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医療の未来へ:世界初の全眼球移植への挑戦

目の角膜移植は以前から行われており、iPS細胞で作製する研究も進んでいます。1つ臨床ケースを紹介しておきます。

角膜とは、眼球最前部の透明な無血管組織で、いわゆる“黒目”の部分を被っています。この透明なシートが防波堤となって細菌などの侵入を防いでくれます。つまり、これがないと視力悪化リスクが高くなるわけです。

角膜移植自体は、他者またはiPSによる培養いずれも事例が増えてきましたが、それ以外の領域には踏み込めていません。

そんななか2023年、全眼球を移植した手術が初めて米国で行われました。その解説記事をみつけたのでかみ砕いて紹介します。

この患者は、2021年に高圧線路の作業中に電気事故で負傷しました。その際に利き腕である左腕、左目、あご、鼻を失い、2年間、固形物を食べることも、味覚や嗅覚を正常に感じることや話すこともできませんでした。

そして2023年5月、ニューヨーク大学の医療センターで史上初の全眼球移植(含むその周辺)手術が行われました。21時間にも及ぶマラソン手術だったとのこと。

眼球移植については過去前例がなく、成功の見込みは高くなかったそうです。あくまで将来の医療のため、ということでこの患者がそのリスク(そのために免疫抑制剤の服用が必要)を引き受けてくれました。心から尊敬に値します。

今回の医療技術としてのポイントは2つあります。

1つは眼球は他の顔面と別の独自血流ルートがあり、それを既存(ドナー提供)から引きはがして新しい眼球に再接合する方法でした。これは時間との勝負です。なんと切り離した後に、首にある動脈から血液を臨時供給するという手法をとり、無事に成功しました。

2つ目は、3Dで画像化することで、ドナーとの相性を正確に測ることができるようになった点です。

眼球なので物理的なサイズがほぼ合っていないと不都合なのは、素人目にもわかります。それをCTスキャンで基礎データをとり、3Dマップを作製して手術中にもそれが大活躍したそうです。

なお、移植自体は成功し、眼圧や血流も良好で、なによりセンサーにあたる網膜部が光に反応する挙動を示しています。

ただ、まだ新しい目で見ることはできてはいません。

とはいえ、眼窩の奥にかゆみを感じ、目の周囲の感覚は戻りつつあるようです。

担当医師によると、あとは目の周囲にある末梢神経が自然再生する可能性にかけているようです。もっといえば、その神経再結合が一番難しいハードルで、これには脳やせき髄の再生方法が見いだされないと厳しい見立てをしています。

ただ、明るい兆しを触れると、マウスの脳にニューロンを追加することで修復したという実験成果が2024年4月に報告されています。

まだ時間がかかるかもしれませんが、将来的には全眼球移植が完全に成功する日は来るかもしれません。なによりも、この勇気ある患者に改めて敬意を称して締めたいと思います。

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