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デジャブ感強めのタイの下院総選挙
GWが明け、その期間は、すっかり夏の装い
近年の温暖化の影響なのか、春と秋が短くなっている気がしますが、しばらく寒暖の差が大きそうなので、皆様お気をつけください。
にわかに、タイの選挙が注目されています。5月14日が投票日で、タクシン派といわれるタイ貢献党がトップ、そこに、前回選挙で民主化を求める若者の支持を集めて躍進するも2020年に解党になった旧新未来党の後継の前進党が続き、2019年以降、実質的に軍を代表して国政を担ってきたプラユット氏が新設した軍系政党のタイ団結国家建設党や、旧設の国民国家の力党の支持率は伸び悩む・・・
そんな展開ですが、タイにおいては、上院250名は指名制、そのため、軍系政党の力が強く、下院500名は選挙で選ばれますが、首相指名は750名の過半数を取らねばなりません。
つまり、下院500名の過半数251名では足りず、さらに125名の積み増し、500名中の376名を押さえないと勝てない仕組みです。
そのため、今回、タイ貢献党が第一党になったとしても、連立は必須。国軍系政党と組む大連立も取りざたされており、他方で、タイ貢献党と前進党が組めば、政権交代も可能かもしれませんが、どうやら、その可能性は高くはなさそうです。
同国は、2014年に軍のクーデターで、タクシン派の政権が倒壊、2019年に総選挙で、軍は政党を立ち上げて政治に残り、つまり、軍の影響力の強い状態が長らく続いています。
タクシン派は、選挙になれば強く、地盤は北部と東北部なので、どちらかといえば地方重視です。他方で、都市部では、軍の影響力に嫌気を差して、民主化を求める若者の声もじわりと高まっています。旧新未来党が解党となった2020年以降、軍系政党の若者への圧力もあって、表面的な動きはコロナもあって一旦沈静化するも、コロナ明けと選挙が重なり、若者は選挙の場で、意思を示そうとしているように思えます。
そこに、王室の問題も絡んで、事情は複雑ですので、ご関心がある方は、こちらをご参照ください。
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/mhri/research/pdf/insight/as201221.pdf
同国は、前プミポン国王時代までは、政治混乱があっても最後は国王が押さえるという神通力がありました。
他方で、王室は、一説には世界一?ともいわれるほど資産を有しており、「サイアム」と冠のつく有力企業のオーナー、膨大な超優良不動産も所有しており、かつ批判は不敬罪となりますので、現ワチラロンコン国王になってからは、その点も在り方が疑問視されるようになっています。
今回の選挙は、タクシン派、若者、軍の3つ巴の様相で、デジャブ感は非常に強いですが、ポイントは、そろそろ、軍の影響力を抑制して、国王も立憲君主になって、安定した政治に移行できるのか、それとも、ずっと、混乱気味が続くのかという点でしょう。
どうやら、混乱自体は続きそうな気配です。
仮に、貢献党と団結国家建設党、国民国家の力党などの大連立になっても、軍の影響力は残り、民主化を求める圧力自体はくすぶることになるためです。また、万が一貢献党と前進党が組めば、軍のクーデターのリスクが燻ることになりそうす。
ただし、私はタイという国は歴史的には、かなりしたたかだとみています。アジア諸国・地域が軒並み欧米列強の植民地になった時代、英領インド(当時のミャンマーは英領インドの一部)・マレーと仏領インドンシナの緩衝地帯として、両国の影響力が高まる中で独立を維持、第二次大戦中も、日本軍が進駐して日本寄りに靡くも、日本軍の敗退後は、英国に靡いて上手く渡り切ります。
周りが心配するよりも、はるかにしたたかで、混乱しているようで、最後は、周辺国・地域の競争を上手く活用している感は強いです。
タイは、自動車産業においては日本の牙城ですが、近年は、中国勢のEVでの躍進が目立ちます。
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/report/2021/pdf/insight-as211217.pdf
このあたり、タイのしたたかな生き残りのDNAは健在と感じざるを得ません。また、表層的にはタイ人化が浸透していますが、バンコクを中心の華人の街・国でもあります。ルーツが中国という方はとても多い国です。
今回の選挙は、タイは日本産業の牙城、さらに、大手メディアがタイ・バンコクにアジア総局を構えていることから、注目度は高め、報道量も増えます。
研究者からすると、豊かになる前に老いる中所得国の罠に陥り、都市部と地方の経済格差が埋まらず、それを背景に、政治混乱が続くケースとして多々取り上げられることが多い国です。
ただし、少し歴史を俯瞰してみると、タイは、変わっていないのではないか、そうも思えます。世界中の人を呼び込み、強い国、競争力のある国の産業を呼び込み、国内に抱える課題は、時には力で押さえるが人々もまた実にしたたかに対応する、そんなザ・アジア・・・それは昔からそうなのだ・・・そうも思えてきます。
コロナが明け、選挙も無事に終わったら、・・・危惧もありそうですが、
そんな背景にも思いを馳せながら、日本とタイを往来するビジネスパーソン、観光客がますます増えることに期待したいところです。