
【エッセイ】声で書く、足で直す
猛然と肩こりに悩んでいた。最初にもうダメだ、と思ったのはずいぶん前、ジョン・アーヴィングの『未亡人の一年』という本を訳していたときで、上下2巻で合計1000ページ近くあったのかな。それをキーボードでシコシコ打ちながら訳していたら、もう本当に肩も回らない。首も回らない。人生も行き詰まり、という感じになってきて困った。
当時は普通のローマ字入力だったのだが、親指シフト、という富士通独自の入力方式に変えたら半分の回数しか打たなくていいと聞きつけて、もう当時ですら全然流行っていなかった親指シフトの教本を買い、頑張って身につけた。それでも効果はまあまあ、ぐらいだった。いくら親指シフトだって、やっぱりキーを打たなきゃならない。
それで使っているキーボードが悪いのかな、ということになり、けっこう高いものや人間工学キーボードといった特殊なやつなど、いろいろと試してみた。それでも、である。確かに高級キーボードは安いものよりは疲れは少ない。しかしながら手で打つかぎりは限界がある。
これはもう、手で打つのをやめるべきではないのか。それで音声入力を試してみた。だが当時は入力精度に問題があって壁にぶち当たってしまった。それで結局、ストレッチをしたり整体に通ったり、という受け身な対策でごまかしながら生きてきた。
しかしながら時代は変わった。一時期、勝間和代にハマってエッセイを読んだりYouTube を見たりしまくっていた、そこで彼女が言うのである、 Google 音声入力は今、ものすごく精度が高い、と。それに気づいたのは去年ぐらいだろうか。早速やってみた。
これはすごい。で、今ではこうした文章を書くのも、翻訳をやるのも、基本的には音声入力である。とはいえGoogle 音声入力が全然、間違えないわけではない。僕の使い方では、あとから句点や読点なども入れる必要もある。
こういうものも手で打って直すのがだんだん嫌になってきた。それで最近、導入したのが足のキーボードだ。なんだそれ、と思う人も多いかもしれない。これも勝間和代から習ったのだが、今はペダル式の足用キーボードが出ているのである。

僕が使ってるのはエジクンというメーカーのものだ。たぶん体に障害がある人用に開発されたものだと思うが、障害がない人にもすごく使いやすい。最初は三つキーが付いたものを使っていたが、すぐに足りないということになって、もう一個増やした。で今ではキーは合計6つである。
これに句点、読点、リターン、スペース、バックスペース、それに左クリックを登録してある。文章を直すときに頻繁に使うのはこれぐらいだ。だから声で入力して足で修正する、というかなりアクロバット的な入力方法に落ち着いた。
正直言って昔と比べて全然肩がこらない。疲れにくい。感動である。ソフトもハードもどんどんと僕好みの方向に進化してくれていて、本当にありがたい。