのだが、東洋医学や鍼灸、チャクラやアロマアーユルヴェーダから気功まで、あらゆる知識に精通していて、もしくはその知識をもった人を院に呼んで、なるべく医療に頼らない出産を行っていた。
 妊娠中も「第一チャクラが開いてないからねえ。。。どーのこーの。。」とか、出産が近くなった妊婦にはカッピング療法で腰回りを緩めたり、よもぎ蒸しをさせたり、薬や注射はなるべく使わず。なんなら本当に魔女で、出産の日も時間も実はわかっていて、直前にしか現れない裏キャラじゃないかとすら(わたしとさとみさんの間で)噂されていた。まあ西洋医学一辺倒の人からしたら、なにその病院だいじょうぶ?怪しくない?と言われてもおかしくないような、でも、東洋医学好きからしたらたまんない助産院だった。
 そんな素敵な助産院を取り仕切る魔女が突如わたしの前に現れた。いや、満を持しての登場である。
「ちょっとあなた!こっちおいで。そんなに身体に力が入ってたら、産まれるもんも産まれんやないね。」
 魔女にそう言われた瞬間、なぜかわたしの両目から涙が溢れた。なぜだかわからないけど、初めてわたしの出産に本気で誰かが入ってきてくれた気がした。そしてそのま、緊張した身体をほぐすべく、わたしにもカッピング療法が施され、わたしはずっと泣きながら魔女と話した。
 「あんたさぁ、ヨガとかやりよるけん、自然なお産して、自然な子育てとかしようとか思っとるやろ?」
「あ、はぁ…。」(戸惑うわたし)
「だいだいヨガとかやりよる人はそんなんあるもんね。そんな思い通りにいかんけんねー。
いいね?離乳食を手作りしようとか思わんとよ。売ってあるもんでいいけんね。」
「はぁ…」(図星すぎてなにも言えないわたし)
「あと、自然の中で自分で育てようとか思わんどきーよ。あんたシングルやろ?すぐに保育園入れるとよ。自分で育てるとか無理やけんね。」
「はい…、わ、わ、わかりました」(わたしなぜか号泣)
カッピングされながら、魔女から説教を受けながら泣くわたし。
そして「ちょっとー!この子見てやってー!」と魔女が助産師さんに声をかけ、診察してもらうと…見事!子宮口全開…!!!!恐るべし魔女パワー!!
オープン・ザ・ゲート。
出産への扉はこうして開かれた。

そして、本当の出産はこれから。

陣痛から33時間を経過した二日目の昼だった。


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