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スタートアップのメインバンクであるシリコンバレーバンク(SVB)が突然の破綻。その理由と買収候補をAIと共に考える。

全米16位の規模を誇り、スタートアップ向けのメインバンクともいえるSilicon Valley Bank(シリコンバレーバンク、SVB)が、2023年3月10日に連邦預金保険公社(FDIC)の管轄に入り、事実上の経営破綻。2008年のワシントン・ミューチュアル以来、最大の銀行破綻となり、特にスタートアップでの連鎖的な資金繰り悪化が懸念される。

ここでは、直前まで業績が好調であったSVBがなぜ破綻していったのかを、AIの意見も参考にしながらまとめている。
なお、文中使用しているSVBの財務数値は、SVB単体ベースでなく、持株会社であるSVB Financial Groupを含む連結ベースの数値であることにご留意願いたい。


Silicon Valley Bank(シリコンバレーバンク、SVB)とは

カリフォルニア州サンタクララに本拠を置く1983年に設立されたスタートアップ向けに特化した銀行。
米国の約半数の、また2022年にIPOした44%のテック・ライフサイエンス系企業がSVBと銀行取引を行っており、スタートアップにとってのメインバンク。

出所:SVBホームページ

2022年12月末時点での総資産は約2096億ドル預金は約1731億ドルで、全米16位の銀行。
最近MUFGがUSバンコープに売却したユニオンバンクの総資産は1044億ドル。SVBはその2倍の規模
2023年3月8日に自主清算を申請したシルバーゲート銀行の総資産は約113億ドルで、SVBの大きさが分かる。

米国銀行ランキング(2022年末) 出所:FRBのデータを加工

シリコンバレーバンクのビジネスモデル

基本は銀行なので、貸出や有価証券への投資によるリターンを得るというビジネスモデル。ただし貸出先がユニークであることが、SVBの競争力の源泉。

同社プレゼンテーション資料によると、貸出におけるメインはGlobal Fund Bankingという領域。

主に、LPのキャピタルコミットメントを担保としたPE/VCへのキャピタルコールクレジットラインがメインの貸出となる。よって、スタートアップ向けの銀行と言いながらも、実態はVCなどの投資ファンド向けの貸出で儲ける構造となっている。同社によれば、1983年の設立以降、同領域における貸倒損失は1件しか発生していない。LPの内訳として、機関投資や年金ファンド、優良コーポレートなどが多いことを考えれば、貸倒がほとんど発生しないことも納得。

Private Bankと区分される領域での貸出も大きいことは同社の特徴。これはIPOもしくは順調にシリーズファイナンスを重ねるスタートアップの株長者オーナー(現金は乏しいが、株式価値では超富裕層になっている)向けの住宅ローンだ。通常、ユニコーンクラスのスタートアップと言えども、株式の流動性は低く、そうした会社の創業者には、常に借入ニーズあるものの、伝統的な銀行では与信を得られにくい領域を深掘りした格好だ。

次に大きいのは、スタートアップへの貸出(Investor Dependent)となっている。

通常は貸倒率が高いと言われるアーリーステージやシリーズ前半のスタートアップ向けの貸出(Investor DependentにおけるEarly Stage)は全体の3%未満となっている。

こうした与信先のリスク管理が、貸倒率を抑えながら、2000年初頭のテックバブル崩壊や2010年前後のリーマンショックを乗り越え、SVBが健全な成長を遂げた背景と思われる。

余談だが、Premium Wineと区分される高級ワイン生産者向けの貸出も行っている点も、ナパバレーという一大ワイン産地を擁するカリフォルニア発祥のSVBの特徴ともいえるだろう。

出所:SVBアニュアルレポート

シリコンバレーバンクが破綻した理由

一見、順調な成長を遂げてきたSVBであるが、2023年3月10日に連邦預金保険公社(FDIC)が管財人となり、突然の破綻となった。
SVBの過去5年間の純利益と純資産の推移を見る限りでは、利益も計上し、純資産も積み上げており、健全そのものだ。俄かに破綻するとは考えにくい。

シリコンバレーバンクの純利益と純資産推移


SVBが破綻した理由として考えられるのは、以下の2点だ。

流入する預金量に比べて貸出先が限定的

過去数年は、スタートアップのバリュエーションも大きくなり、その結果、スタートアップの資金調達額も増加していった。スタートアップのメインバンクであるSVBへ預金が集まっていったことは想像に難くない。

VCへの資金流入額とGDP比率の推移

その結果、同社の預貸率が急低下していった。貸出先難に苦しむ日本の銀行でさえ、預貸率は60%程度の中で、同社の割合は2021年に40%を割った。


シリコンバレーバンクのバランスシート

預金には当然利払いが発生するため、同社が注力したのは米国債や住宅ローン担保証券(MBS)での運用だ。シリコンバレーバンクの投資有価証券残高の推移を見てみても、その増加ぶりが分かる。

過去数年で大量に流れ込んだ預金のために、バランスシートの規模は大きくなったが、その反面、市場での運用という、SVBが得意とする領域以外でリスクを取ることになった。

シリコンバレーバンクの投資有価証券残高推移

FRBによる政策金利の引き上げ

追い打ちをかけたのは、急激なインフレとFRBによる政策金利引き上げだ。SVBは、金利上昇によって有価証券の含み損を抱えることになった。もちろん、満期まで持ち続けられることができれば、含み損は顕在化しないのだが、金利上昇によって、VCからの資金調達が絞られた多くのスタートアップが資金繰りのために預金を引き出す形となっていった。

このスタートアップの資金調達環境の悪化によって、SVBに集まった預金の流出が加速、その結果運用していた有価証券の売却を迫られたわけだ。

通常、銀行ではALMの視点から、調達と運用の期間管理を行うが、SVBがどの程度緻密なALM的な運用を行なっていたかは不明だ。

3月8日の同社のポートフォリオセールのIRによれば、売却対象とする有価証券(米国債など)約210億ドルの金利は1.79%、売却損は18億ドルになると発表している。

SVBは2022年末時点で、1220億ドルの有価証券を保有しており、この一部のポートフォリオの売却損の発表によって、信用不安が加速、スタートアップによる防衛的な預金引き出しが続き、FDIC管理下に入ることとなった。

今後の影響

  • スタートアップ領域向けの特化型銀行の破綻ではあるが、全米16位かつ総資産で約28兆円の銀行が破綻したことを考えれば、今後この手の特化型銀行の連鎖破綻の可能性は否定できない。

  • 特に、預金引き出しに伴う流動性悪化を、保有・運用する有価証券の売却でまかなおうとした場合に、SVBと同様の構図が現れると考えられる。実際、日本の銀行でも、満期保有目的として顕在化していないだけで、大手行含め多くの銀行は米国債での多額の含み損を抱えている。

  • VCが新規資金を絞る中で、ランウェイを伸ばすためのベンチャーデットは有力な資金調達手段となりつつあったが、その最大手の破綻は、スタートアップの資金調達環境をさらに悪化させ、有力スタートアップの資金繰り破綻シナリオの可能性も現実味を帯びる。

  • FRBは、インフレが収まるまで政策金利の引き上げを継続させる予定であり、有価証券の含み損は拡大すれども、縮小や解消する見込みは当面ない。

シリコンバレーバンクのEXIT先

SVB破綻に伴うマクロ的な影響はさておき、言ってみれば「出会い頭の事故」的な形で資金繰り破綻したSVBは、多くの投資ファンドにとって垂涎の買収先候補であることは、改めて付け加えたい。

SVBは、VCやスタートアップへのデット供給というシリコンバレーのエコシステムにおける重要な役割を演じ続けている。その人的なネットワークや知見の積み重ねは、模倣困難性が高い。
今回は、たまたま市場での運用に失敗し、預金流出→FDIC管理下となったが、そもそも債務超過でもないし、上述した無形資産の価値は正直プライスレスだ。

日本政府や企業が、多額の資金を投じてシリコンバレーモデルを輸入しようとしているが、なかなか中核のネットワークに入れ込めていないように見受けられる。
日系金融機関が、SVBのスポンサーとして名乗りを上げ、シリコンバレーのネットワークの中核に一気に入るという選択肢もあるのではないか。

AIが提案する買い手候補10選

シリコンバレーバンクの買い手候補として考えられる10社は以下の通り。
(あくまでAIの勝手な予想です。)

  1. JPモルガン・チェース:世界的に有名な金融機関であり、技術分野への投資を強化するためにシリコンバレーバンクを買収する可能性がある。

  2. ゴールドマン・サックス:同様に、技術企業に注力しているため、シリコンバレーバンクの買収に興味を持つ可能性がある。

  3. アマゾン:アマゾンは既に金融サービスに参入しており、シリコンバレーバンクの買収によって金融サービス事業を拡大することができる。

  4. グーグル:グーグルも金融サービス事業に参入しており、シリコンバレーバンクの買収によってそのポートフォリオを拡大することができる。

  5. ブラックロック:シリコンバレーバンクはベンチャーキャピタル会社であり、ブラックロックは資産運用業界の大手であり、両社の事業が相補的であるため、買収に興味を持つ可能性がある。

  6. マイクロソフト:クラウドや人工知能などの分野で事業を展開しており、シリコンバレーバンクの技術力や人脈を活用して、AI、ブロックチェーン、サイバーセキュリティなどの新技術に対する投資を強化することができる可能性がある。

  7. フェイスブック:同社も金融事業に参入する計画を進めており、シリコンバレーバンクの買収によって、銀行業務を展開するためのライセンス獲得、金融サービスの拡大などを図ることができる。

  8. アリババ:中国の大手IT企業であり、米国内での金融事業展開を目指しているため、シリコンバレーバンクの買収を通じて、米国市場でのビジネスの拡大を図ることができる。

  9. ソフトバンク:同社はシリコンバレーバンクの大株主(注)の一つであり、既にテクノロジー企業への投資を進めているため、シリコンバレーバンクを完全子会社化することで、既存のポートフォリオに新しいアクセスを得ることができる可能性がある。

  10. ブルームバーグ:金融情報サービスを提供するブルームバーグが、シリコンバレーバンクの買収を通じて、ベンチャーキャピタル業界での新たなビジネスチャンスを追求することができる可能性がある。

(注)未確認情報

その後について


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