気になるベトナムの権力闘争の行方
ベトナムは、一党制の国で、中国同様に党・政は不分です。つまり、党と政府は一体化していますが、実質的には党が上位です。したがって、ベトナムの事実上のトップは、党の書記長であるグエン・フー・チョン氏です。
今回、辞任した国家主席のグエン・スアン・フック氏は、対外的には政府トップの国家元首ですが、対内的にはトップではありません。「人がよく、決められない」(在越メディア)との辛口の見方もあるも、前首相として国内外の知名度は高く、権力闘争に敗れた末に、辞任を迫られたとみられており、チョン書記長への権力集中が強まるとの見方が強まっています。
実は、ベトナムでは、もう10年も、どこかで聞いた話である反腐敗運動の名を借りた権力闘争が続けられています。大枠では、保守派と改革派の争いであり、チョン書記長は保守派のドン、フック主席、ファン・ミン・チン首相と共には改革派とみられていました。中国同様に5年に一回党大会が開催されますが、2021年の党大会で、権力闘争に終止符が打たれ、保守派と改革派である程度の手打ちがされたかに見えていたのですが・・・。
党大会終了後、舌の根も乾かぬうちに、権力闘争は再燃、そして、今回の、副首相、さらにはその親分ということもあり国家主席の辞任にまで至った・・・という事の顛末のように見受けられています。
https://note.com/koji_sako/n/ncd73d9c25513
要すれば、うがった見方かもしれませんが、保守派のドンに誰も逆らえない状況になっている・・・のがベトナム政治の実情といえかもしれません。
ベトナムにおいては、所得水準が最も高いのは、米国傘下の南ベトナムで民主主義の経験のあるホーチミンを中心とする南部です。従来は、南部出身の改革派が一定の発言権を持っていましたが、改革志向の南部出身者は、国家の枢軸からは既に一掃されています。
現在起きているのは、北部・中部出身者のなかでの、保守と改革のステージとみることもできそうです。
約1億人の人口を抱えるベトナムにおいて、党員は約500万人とされています。人口のわずか5%ほど。この比率から、党員≒名誉職とみることはできるでしょう。その中に、北部、中部、南部の地縁が複雑に絡んで、権力闘争が行われていることを、フック氏の辞任は、図らずも世界に示してしまったといえます。
無論、それはあくまで党内での闘争の話。国が割れての論争でありませんし、事実上党傘下といえるベトナムの議員選挙では、半数近く落選する議員がいるとされ、国会では、かつて日本が持ち込んだ高速鉄道計画が、当時はコストがかかり過ぎると否定されるなど、ある程度のリベラルさは保持しています。
これは、隣の類似した体制の大国を反面教師にしているから・・・との見方もあります。
ただし、表面的にはともかく、水面下で激しい権力闘争が続いていることが露呈した最中では、党・政府幹部は、身辺の動静により慎重になるでしょう。
今、ベトナムは、民主国家と権威国家の分断の中で、上手く泳いで、ラストリゾートになり得ると注目されていますが、改革<保守が続く水面下の動きには、日本企業もまたより注意深くなる必要があり、党・政府お墨付き案件の場合は、ならさら、そのお墨付きを与えた幹部の基盤は盤石か、細心の注意で挑む必要はありそうです。