【書評】渡辺靖『白人ナショナリズム』--共感と励まし
とにかく著者の行動力がすごい。ものすごく危険な感じのアメリカの右翼団体の人とか、ヨーロッパ各国から入国拒否されている政治運動家などにもガンガン会いに行ってしまう。
そして彼らの意見に耳を傾けたあと、違うことは違うとはっきり言う。もちろん、きちんとした話し合いにはならないわけだが、それでも互いに耳を傾けなかったわけではない、というところに意味がある。
そこで浮き彫りになってくるのが、あいも変わらぬグローバリゼーションの負の側面だ。世界のグローバル化に伴って移民が流入し、アメリカでは白人の割合が減り、経済格差が拡大していく。
一握りのどんどん豊かになっていく人々と多くの貧しくなっていく人が出て、気づけばアメリカの中産階級はボロボロになっている。中年の白人層の寿命がどんどん短くなっている、という統計は以前にも言及したが、麻薬の過剰摂取や自殺で多くの人が亡くなっている状況はやはり問題だろう。
ここで必要な真の解決は、貧富の差をできるだけなくす、という方策なのだろうが、それには社会的に膨大なコストがかかる。そこで出てくるのが、こうした白人ナショナリズムなどのイデオロギーだ。
自分たちは犠牲者で悪いのはあいつらだ、と考えると、少しは気分が落ち着くし、仲間ができた感じもする。問題は、それが真の解決にはつながらないし、むしろ社会の分断や暴力を呼び込んでしまうところだ。
こういう本を読むと、『アメリカン・ヒストリー X 』という映画を思い出す。父親を黒人に殺された青年が白人至上主義者になり、黒人を複数殺して刑務所に入る。そこで、ある黒人に親切にされ、命まで守ってもらう。徐々に主人公は心を開き、白人至上主義を捨てる。だが出所後、かつての仲間からは裏切り者扱いされる。
この本にも白人ナショナリズムを捨てた人の証言が出てくる。彼の言葉は重い。人間を属性ではなく個人として捉え、共感を深めることが大事だ。相手を上から説教するのではなく、むしろ自分の場合はどうしたかを語り、相手にも常に変わる可能性がある、と励ます。
もうこの表現で完全に正解が出てしまっていて、後は実行するだけなんだろうが、この実行が難しいんだよね。でも誰にとっても、こうして互いに支え合うことは、人生の多くの時間とエネルギーを費やすに値する作業だと思う。
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