《第10回SCCしずおかコピー大賞 独りごと反省会。》 vol.7
課題1 「静岡企業の東京進出を後押しするコピー」
・静岡で働きたくなる理由になってください。
東京進出を問うために、あえて静岡で働きたくなるかどうかを問う。いささか遠回りなコピーである。それでも、背中を押された審査員がいた、ということも考えてみたい。でも、前述しておきたいのは、私はこのコピーで背中を押されない、ということ。
ターゲットを就活生に代表される学生や専門学校生、高校生といった若者に定めている。まあ、中高年の背中を押すのも気を使う。中高年の背中には、というより両肩には、いろいろなものが伸し掛かっている。それらを無視しながら、勝手なことを言えば、説教されるのは必至だ。
要は、静岡という狭い地域だけの企業には魅力がない。だから、東京に進出して実績や規模、内容など企業のブランド力を高めてくれたら、静岡で就職する理由になるのでうれしい、というようなことである。
確かに、その言い分に合わせてブランド力を高めることができれば、ベネフィットを約束することができるかもしれない。しかし、その約束のためにサラリーをもらって働く人がリスクを背負えるのか? という疑問は尽きない。
その意味のおいて、大きなお世話と捉える人もいると思う。使命感があれば残業やむなし、という上司のコトバがパワハラになる時代、このコピーはどのように捉えられるのかは、世の中の人に改めて問うてみたい。
まあ、それでもファイナリストになるというのは、それだけ地元企業の元気がないと感じている審査員が多かった、ということのように思える。vol.6でお伝えしたように、総生産額(名目)を比較すれば、東京は100兆円を越えているのに対し、静岡は17兆円を越えた程度。業界の話であるならば、世の中の雰囲気を作るとも言われる広告、中でもご当地広告のメディアへの出稿は、比較できないほど少ない(そもそも、地元のメディアが限られている)。これでは、元気とか言っている場合ではない。
そこに未来への夢を抱えた若者の就職・定住などの社会問題が加われば、このコピーに期待を抱きたくなる気持ちもわからなくもない。だが、その審査の感情からくる問題は、同情を解決策にしていることにある。
私の解釈では、この課題が求めているのは、東京進出を目指すビジネスパーソンとそれを応援する人たちの前向きな気持ちの共感だ。そして、この前向きな気持ちの根拠は「後押しする」という後退を連想させないキーワードにある。このコピーにはバックアップする気持ちはなく、自らの希望を満たす懇願が横たわっている。
この懇願からは、発言する当事者の前向きさが伝わってこない。必死さも感じられない。他人任せなのだ。あくまでも私見になりますが、厳しい言い方をすれば「じぶんで目指しなさい」なのだ。
期待からくる懇願は受け手にとって負担となり、やはりベネフィットからは遠ざける。コピーはなんでも言っていいようで、実は言えないということを、このコピーは改めて確認させてくれたように思います。
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