陣痛ガールの出産日記 その3

「それでは分娩室に移りましょう。」
魔女のパワーで念願の子宮口全開へと導かれたわたしは、陣痛から2日目の昼を超えて、ようやく待ち焦がれた分娩室の扉を開けることとなった。ここで初めて出産するための入院着に着替え、いちじく浣腸をして出産の準備を整える。人生初のいちじく浣腸で不安だったが「いちじく浣腸がいちばん効くのよぉ」と魔女は笑いながら言った。
確かに浣腸をしてすぐに便意が訪れ、わたしはトイレに駆け込んだ。実は、人間の身体の不思議として、本来なら出産の前に自然に下痢になり、うんこを出し切ってから出産になるという機能があるらしい。確かにあんなに出産で力むなら、うんこが一緒に出てもおかしくない、とわたしは秘かににらんでいた。俗にいう“うんこか赤子か問題”である。   
勉強熱心なわたしは、出産を経験した友達にアンケートを取り『出産時にうんこをもらしてしまったかどうか』を事前にしっかり調査していた。「一人目の時はわからなかったけど、二人目の時は余裕あったからちょっと気にしたら、もらしてたわ…。」とか「いや!絶対にうんこは出てない!」等、意見は様々だったが、助産師の友人曰く「最近の人は半数以上は出産と同時にうんこも出ている。いちおう下剤も処方するが、それでも漏らす。でもそこは助産師の腕のみせどころで、ササっとわからないように処理するので、気づかない人が多い。」とシビアな情報を教えてくれた。つまり、自称“もらしてない私”の人も助産師のササっとに助けられ漏らしてないと思っているだけで、実は漏らしているの可能性が高いのである。なんとも大問題!!
なので、わたしはこの問題に挑むべく、うんこは出し切る!を心に決めていた。そして迎えたトイレタイム。下剤のおかげで確かに便意は訪れ、しっかり出し切った…つもりだったが、なんと!出しても出しても便意というか残便感(という言葉があるのかわからないけど、残尿感の便バージョン)が拭えない。いちじく浣腸でしっかりゆるんだはずなのに、確かにでっかいうんこがそこにある。
「すいません。もう一回トイレに行ってもいいですか?なんか…なんか…。」
何度もトイレに行くわたしを見かねて、助産師さんが声をかけてきた
 「それ、便じゃなくて、たぶん赤ちゃんですよー。」と。なんですと?!これは便ではなく、赤子??確かに子宮口全開ともなれば赤ちゃんはそこそこ降りて来ている。そりゃ肛門近くを刺激してもおかしくはない。が!確かにそれは便意以外のなにものでもないのである。まさかの“うんこか赤子か問題 ~事前準備編~”がここに存在した。
 その後も何度もトイレに駆け込み、うんこか赤子かわからない何か(いや、今思えば確実に赤子)をひねり出そうと意気込むも、当然うんこも赤子も産まれず、ますます強烈に襲ってくる陣痛にわたしはひたすら耐えていた。
 そんな時、助産院に思わぬ助っ人が現れた。
「あんた、まだ産まれんとね?」                   突然現れたのは、わたしの母である。ご多分に漏れず、母も出産に反対していたので、もちろん出産に立ち会う気はないと告げられ、なんなら連絡も絶っていたが、一応、陣痛が来たことと助産院の場所を伝えていた。ら、やはり娘の様子は気になっていたのだろう。友人の手を借りて、遠路はるばる駆けつけてきたのである。
こうして陣痛ボロボロガールの出産に立ち会うメンバーがここに揃った。奇しくも予定していた友人達は全員出払い、出産に立ち会わないはずだった母と妹が立ち会うことになってしまったという思わぬ展開で。
赤ちゃんは出産に立ち会う人を選ぶというのは本当かもしれない。

 しかし、分娩室に移ったもののそう簡単には産まれるはずはなく、魔女っ子ハウスもとい助産院特有のなるべく医療的介入を行わないあの手この手で、赤ちゃんをおびき出す作戦が次々と実行された。
 その1『タロットカード』
なぜかおもむろにタロットカードを引かされて、なぜ赤ちゃんがなかなか産まれないのか占う。ていうか!!思えば陣痛中にタロットカード2回引かされたけどさ、全く内容覚えてないけど、確実に陣痛の合間に2回引いたわ。あれは何だったんだろう…。
 その2『アロマテラピー』 
好きなアロマを選んで香りをかぐ。が、もはや陣痛が痛すぎて、香りがどうとかどうでもいいわ。けど、しいて言うならこの香りが好き、、かも、、、みたいな。アロマが脳内の奥底で出産に良い効果が出てた、ってことにしておこう。
 そうそう。この助産院では、タロットやアロマをやるのは近所のおばちゃん達で、お産を地域で支えるという、当時としてはまだ新しいドゥーラシステムが採用されていた。他にも気功の先生や鍼灸師、マッサージ師など、こんな田舎に実力者が!みたいなメンバーがゴレンジャー的に存在しており、驚くべく能力で魔女ハウスを支えていた。
 そんなこんなで、あの手この手で産まれるように促されるもなかなか産まれないわが子。

そこで突如、魔女の口から思いもよらない質問が
「あんた、こどもの名前は決めとるとね?」
「え?あ…ハイ。ら、楽太郎にしようかと…。」
そうなのだ。わたしは悩みに悩んだ挙句、産まれてくる子供の名前は“楽太郎”に決めていた。強いて言えば、笑点の中では楽太郎派で、ちょっとずる賢い彼のキャラが好きだったし、当時、楽太郎さんはちょうど圓楽を襲名。楽太郎の名は空いていた(いや、空いてるとかいう問題じゃねー、ってのはわかってます。)なんなら、ちゃんと姓名判断も診てもらって、画数的にも問題ないとのお墨付きであった。そんなわけで、産まれてくる子供の名前は楽太郎!そう決めていた。が、そこは魔女。そんな楽太郎への想いもなんのその
「…あんた、そんな名前やけん産まれんとよ。」
「へ?」(言葉にならないHe?)
「誰か、お世話になった大切な人とかおらんとね?」
「あ、えと。えと…。祖父が…祖父が、そういえば最近亡くなったんですが、けっこう可愛がってもらってました。か、な??」
「そのおじいいちゃんの名前はなんていうとね?」
「えと、えと…、敬助、けいすけ…です。」
「んじゃ、敬太ね。けいた!!敬太郎でもいいよ。ね。ね?」(と周りのお手伝いのおばちゃんに確認。)
「けいちゃーん!! けいちゃーん!!」
一斉に名前を呼び始める魔女とおばちゃん達。
「え??え?けい、た??けい、たろう?」
戸惑うわたし。
「けいちゃーん!けいちゃーん!出ておいでー!けいちゃんーん!」
突然始まったおばちゃん達のけいちゃんコール。氷川きよしもびっくりのけいちゃん!コールの合唱である。
 すると、なんということでしょう!
「ほら、下がってきた。ほらね、けいちゃんがいいとよ。」
マジで頭が下りてくる楽太郎、改めけいちゃん。マジかっ!!お前、けいちゃんだったんかっ!!

そして、本当にだいぶ下がってきたけいちゃん。(笑)
確実に股の間に頭があるのがわかる。いや、まだ出てはないけど。もううんこでないのはわかる。あれは頭!うん、わかる。
そうとなったらあとはタイミングを見計らって力むだけ。

 そこで「よもぎ蒸しせんね!産みやすくなるけん!」
出たー!よもぎ蒸し!魔女ハウス名物よもぎ蒸し!
わたしはさとみさんから聞いていた。
産まれる直前によもぎ蒸しをやらされると。なんでも特に寒い日は子宮口が緩みにくいので、温めることで産まれやすくなるとのこと。
 陣痛室は広い和室なので、その一画によもぎ蒸しがセッティングされる。 
ぐつぐつと煮えたぎる鍋と丸いイス。そして、股からけいちゃんの頭が出て(きそうでまだ出てはいない)わたし。
「これ、けいちゃんの頭、やけどしませんかね?」意外と冷静に聞くわたし。つーか、わたしもけいちゃん呼びよるし。
「大丈夫よ。絶対にやけどせんから。」
「わかりました。」
と、若干、頭を挟んでるので、モソモソしちゃうけど、よもぎ蒸しのイスに座るわたし。
「っつ!ああっちー!!熱っ!ふつうに熱っ!
てーいーうーか!痛って!陣痛!来てる!陣痛!来てる!」
「はい!陣痛来たら、よもぎ蒸しから出る!こっち来る!」
なんですと?!走って出産の布団に戻り、寝かされ、そしていきむわたし。
そう、この時はすでに陣痛は2,3分間隔。しかももうクライマックスなので超激痛!陣痛の痛みを10段階で表すと、もう最高のレベル10!
「はい!もう一回、よもぎ蒸し!」
なんと、陣痛が終わるとまたもやよもぎ蒸しに向かわされる。陣痛でボロボロ&股になんかおる状態でヨロヨロとよもぎ蒸しの椅子に座るわたし。
そして案の定
「っつ!いてててー!痛っつつつつ!!!」
「はい、陣痛来たら、よもぎ蒸しから出る!」
布団まで走るわたし。走るっつーか、よろよろと倒れこむ。
なんだこれ、ねえ。なにこれ。コント?よもぎ蒸しコント?
何度よもぎ蒸しコントを繰り返しただろう。繰り返す強烈な痛みと身体の疲れからもう布団から立ち上がれなくなったわたし。
すると「ほら!出産にはローズのアロマがいいけんね。でも、ローズは高いけんね。最後の最後、本当に産まれる時しか使わんけんね。もう産まれるけんね。」と突如、アロマ担当のドゥーラがアロマの原液を瓶ごとわたしに振りかける。
「あ、あぁ、ローズ…。ローズ…ですね。ハ、ハイ。。。」
そうか、、、もう産まれるんか、、、。体中から漂う甘いローズの香りをかぎながら近づく戦いの終焉に思いを馳せていた。
 が!そんな安堵を打ち破る、強烈な痛みが右足の小指に走った!!
「痛-っつ!!」思わず声が出る。                  「ここのツボ押すと出産が進むけんね。痛いやろ?ね?ね?押しとっちゃるけんね。」出たー!!魔女のツボ押し!すんげえ痛っ、ねえ、すんごい痛い。それ絶対爪で押してない?痛ぇえ!いや、陣痛も痛いし。もう、なにこれ全部痛い!
「はい!今いきんで!」
「いや、違いますっ!今じゃないですっ!」全てが痛すぎてちょっと冷静にキレるわたし。

 しかし、ここまで来ると陣痛の間隔も1分なので、いきむタイミングもだんだんわかってくる。あとは、呼吸とタイミングと力加減である。
「んじゃ次、大きな声出してみて。声が出ると力が入りやすいから。」
「わかりました!やってみますっ。」
陣痛きたっ!
「ぅおおおおお!!!!」陣痛と同時に大声を出すわたし。
が、ちょっと待て。まったく力が入らない。ただ高らかにデカい声だけが陣痛室に響く。そうだ!そうだった!!わたしは生粋のロックミュージシャン(Vo&Gu)。しかも中学高校の6年間の合唱部を経て、20年ライブハウスで叫んできた。そんなに力を入れなくても大きな声は容易く出せる。よし却下!大声作戦イミなし!はい、終わりっ!
 なんならアシュタンガヨガで鍛えたウジャイ呼吸で激しく誰よりもチカラ強く呼吸をしていたわたし。(※ちなみにウジャイ呼吸とは、腹圧を高めて行うパワフルな胸式呼吸である)なぜか、多分、きっと、あまりにも呼吸音が激しすぎて呼吸困難を起こしていると思われ、陣痛室に酸素ボンベが運ばれてきた。
「え?酸素?いや、あの、いや、大丈夫…です。」
という声も届かず、全然苦しくもなんともないけど酸素マスクを装着されるわたし。いや、ここは専門家からすると本当に呼吸がヤバかったのかもしれないが、よくわからないまま酸素マスクは装着された。
 ボロボロの身体に酸素マスク、足はツボ押しで押されながら、服からは甘いローズの香り。そして1分間隔で襲う強烈な痛み。その中で何度もいきんだのだろう。でも、なぜだかうまくいかない。なかなか産まれない。もう何がなんだか、どこをどう進んだらいいのかわからなくなり、
「もう産めませんっ…!!」
突然、わたしは泣きながら訴えた。
だってめっちゃ痛い。めっちゃ苦しい。ずっと痛い。ずっと苦しい。何度いきんでも出てこない…。気づけばわたしはいきむことをやめていた。もう眠気と疲れがマックスだった。思うように進まないお産に苛立ち、ヨガで鍛えた身体も、ひとりで頑張ってきた妊娠も出産も、全てが嫌になっていた。

 -----バシーンッ!!
「あんたが産まんと誰が産むとねっ!!」
魔女のビンタがわたしの頬に飛んできた。
もしかしたらわたしの意識が朦朧としていたので、起こそうとしてくれたのかもしれない。しかし、それはトレンディドラマのように、わたしの心と頬に飛んできた。
「…!!はぃいいい。産みますぅうう。」わたしは泣きながら応えた。
そうだ。わたしは産まなきゃいけない。ていうか、産むのはわたししかいない。そうだ!そうだった!つーか魔女怖えぇ。今、ビンタしたよね、よね。
 
そして、その時。
…ガラリ。分娩室の扉が開いた。
奇跡のタイミングでその人は現れた。
この助産院の医師である斎藤先生である。斎藤先生は日中は他の病院に勤務されているのだが、そこの勤務も終わり、なかなか産まれない妊婦の様子をのぞきに来たのである。
斎藤先生の登場でにわかに沸き立つ会場、いや分娩室。そこで一気に産まれる雰囲気となり、さあ最後の戦いが幕を開けた。 
 子宮口全開からの赤ちゃんの頭もすぐそこ。陣痛も最大級に強さとなり、あとは数回いきむだけ。わたしもなんだか、もうここで産まないといつ産むよ、ていうか、もうだいぶ出産にも飽きてきて、そろそろ出さないと面倒くせぇと惰性全開になってきた。なんといってもあと15分以内に産まないとその日の入院扱いにならずに、夜ごはんが配給されない。今日のメニューは確か牛肉のなんか良さげなやつだった。ここまで耐えたのに晩ごはん抜きとかありえねぇ。産む!産む!わたし産むーーーっ! 
 そう決めて次の陣痛に備える。待たずとも陣痛はやってくる。来た、来た、来たーっつ!陣痛来たーーーっつ!いきむーっつ!!はい、いきみまーっす!!
驚くことに最後はあまり痛みを感じなかった。ただ、ひたすらに腹に力を入れる。そのタイミングで斎藤先生が腹の上から赤子を押さえて下におしだす。さすが助産院!あくまでも人力。さすが!
足元にはツボ押している魔女、助産師さん、アロマのおばちゃん、と他に何人かのおばちゃん。頭上にはわたしの母。隣には妹。腹の上には斎藤先生。もはや総勢何名いるのかわからない大所帯で迎え撃つ臨戦態勢。
そしてその時は来た…!!
「はい!頭出てきたよー。そのまま力抜いてー。そうそう、上手上手。」
あれ、あれ、なんか産まれたっぽい?
オギャーー!(か、ビェーンだったか覚えてないけど、ちゃんと泣いた)
絵に描いたような鳴き声が赤ちゃんから聞こえて、いっせいにおめでとう!のコールがかかる。産まれた!はい、産まれました!産まれたーーーーっつ!!!

が!!わたしは冷静だった。                     あの問題が待ち構えている。そう、“うんこか赤子か問題”である。わたしは全神経を自分の嗅覚に集中させた。そして。
…うん。うん、、、うんん。出とる。これ、は、出とるな。あれな、確実に出とるわ。足元で助産師さんが、赤子と一緒にササッと処理したわ。今。うん、出とったな、今。ササッとな。ササッとやってくれたわ。
 「じゃあ、胎盤出るのを待ちますね。」そう言いながら、助産師さんが優しくお腹をマッサージ。そうこうしているうちに処置が終わった赤子改め、けいちゃんが運ばれてきた。
「カンガルーケアしましょうね。胸にのせますねー。はい。」
そう言って、産まれたばかりのけいちゃんがわたしの胸に乗せられた。夢にまで見たカンガルーケアの瞬間である。
がっ!…やべぇ。全く感動しない!!うんこか赤子か問題で現実に戻ったわたしにはカンガルーケアが全く響かねぇ。それよりもこの長い闘いが終わったこと。何よりももう痛くないこと。わたしが頑張ったこと。うん!ほんとわたし頑張った!つーかキツかったわぁと思うと泣けてきて、待望のわが子との対面よりも、自分への労いのほうが何倍も泣けるぅ。ごめん、けいちゃん。
「じゃあせっかくなんで、お母さんと妹さんでへその緒を切りましょうかね。」とさらに感動的なセレモニーが始まった。が、わたしは、ハイハーイ。へその緒ね、オッケオッケー切って切ってー、みたいな。もう長い闘いが終わったことが嬉しくて嬉しくて。赤子の人生のスタートより、自分への労いが大事!みたいな。

 なんならうちの妹でさえも、この過酷な出産の一部始終を見届けた者として「わたし将来、出産したくない…かも。」と感動よりも過酷な出産に立ち会ってしまったことへの後悔のほうが先立ち、へその緒カットの感動をあまり覚えていない、というありさまであった。

 こうして40時間にも及ぶ出産劇は、その過酷さが感動を上回り、赤子以外は全員は満身創痍という結果で幕を閉じた。
 
 

 振り返れば、多くの友人に立ち会ってもらう予定が、結局は出産を反対していた家族に囲まれた出産となり。たまひよ調べでは13時間で終わるはずが40時間もかかり、ヨガで鍛えた身体も呼吸もなんのその。美しい出産とは無縁の汗と血と涙と、なんならう〇こみまみれた出産だし。陣痛来てるのにジョイフルでドリンクバーだし。

 つーかさ!名前なんて、せっかく時間をかけて考えた名前が、おばちゃん達の意見で一瞬にして変わるし。もうまったくなんなんだ!まったくもって思い通りにいってないじゃないか。
 

 でも、そうなのかもしれない。出産がその子の人生のスタートだとするのなら、この子の人生はきっとこれからもわたしの思い通りにはいかないのだろう。いや、人の人生なんて、我が子だろうときっと思い通りにはいかないのだ。 
 ただ、この出産には多くの人の想いがあった。思った以上の人がこの子の誕生に関わり、つながり、手を、身体を、なんなら宿を貸してくれた。こんなに多くの人が関わる出産があるだろうか…。きっとこれからの人生もこの子は多くの人と関わっていくのだろう。

「足りないことは素晴らしい。」
後に、わたしが出会う心の師匠ていうかおもしろい尊敬するおっちゃんTAOさんこと波多野さんが言っていた。                  「何かが足りないと、そこにきっと手を差し伸べる人が現れる。だから足りないことを悲しむ必要はない。足りないことは素晴らしいことだ。」   
そうだ。わたしたち親子に足りないものはたくさんある。でも、その足りないものをカタチは違えと、色も違えど、多くの人の想いのカケラが埋めていく。それは求めたものとは違うかもしれないが、そのいびつなカケラが築いていくものがこの子の人生だ。

 
誕生おめでとう。

多くの人の手の中であなたは産まれた。
関わってくれたそれはもうたくさんの友人、知人、家族、助産院のスタッフ、よくわからんおばちゃん達、ありがとう。

最後に。

実は、わたしはこの子を産むべきかどうか迷っていた時期があった。でもなんとなくこの助産院に来たら何か答えが出る気がして、何をどう言って訪れたのかは忘れたが、かなり初期の段階でこの助産院を訪れていた。 
助産師さんは多くは聞かずに、ただ赤ちゃんの不思議としてこう話してくれた。
「赤ちゃんは自分の意思で産まれるかどうかを決めるそうです。だから、きっとあなたが産むべきかどうかじゃなくて、その子が産まれたいと思ったら産まれてくると思います。あなたは考えなくていいんじゃないかな。」と。
 その否定も肯定もしない優しい言葉に抱かれ、この子の命は育っていった。多くの人を巻き込み、翻弄し、誕生した命。
  
2014年11月29日 午後7時48分 
2956グラムの元気な男の子 佐伯 敬太 誕生 
命名:助産院のおばちゃん達

~人生はつづく~笑


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?