短編 息をしている
そこには何食わぬ顔で本を眺める君がいた。
初めは何も気づかなかった。ただ通り過ぎた時、目の端に見覚えのある鞄があって立ち止まり、鞄、足、手、顔と見た。
間違いはなかった。顔はよく見えなかったけどすぐにわかった。
ただそのあとは、話しかけなかった。
確認したらただ通り過ぎ、目的の本の元へ行った。
話しかけたい気持ち、ないとは言えない。
でも今の自分が話しかけたい過去の自分の肩を掴んだ。
もういいんじゃないか?と。そう告げられた気がした。
そして本屋を後にし私は力強く拳を握る。
彼女が生きてそこにいた。
本当に嬉しかった。どうなったかが気になろうとも、再会を許されていないからこそ、嬉しかった。
願う、幸せであっててと。
願う、これからも生きててと、
願う、誰かを愛し、愛してと、
願う、ただ、願う。